アジア高速鉄道、1万キロの大商戦 日本と海外勢競う
JR・商社などが「日本連合」
総延長1万キロメートルは、中国国内ですでに敷設された高速鉄道網を上回り、日本国内の新幹線網2400キロメートルの4倍。今後、中国並みの市場が新たに生まれることになる。
その先頭が、マレーシアのクアラルンプールとシンガポールの間約300キロメートルを1時間半でつなぐ計画だ。両国は2月の首脳会談で2020年をメドに高速鉄道を開通させることで正式合意。年内にも計画の詳細を固め、入札を実施するとみられている。
見込まれる総事業費は300億リンギ(約9千億円)。受注を目指すJR東日本は3月、シンガポールにアジアで初となる現地事務所を開設し、調査や情報収集を進める。
実際の受注活動では、金融・調整機能を担う総合商社、運行ノウハウを持つJR各社、車両を製造する川崎重工業や日立製作所、信号や通信設備に強みを持つ三菱重工業、運行システムなどを得意とする東芝に加え、土木を受け持つ大手ゼネコンなどが「日本連合」を結成するとみられる。
欧州鉄道大手のドイツのシーメンス、仏アルストムもそれぞれ受注に向けた活動を始めている。
中国も活発。雲南省・昆明からシンガポールまで高速鉄道を自国主導で敷設する構想を打ち出し、まずラオスの首都ビエンチャンまでの建設は同国からの受注を固めたもようだ。当然クアラルンプール―シンガポール間の計画も重視しており、マレーシア企業と連携して受注活動に入るとみられている。
東海道新幹線が開業した1964年当時の日本の国内総生産(GDP)は820億ドル、国民1人当たりでは847ドルだった。推計方法や物価の違いがあるため単純には比較できないが、東南アジアで高速鉄道を計画する各国は当時の日本の所得水準を超えた。高速鉄道を導入する環境は整いつつある。
「タイとインドを有望視」
各国企業が今注目する大型プロジェクトは他にもある。一つがタイで、政府が約2兆5千億円を投じて4つの高速鉄道を建設する計画だ。まずバンコクから工業地帯のあるラヨンに至る250キロメートルを約1時間で結ぶ路線を19年に開通させようと、来年初めにも入札を実施する見込みだ。
またインドは、計画の7路線のうち最大商業都市のムンバイと工業都市のアーメダバードを結ぶ路線を先行させる方針を固めている。
「タイとインドの計画(の実現)を有望視している」(丸紅)。両国は日本との経済関係が強く、インドの場合は日本と共同で技術審査や価格の具体的な見積もりに入ることが決定。新幹線が有力候補となっている。
JR東日本子会社、日本コンサルタンツ(東京・千代田)の秋山芳弘取締役は「政府系金融機関による資金調達支援とのパッケージで提案できるのが日本の強み」と話す。