戸籍謄本の請求1カ所でOKに 相続手続きを簡略化
法改正で24年から
親が亡くなり相続が起きると遺産の名義を変更する手続きが必要になります。その際には亡き親の戸籍謄本(除籍謄本含む)を出生時から死亡時まですべて集め、金融機関や法務局などに提出しなければなりません。大変な作業ですが、その負担を減らす仕組みが2024年前半にもできそうです。どんな仕組みなのか見ていきます。
遺産分けや名義変更は法律上、故人(被相続人)にとって誰が法定相続人にあたるのかを特定してからでないと認められません。法定相続人を確定するのに必要なのが戸籍です。「例えば亡き父に元妻との間にできた子がいたり、未婚で認知した子がいたりした場合、戸籍をたどっていくことで初めて判明するケースがある」と司法書士の船橋幹男さんは言います。
戸籍は本籍地がある市区町村が管理しており、その窓口に出向くか、郵送により請求します。1回の手続きで終わればよいのですが、受け取った戸籍を見たらそれで済まないというケースはざらにあるそうです。故人が生前、転居や結婚などを機に本籍地をたびたび移していれば、幾度もさかのぼって古い戸籍を取り寄せなければなりません。
戸籍は1994年以降に電子化されるなど様式の変更(改製)が繰り返されてきました。法定相続人を確定するために古い戸籍(改製原戸籍)の取得が必要になることもあります。あまりに煩わしいため、司法書士や行政書士に手数料を払って戸籍謄本を集めてもらう人がいるほどです。
手続きを簡略化してほしいとの声に応えて政府はようやく動き出しました。今の通常国会に提出する戸籍法改正案の中に、自分や父母らの戸籍謄本を、本籍地以外の市区町村に対して請求できるようにする規定を盛り込んでいます(図)。
亡き親の本籍地が遠方にあったり何度も変わったりしていても、子どもは自分にとって都合の良い場所にある役場を選んで手続きできるようになります。改正案の可決・成立後、「24年前半には請求できるようにしたい」と法務省は説明しています。
名義変更に証明書
国は市区町村の戸籍をバックアップするシステムを拡充する予定です。将来的に戸籍にマイナンバーをひも付けて、年金の受給申請などを簡略化することが大きな狙いですが、システムが完成すれば、相続時の戸籍謄本集めもだいぶ楽になるでしょう。役場の担当者は新システムにアクセスすることで、他の市区町村が管理する戸籍情報の提供を受けられます。
相続の手間を省く仕組みとしては17年5月末にスタートした法定相続情報証明制度を知っておいていいでしょう。戸籍謄本をもとに被相続人と法定相続人の一覧図を作り、法務局(登記所)に提出すると登記官がチェックし、証明書にしてくれます。
遺産の名義変更は手続きをする先がたくさんあります。預金は銀行、株式は証券会社、不動産は法務局、自動車は運輸支局といった具合です。戸籍謄本のセットをいくつもそろえる必要があり、手数料も負担になります。証明書は無料で何枚も作ってくれるので負担は和らぎます。
[日本経済新聞朝刊2019年3月9日付]
誰かが亡くなると、親族は故人の財産などを引き継ぐ相続に直面します。相続で「誰が・何を・どう分けるか」については法律で決まりがあります。対象となる財産にはどんなものがあるのか、相続人はどう決まるのかなどをわかりやすく解説します。
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