トヨタが口火「究極のエコカー」競争 日米欧で合従連衡も
「究極のエコカー」と言われる燃料電池車(FCV)の開発競争が加速し始めた。その口火を切ったのがこのほど独BMWと組んだトヨタ自動車だ。ハイブリッド車(HV)でトヨタは環境車の分野で先行しているだけにFCVで巻き返そうというライバルは多い。トヨタ―BMWの提携に触発され、FCVの分野で合従連衡の動きが加速するのは間違いない。
日本勢ではトヨタとホンダ、米国ではゼネラル・モーターズ(GM)、欧州では独ダイムラー。業界関係者の間でFCVの開発競争で「アタマ一つ抜けている」と言われるのがこの4社だ。
なかでもGMはこの分野で長く研究を続けてきた。ハワイ・オアフ島や環境問題に熱心なカリフォルニア州などに水素ステーションを設け、実証実験を手広く手掛けている。途中、経営破綻でFCVの開発予算も削られたが、「FCV特有のユニットなどこれまでの実験や開発のノウハウは他社には負けない」(GM幹部)と胸を張る。
かつてGMはトヨタとFCVで提携を模索した時期もあった。2005~06年ごろのことだ。しかし、提携締結の直前になって「突如、トヨタから提携撤回の申し入れがあった」(同)ことで話は流れ、以降、それぞれ独自に開発を手掛けることになった。
独ダイムラーも熱心だ。ダイムラーもGMと同様、10年ごろに初期投資や水素ステーションなどのインフラ投資軽減のために、トヨタに接近していた。トヨタも一時期、この分野で先行するダイムラーと組むことも視野に入れていた。しかし、ダイムラーがカルロス・ゴーン率いる仏ルノー・日産連合と資本業務提携を結んだことで一気に両社の提携への機運は冷え込えこんだ。以降、トヨタ、GM、ダイムラーは独自の道を歩むことになった。
GM、ダイムラーといった欧米勢にとって、HVの確立で「環境のトヨタ」の名を世界に知らしめたトヨタの存在は大きい。この1~2年内に欧米各社ともHVや電気自動車(EV)などを相次いで市場投入するが「独自動車部品大手のボッシュやZFなどにHVやEVの主要ユニットを握られているなかで、内製しているトヨタとコスト面で対抗するのは難しい」(独ローランド・ベルガーの長島聡シニアパートナー)と言われる。
こうしたことから欧米勢は「HVやEVの開発は避けては通れないが、FCVへのつなぎ」(GM幹部)と位置付け、究極のエコカーであるFCVで一気にトヨタを追い抜いて環境車の分野で覇権を狙おうともくろんでいる。
GMは昨年来、BMWとFCVの提携交渉を水面下で進めていた。しかし、今回、トヨタがBMWを取り込んだことで、GMはBMWからFCVの提携交渉を打ち切られた。充電規格の対立で本格普及に課題が出てきたEVの世界とは異なり、FCVでは水素供給システムの規格で大手11社が統一することで合意している。
膨大な開発費用がかかるFCVの分野で今後どのメーカーが主導権を握るかは「有力な仲間・陣営作りをいかに進めるかがポイントとなる」(長島シニアパートナー)。
ダイムラーはルノー・日産連合と開発費を負担する方向だが、残るGMやホンダは単独で開発を進めるのか、あるいは提携に動くのか。先頭集団に追いつこうと国を挙げて開発を進める韓国・現代自動車の動きも注目を集める。「1台当たり300万円台までコストを下げられるメドがたった」と語るメーカーも出てきた。3年後に一斉に市販が始まる「究極のエコカー」を巡り、開発の最終段階に入った各社の水面下での綱引きが一気に加熱しそうだ。
(産業部 藤本秀文)