[社説]内外の変化生かし夫婦別姓を
夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗り続けられる。そんな選択的夫婦別姓制度の導入に向け、具体的な議論を始めるときだ。
この問題は、長年にわたる政治の宿題である。1996年、法制審議会が導入を答申し、法務省も改正法案を準備したが、同制度に反対する自民党議員への配慮から国会に提出されていない。
もっとも同制度をとりまく環境が変わりつつある。経済界から早期実現を求める声が上がったのに続き、10月には国連の女性差別撤廃委員会が政府に実現に向けて民法改正を求めた。この勧告に法的拘束力はないが、2003年以降、すでに4回目である。
政界では9月の自民党総裁選で小泉進次郎元環境相ら複数の候補が賛成の姿勢を示した。与党の一角を占める公明党は衆院選の公約に導入を掲げた。衆院選でも争点となり、導入に意欲的な立憲民主党が議席を伸ばした。
石破茂首相は、就任後に発言のトーンを落としているものの、もともと導入に前向きだった。少数与党であるからこそ、与野党の枠を超えて課題に向き合い、どう見直したらよいか具体策を議論するチャンスではないか。
別姓の議論が停滞するなか、代わりに広がったのが旧姓の通称使用だ。しかし戸籍名が必要な手続きは多くあり、2つの姓を使い分けるのは大きな負担になる。パスポートのICチップに旧姓は記録されないなど、限界がある。
経団連も現状は「ビジネス上のリスクとなり得る」とみており、もはや放置はできまい。国際的にみても、先進国で夫婦同姓を義務付けるのは日本だけとされる。
家族の一体感が失われる、子どもが友人から指摘され嫌な思いをしたり、親との関係に不安感を覚えたりするといった反対論がある。だが多様な価値観・家族を受けとめる社会に変えていくことこそがいま求められている。
別姓はあくまで希望者に新たな選択肢を示すものだ。時代にあった活発な国会論議を求めたい。