住民税、ここがヘンだよ 「4万円減税」で再認識
知っ得・お金のトリセツ(134)
「住民税ってなんでこんな仕組みなんだ」。時節柄、年末に向け「駆け込みふるさと納税」をしながら、ぼやきたくなる人も多いだろう。ふるさと納税に回せる原資は自分が来年6月以降払う(であろう)住民税だ。正確な額を知る前に自分で推計する必要があるが、目測を誤れば通常の自己負担額2000円以上に出費がかさむ地雷付きだ。
さらに今年は総合経済対策で盛り込まれた「4万円減税」との関係でも注目される。自分にいつ支援が届くか知るためにも所得税・住民税の仕組みを理解しておこう。
住民税は厳しい
個人の1年間の稼ぎにかかる税金には主に2つ、所得税(国税)と住民税(地方税)がある。1~12月の稼ぎを基に、各種控除を差し引いた後の課税所得に税率を掛けて算出する流れは共通。だがそれ以外にモロモロの違いがあるのが面倒なのだ。
まず控除、すなわち扶養や保険料負担等の状況に鑑み「そういう事情なら大変でしょう」と税額計算から外せる額が違う。例えば基礎控除は最大で所得税の48万円に対して住民税は43万円。5万円差し引ける額が小さいということは、それだけ課税のハードルが低い(=多くの人が課税される)。
地方税である住民税は教育や福祉、消防・救急など身近な行政サービスの原資となる。応益負担の観点から課税ベースを広くし「地域社会の会費」を賄おうとの考えだ。
住民税はややこしい
パートやアルバイトが扶養の範囲内にとどまれる「年収の壁」が、所得税では「103万円」なのに住民税では「100万円」になるのはこの差に起因する。だが基礎控除額の違いが5万円なのに対し、壁の違いはなぜ3万円?
そこには別のルールが介在する。住民税は所得の多寡にかかわらず一定額を負担する「均等割」と所得に連動して増える「所得割」に分かれるが、所得割は総所得金額等が45万円を超えなければ課税されない決まりがある。が、いったん超えたら実際の税金計算の基礎控除額は43万円を使う。
既に十分ややこしいが、経済対策の度に対象として焦点があたる「住民税非課税世帯」の基準はさらに複雑。均等割・所得割ともにかからない世帯を指すが「居住地に応じ複数存在する『一定の基準』の上に自治体独自ルールも認められており専門家でも判別が難しい」(柴原一税理士)という。
住民税はズレている
さらに住民税はズレている。同じ2023年の稼ぎにかかる税金でも所得税の場合は当年中に粗々の額で支払い(源泉徴収)、会社員の場合は年末調整を経て翌年の確定申告で決着する「先払い」。一方の住民税は半年後に納税が始まる「後払い」だ。23年分の住民税は24年の6月以降払い始める。
新入社員の1年間は住民税負担がない一方、退職後に無収入でも住民税の請求が来るのはこの時差の理屈だ。所得税同様の「現年課税」にすべしとの議論は昔からありつつ、今まで検討課題として残った経緯がある。
支払先は1月1日現在の住所地だ。たとえ1月2日に引っ越して1日しか住まなくても前の自治体に全額支払う。仮に12月31日に亡くなったら? 翌1月1日には住所がないので、半年後の6月以降支払うはずだった住民税は払わずに済む。さして嬉しくもないが、住民税のズレがなせる業だ。
「はざま」の900万人
さて、11月2日に政府が決定した今回の総合経済対策。物価高対策として均等割・所得割両方がかからない住民税非課税世帯に対して10万円を給付(うち3万円は支給済み)する。およそ1500万世帯の2500万人が該当するとされ、政府は年内にも手元に届けると強調する。
一般のサラリーマンや個人事業主など住民税と所得税の納税者に対しては、1人当たり所得税3万円・住民税1万円の計4万円を減税する。配偶者や扶養親族分も含めるので夫婦と子ども2人なら減税額は16万円になる。およそ8600万人が該当する。
問題は上記2パターン以外の「はざま」の人が約900万人いること。住民税の均等割だけ払っていたり、所得税は支払っているが4万円未満なので「引き入れない」ケースだ。住民税均等割→所得割→所得税と複数スタンダードがあるにもかかわらず、所得減税にこだわったばかりに複雑な制度設計が必要になった。
経済対策の効果はもっとズレる
家計に恩恵がやってくるのはいつか? 給付金だけの場合が頑張って年内と最も早い。一般の納税者の場合は来年6月以降に始まる見通し。そして遅い場合は25年度の住民税まで持ち越すこともありそうだ。
なぜなら所得税から3万円引くのはそう簡単ではないからだ。5~45%の超過累進税率なので、多くの一般的な納税者の税率は5%かせいぜい10%と住民税(一律10%)並みに収まる。扶養家族が多ければなおさらで「8割強の納税者が適用税率10%以下」(財務省)だ。なのに住民税の3倍額を引かねばならない。
24年分の所得税から「引ききれない」場合は住民税から差し引く方針。すると半年のズレを経て、実際に家計に恩恵がやってくるのは25年の6月以降ということになるのだろうか? 現在、与党税制調査会で鋭意検討中であり最終形はまだ見えないが、果たしてそのころの物価は? 自分の稼ぎは?……思わず遠い目になってしまう。
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年からマネー・エディター、23年から編集委員兼マネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
食べたものが体をつくり、使ったお金が人生をつくる――。人生100年時代にますます重要になる真剣なお金との対話。お金のことを考え続けてきたマネー・エディターが気づきの手掛かりをお届けします。