バフェット増税発言の波紋(NY特急便)
米州総局編集委員 藤田和明
24日のダウ工業株30種平均は3日続伸。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が26日のジャクソンホール講演で追加の金融政策に言及するとの観測で、株価を押し上げるムードがこの日も続いた。
著名投資家のウォーレン・バフェット氏が「私や友人は億万長者に優しい議会に甘やされてきた」とし、増税を訴えたのが15日のこと。それから1週間余りを経て、様々な波紋が広がっている。
米国内では、同氏の増税論に反論が噴出。例えばアメリカン・エキスプレスの元経営トップは「既に毎年2兆ドル強集めている税金をまず賢く使うべきだ」と主張した。一部はバフェット氏を偽善者扱いする論調もあり、連邦政府への寄付制度があるのだから、まずそうすべきだといった議論も出ている。
一方で明確な賛同者が出たのは米国よりも、大西洋を渡ったフランスからだった。23日に化粧品大手ロレアルの創業一族のベタンクール氏ら仏産業界の16人が連名で、富裕層への一時課税を自ら提案。自国の財政赤字の削減へ、貢献する意思を表明した。
バフェット氏が火を付けた富裕層の負担論議。「米国人が本来持っていた犠牲の精神が試されている」と話すのはモルガン・スタンレー・アジアの非常勤会長、スティーブン・ローチ氏だ。
米国は第2次大戦後も戦時の高税率の期間が続いた。それは戦争で荒廃した欧州復興のマーシャル・プランを支える原資になった。しかし半世紀余りでそうした犠牲の精神は薄れ、安易な税率の引き下げと財政支出で財政は悪化した、とローチ氏は振り返る。
特に今の米国は個人のキャピタルゲイン課税の税率が低いのが、富裕層の税負担を軽くしている大きな要因だ。ブッシュ政権時代の減税策で、オバマ政権も引き継いできた。
納税者自らが増税を言い出すなど極めてまれだ。バフェット氏の援軍を得て、オバマ大統領は将来の増税をにおわす。しかし今のワシントンは財政再建を巡って与野党が鋭く対立、建設的な議論ができず、米国債の格下げまで招いてしまった。
非効率な財政を改革し、賢い政府へ国民の期待が高まらなければ、増税への支持は広がらない。バフェット発言は、自分たち富裕者の責任表明と同時に、税金を使うワシントンの政治家にも覚悟を求める意味で、重い問いかけとなっている。それが米国を越え、欧州にも広がっているのだ。
26日に控えるバーナンキ議長の講演。市場では、痛みや負担の少ないかたちで、さらなる金融緩和をとの期待が先行する。しかし対症療法の限界も見えてきた。膨れ上がった国家債務の問題に政治はどう向かい合うか。この問いかけは、講演を終えた後に、より重くなって見えてくるかもしれない。