[社説]「夫婦別姓」の選択肢を今こそ
希望すれば夫婦それぞれが、生まれ持った姓を戸籍上の姓として名乗り続けられる。経団連がこうした新たな制度の早期実現を求める提言をした。多様性を尊重するという時代の要請にもあった、うなずける内容だ。国は先送りをやめて選択的夫婦別姓の導入に向けた議論を急ぐべきだ。
提言は婚姻時にいずれかの姓を選ぶ今の制度が「女性活躍を阻害する」と訴えた。多くの企業が通称使用を認めているが、通称と戸籍上の姓の使い分けは企業にも本人にも負担となる。
法律上の姓ではないため使えない場面があり、海外でトラブルになるケースもある。「企業にとっても、ビジネス上のリスクとなり得る」との指摘はもっともだ。
この問題は長年の宿題である。法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓を導入する具体案を答申した。法務省は改正法案も準備したが、自民党内から「家族の一体感が失われる」などの意見が出て、国会に提出されていない。
国際的にみても、夫婦同姓を義務付ける日本は先進国のなかで特異だ。同姓だった国も、別姓を選べる法制化を進めてきた。
どちらの姓にするかは夫婦の自由とはいえ、95%は妻が改姓している。最高裁は2015年と21年に現行制度は「合憲」との判断を示したが、どのような制度がよいかは「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」とした。「違憲」とする反対意見もあった。しかし、国会での議論は進んでいない。
夫婦別姓はあくまで選択肢の一つであり、すべての夫婦に強制するものではない。選べない現状によりアイデンティティーの喪失や困難を抱える人がいる以上、見直しは必要だ。どのような法制度が可能か幅広く検討すべきだ。
幸せのかたちは一つではない。家族の絆も、姓によってのみ築かれるものではないだろう。私たちが目指すのは、多様な選択を尊重できる社会だ。国は経済界からのボールを重く受けとめ、今こそ動いてほしい。