武装組織、首都進撃を宣言 イラク情勢緊迫
【ドバイ=久門武史】イラク北部で支配地域を広げるイスラム教スンニ派の過激派武装組織「イラク・シリアのイスラム国」は12日、首都バグダッドへの進撃を宣言し、首都北方で戦闘を重ねた。マリキ政権は統治力のもろさを突かれ、2011年の米軍撤退後、最悪の窮地に陥った。宗派対立と政治の機能不全につけ込む武装組織の戦力の供給源は、内戦が泥沼化する隣国シリアだ。
「逃亡者は処罰する」。11日、反転攻勢を訴えたイラクのマリキ首相の発言は、治安部隊の士気の低さを浮き彫りにした。10日に陥落した同国第2の都市モスルでは、警官が持ち場を捨てて逃げたと伝えられた。
03年からのイラク戦争でフセイン政権と軍は崩壊。イスラム過激派や各宗派の武装集団が、米軍に対抗する名目で各地に流れ込んだ。オバマ政権が11年末に戦争終結を宣言し、米軍が撤退した後、力の空白をイラクが自ら埋められるかには当時から懸念があった。
治安部隊は米軍の訓練や支援を受けていたが、今回の失態で劣化は明らかだ。上層部の腐敗が指摘され、政治の機能不全も響く。首相が要請した非常事態宣言を巡り、連邦議会は12日に開くはずだった緊急集会を延期した。反首相派の議員らがボイコットしたからだ。
過激派の攻勢の背景には宗派対立がある。イスラム教シーア派中心のマリキ政権に対し、少数派のスンニ派は冷遇されているとの不満が強い。急増するテロが両派の対立をあおり、過激派の暗躍を許している。
中央政府と自治政府との緊張もある。マリキ政権は原油輸出を巡り、クルド人による北部の自治政府とぎくしゃくしている。クルド部隊は12日、混乱に乗じて油田都市キルクークを掌握した。
過激派の勢力拡大は、シリア内戦の結果だ。シリアでアサド政権と戦う反体制派に、サウジアラビアなどは資金を送り、トルコはシリアとの国境で戦闘員の行き来を黙認した。野放しの援助の一部は、イラクで戦う過激派に流れている。
「イスラム国」の活動はイラクとシリアの国境にまたがる。シリアと同様、イラクが泥沼の混乱に陥る懸念が強まる。