[社説]「米国第一」の高関税政策を深く憂慮する
自由貿易が風前のともしびである。「米国第一」を掲げるトランプ次期米大統領は、関税を武器に保護主義の道を突き進もうとしている。世界経済に取り返しのつかない打撃をもたらすおそれがあり、深く憂慮する。
ペルーで16日に閉幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は「自由で開かれた貿易、投資環境を実現する」と明記した首脳宣言を採択した。
一方、ブラジルで19日まで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議は、昨年の首脳宣言で言及した保護主義の阻止を今年は盛り込まなかった。
自由貿易を守らなければならない。しかし、トランプ氏の再登板で保護主義の台頭を止めるのはもはや難しいかもしれない。2つの対照的な首脳宣言は、世界が抱くそんな焦りと戸惑いを映す。
国際社会の不安を尻目に、トランプ氏は米国第一の布陣を着々と固める。通商・産業政策を担う商務長官には、実業家のハワード・ラトニック氏を指名した。高関税を通じて製造業の国内回帰を実現すべきだと主張する強硬派だ。
関税が「辞書のなかで最も美しい言葉だ」と訴えるトランプ氏はすべての国に10〜20%、中国には60%の関税をかけると公言する。
実際に適用すれば、米国の平均関税率は2%強から18%弱にはね上がる。世界恐慌を受けて各国が保護主義に走った1930年代に匹敵する高い水準だ。
最大の標的となる中国は対抗措置を打ち出すだろう。互いに高い関税をかけ合う貿易戦争が激しくなれば、世界経済のデカップリング(分断)が現実味を増す。
国際通貨基金(IMF)は主要国・地域が互いに10%の関税を課すなどした場合、2026年までに世界の国内総生産(GDP)を0.3%押し下げると試算する。
それだけではない。経済のブロック化は各国の対立をあおる。それが第2次大戦の一因になった歴史を忘れてはならない。
なにより、保護主義が米国の経済にも負の影響を及ぼすことを認識すべきだ。高関税をかければ輸入品の価格が上がり、インフレの再燃につながる。世界経済の低迷は米国に必ずはね返る。
自由貿易が世界に繁栄をもたらす基盤であるという原点に立ち返るときだ。大きな恩恵を受けてきた日本には、トランプ次期政権を説得する責任がある。