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個人投資家の道 2人の先達が教えてくれたこと

知っ得・お金のトリセツ(137)

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長年動きを止めた日本の個人マネーを巡る時計の針が、新NISA(少額投資非課税制度)とともに大きく動き始める2024年。その始まりの1月1日、くしくも同じ日に個人の資産づくりに尽きせぬ示唆を与えた2人のオピニオンリーダーが亡くなった。経済評論家の山崎元さんと経済コラムニストの大江英樹さん。享年65歳と71歳。

自らが説いてきた「人生100年時代の資産形成」からすると早すぎる死だが、2人とも後悔も思い残すこともないはずだ。国でも企業でもなく、個人がお金の自己決定権を握って鮮やかに生ききる――。2人が身をもって示した決して朽ちることのない教えを振り返る。

やることはただ一つ

ちょっぴり挑発的な山崎さんと、もの柔らかな大江さん。「芸風」は違えど、どちらも確固たる自身の専門知識をバックに、徹底した利用者目線を貫いた。

山崎さんはいわゆる「ほったらかし投資」の元祖とも言える存在。「投資とは『買ったり、売ったり』することではなく『持っていること』」との信念から、手数料の高い金融商品を勧めたり、頻繁な売り買いを促したりする金融機関を批判した。

氏によるとやるべきことはただ一つ。手数料の安い世界全体に分散された株式のインデックスファンドを選び、NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)の非課税枠を使えるだけ使い、生活費を除いたお金からなるべく多くを投じたら、ひたすら待つ。

具体的な「何を」「どのくらい」

迷える子羊投資家にズバリ具体的解を提示するのが山崎流。選びかねる「何を」については「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を挙げ、どうしても減らしたくないタイプの人には個人向け国債の変動10年を併用する処方箋を示す。

「どのくらい」については「3分の1に減っても夜眠れなくならない額」から逆算。100万円ぐらいまでは吹っ飛んでも大丈夫なら投資額は300万円となる。過去のデータを基にした期待リターンとリスク(標準偏差)を山崎流にかみ砕いた表現だ。

結果的に資産が増え360万円確保できれば、65歳で引退して95歳まで30年間の老後資金として、1カ月に「年金(最低限の生活)+1万円の生活ができる」と考える。NISAの生涯非課税枠1800万円と同額なら「年金+5万円」、倍に増え3600万円なら「年金+10万円」とイメージが湧きやすい。

人生の本番は定年後に訪れる

金融機関を中心に計12回転職した山崎さんに対し、大江さんは新卒後同じ会社で38年間勤め上げた「ザ・サラリーマン」。出世競争では「勝負あった」後に始まる定年以降の人生で、ここまで輝くことができるということを体現した「定年後の星」だ。

投資に加え、シニア起業や年金、行動経済学から能まで、幅広い知識を持つコラムニストとして執筆や講演、人生100年モデルとして引っ張りだこに。サラリーマンは定年で自由を手にするのに、経済的な「老後不安」というナラティブ(物語)がすり込まれている日本では喜びより不安が大きい。その実情を変えることをミッションに起業し「オフィス・リベルタス(ラテン語で自由の意味)」と名付けた。

人生の最後に残るのは…

その大江さんが昨年出した本が「90歳までに使い切る お金の賢い減らし方」(光文社新書)だ。これまでお金を増やす方法を伝えてきたが、今後は人生の終章に向け、ためたお金を使い切る重要性を伝えたいと執筆した。

なぜなら、人生の目的は金持ちになることではなく、幸せになること。一番価値があるのは思い出なのだから、お金は思い出づくりに惜しみなく使うべきだと説いた。言葉通り定年後は度々欧州を旅行し、かけがえのない「財産」を積み上げた。

最後まで現役

くしくも同じ日に逝った2人だが、最後の最後まで現役を貫いた姿勢でも共通する。闘病にかかったお金の教訓まで我々に残していってくれたのだ。

山崎さんの近著「難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!」(文響社)によるとがん闘病の費用は約235万円だが、うち自己負担の差額ベッド代が160万円なので純粋な医療費は75万円。しかも高額療養費制度や健康保険の付加給付もあったので、個室に入らなければ「14万円で済んだはず」としている。

大江さんも個室代以外の純然たる治療費の負担は22万円だったという。民間の保険は42歳の時に全部解約したというが、いざ病気になってみても日本の公的医療保険はしっかりしているので、民間保険は最小限でいいという結論に達したという。

持てる知識と時間の全てを、後続の我々に惜しみなく与えて去る。見事な幕引きだった。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年からマネー・エディター、23年から編集委員兼マネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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