販売低迷のEV、陣営拡大へ迫られる戦略転換
電気自動車(EV)の売れ行きがさえない。価格の高さや航続距離の問題といったEV自体が抱える課題に加え、ガソリン車やディーゼル車といった既存車も高い燃費性能と低価格を両立させ、EVの強力なライバルになっていることも背景にある。「ゼロエミッション・ビークル」の先駆けとして鳴り物入りで登場したEVはこのまましぼんでいってしまうのか。
国内最大のIT・家電の見本市「CEATEC(シーテック)ジャパン2012」。今年、最も目を引いたのは初めて参加したトヨタ自動車や日産自動車など自動車メーカーのブースだった。なかでも日産は今やシーテックの常連。同社のEV「リーフ」を給充電器として家庭につなぐ「LEAF to Home」や無人でも駐車場に自動駐車するデモンストレーションを披露、注目を浴びた。
しかし、その先進性とは裏腹に「リーフ」の販売は低迷が続く。
「正直に言うと、期待外れだ」。今月2日、日産でEV事業を担当するアンディ・パーマー副社長はニューヨーク市内で応じた一部メディアの前でこう漏らした。米国での「リーフ」の今年度上期の販売台数は約3500台。通期の目標である2万台の達成は厳しい。今年末には米国でリーフの生産を開始する。しかし、その米工場のEVの生産能力は現在、「リーフ」を生産する追浜工場(神奈川県横須賀市)の3倍に相当する年15万台規模だ。
「量産によって価格を下げていくことがEVを成功させるための唯一の方法」(パーマー副社長)として、「米国でのEVの生産能力の見直しなどは検討していない」(同)と話す。しかし、2010年末の発売からこれまでに世界で販売した「リーフ」の累計台数は約4万台。16年度までに提携する仏ルノーとあわせ「累計で150万台を世界で販売する」とカルロス・ゴーン社長が掲げた目標は早くも"黄信号"が点灯している。
事情は「アイ・ミーブ」を擁する三菱自動車も同じだ。欧州を覆う不況でアイ・ミーブをOEM(相手先ブランドによる生産)供給する仏プジョーシトロエングループ(PSA)からの発注はこの春から止まっている。
このほど、デロイトトーマツコンサルティングが今年3月下旬に約2000人を対象に実施したアンケートによると、EVについて「よく知っている」「知っている」と答えた人は88%と前年の21%から大幅に上がった。しかし、その一方で、「購入を検討する」と回答した人は昨年と同じ18%にとどまった。「価格の高さ」と「航続距離の短さ」が依然としてEV普及のネックとなっている。
三菱自は「EVは価格が高い」という指摘に対応、廉価版のアイ・ミーブを発売したが「目立って販売が上向いているということはない」(三菱自動車幹部)と肩を落とす。
さらにここにきて日産・三菱自の「EV先行組」には逆風が吹く。トヨタがこのほど小型EVを開発、年内に販売することを表明したが、その台数は年間100台。しかも、リース限定の販売。「2年前にはEVは年間数千台の販売を期待していたが、現状ではなかなか難しい」(内山田竹志・トヨタ副会長)と、当初計画から大きく縮小した。
「ライバルもEVをどんどん販売してもらうことで市場が拡大する」(日産幹部)と期待を寄せていただけに、トヨタの計画にEV先行組の落胆は大きい。ホンダもトヨタと同様、「EVは近距離用コミューター」と位置付けており、環境対応車の主力にEVを据える日産・三菱自とは一線を画し、ハイブリッド車(HV)の拡充に力を入れている。
急速充電器を巡る規格も米国の自動車関連の規格標準化団体である米自動車技術者協会(SAE)が日本が世界標準を提唱する「チャデモ」方式と異なる規格である「コンボ」方式を採用することを表明した。グローバルでEVの普及を狙う日産などにとっても大きなマイナス要因だ。
エンジンを小型化して、その分不足する出力には過給器(ターボ)で補う「ダウンサイジング」やディーゼル車の燃費向上など、独フォルクスワーゲン(VW)など欧州勢を中心に従来型のエンジンの改良で対抗する勢力もある。既存設備を使えるため、複雑な機構を採用するHVや高価なバッテリーを使うEVより低いコストで生産できるメリットがある。
「バッテリーなど化学の世界は、自動車業界が慣れ親しんできた機械工学の世界と違って、研究の結果、一晩でがらりとその性能が変わることもある」と三菱自の益子修社長はEVの技術進歩に期待を寄せる。同社はEVの開発強化を目指し、今年も電気工学系の技術者の中途採用を増やす。
日本が一歩先行しているとされるEVはこのまま退潮してしまうのか。盛り返すには技術をかたくなに抱え込むより、エネルギー問題が今後深刻化する中国など新興国への技術供与や提携を通じて「味方」を多く取り込み、陣営の拡大で普及を図っていく――そんな戦略の転換が迫られている。
(産業部 藤本秀文)