シワは人工皮膚で隠す、資生堂 米VB技術買収
資生堂が化粧品関連のスタートアップ企業への投資を加速している。新たに米社から人工皮膚関連事業を買収し、肌に塗ると瞬時にシワを隠せる化粧品の開発に乗り出す。魚谷雅彦社長は日本経済新聞の取材に「化粧品の新カテゴリーをつくる」と強調した。2017年には人工知能(AI)関連企業なども買収しており、M&A(合併・買収)を通じて次世代型化粧品につながる要素技術を取り込む。
米オリボ・ラボラトリーズ(マサチューセッツ州)が持つ「セカンド・スキン」と呼ばれる人工皮膚形成技術の特許と関連事業を買収した。買収価格は不明だが数十億円規模とみられる。オリボ社の数人の研究者も資生堂グループに取り込む。
セカンド・スキンは肌に特殊な高分子化合物を配合したクリームと専用の乳液を重ねて塗る。すると、人工皮膚が瞬時に形成されて凹凸を補正しシワやたるみを隠せる。皮膚呼吸も妨げず肌への負荷も低いという。一般的に市販されているシワ改善化粧品は数週間の継続使用が必要だが、セカンド・スキンの技術を使えば即効性のある商品を開発できる。
オリボ社は再生医療を専門とするマサチューセッツ工科大(MIT)のロバート・ランガー教授らが設立したスタートアップ。ランガー教授は様々な臓器を人工的に形成する生体吸収性ポリマーなどの研究で世界的に知られ、京都賞やウルフ賞など国際的な科学賞を多数受賞している。
ランガー教授は自らが開発した基礎技術の事業化を目指しており、化粧品ビジネスへの展開のパートナーとして、高い開発力を持つ資生堂を選んだという。
資生堂は今後、成分の改良を進めて、美容液などのスキンケアや日焼け止めに商品化する計画。ランガー教授は商品開発にも協力する。資生堂の既存ブランドからの発売に加え、新ブランドを立ち上げることも検討する。アンチエイジング化粧品のニーズが高い日本や米国、中国などに段階的に展開する。
資生堂は20年を最終年とする中期経営計画を進めている。「世界で勝てるグローバルビューティーカンパニー」を目標に掲げ、新たな美容事業の開拓にも積極的だ。17年には肌質の解析技術を持つ米マッチコーや、AI関連の米ギアランを相次いで買収した。いずれも次世代化粧品の開発につながる要素技術を持つ。
シワ改善化粧品は国内でも特に有望な商品ジャンルだ。17年には資生堂やポーラが肌の組織を改善することで、シワを軽減する化粧品を相次ぎ発売。いずれも高い人気を集める。富士経済によれば、17年のアンチエイジング化粧品の国内市場は前年比4.4%増の7080億円。資生堂の新技術投入でさらに市場が活性化しそうだ。
魚谷社長「美容産業、枠組み広げる」
資生堂の魚谷雅彦社長との主なやりとりは以下の通り。
――どういう経緯で買収に至ったのですか。
「技術に着目した日本の研究員が提案し、米国のM&A(合併・買収)チームとの連携で1年弱で実現した。同業や医療系でもオリボ・ラボラトリーズの技術に関心を示す企業があったようだが、先方は資生堂の商品力を評価してくれた。ロバート・ランガー教授は皮膚科学の世界的権威で今後の製品開発にも関わってくれる。資生堂の技術力向上にもつながる」
――どうやって事業化していきますか。
「薬事関連の認可などの手続きもあるが、商品化に5年も10年もかけるつもりはない。瞬時にシワを隠せるという革新的技術であり、新たな化粧品ジャンルを創出する意気込みで取り組む」
「スキンケアに加え、米国で高いシェアを占める日焼け止めなどにも展開したい。エイジングケア化粧品は全世界にニーズがある。グローバル展開を目指す」
――近年は研究・開発分野への投資を強化しています。
「米国ではハーバード大学への研究員の派遣なども拡大している。同大とは以前から提携関係にあったが、近年は戦略的に関係を強化してきた。社内の研究員には外部の大学などとの交流を促しており、今回の案件のような新たなイノベーションの契機となることを期待している」
――今後はM&A(合併・買収)をどう進めますか。
「プレステージ(高価格帯)領域の強化に加え、美容産業の枠組みを広げるような新しいカテゴリーに挑戦したい。美容の定義は時代とともに広がる。医療や食品といった産業とクロスオーバーになってくる。化粧品を中心としながら、その周辺産業への展開を考えていくことが必要だ」
(聞き手は企業報道部 松井基一)
[日経産業新聞 2018年1月15日付]