地下46mに300万冊納める東大の新図書館
300万冊を収蔵できる地下図書館が、東京都文京区にある東京大学本郷キャンパス内で開館した。限られた敷地に膨大な蔵書を納めるために、土木で用いる技術を採用。建築と土木の異なる知見を融合して完成した。
地上で構築したく体を沈めて地下空間を創出する――。東京大学が2017年7月から供用を始めた「総合図書館 別館」は、ニューマチックケーソン工法を用いて建設した。同工法は、逆さにしたコップを水中に押し込んだ状態のように、水の浸入を空気の圧力によって防ぐ原理を応用したものだ。土木分野では橋梁の基礎工事など幅広く用いられているが、建築工事での採用は珍しい。
敷地は、総合図書館前の広場だ。ただし、建物は4層が地下空間で、く体が埋まる深さは約46mにも及ぶ。鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造で延べ面積は約5750m2(平方メートル)。設計・施工は清水建設が担当。東京大学のキャンパス計画室と施設部が設計監修を手掛けた。計画室から野城智也教授と川添善行准教授が担当した。
地下1階には学生や研究者が議論・発表できる交流拠点「ライブラリープラザ」を、地下2~4階には300万冊が収蔵できる自動化書庫を納めた。地上部には噴水を復元し、オープンスペースとした。噴水の底がライブラリープラザの天窓の役割を果たしている。
限られた敷地に最大の平面
貴重書なども収蔵する「知の拠点」を四方から水に脅かされる地下に新設したのは、隣接する総合図書館と一体的な利用を想定していたためだ。並行して総合図書館では、内部を全面改修する工事が進んでいる。外観は保存したままだ。
総合図書館の周辺は建物が密集しており、景観上の理由から地上には建設できない。広場の地下しか選択肢はなかった。
その広場も4辺全てが建物に囲まれており、地下約50mには硬質地盤がある――。限られた敷地に最大の平面を確保し、地下空間を整備するために最も効率的なのがニューマチックケーソン工法だった。沈設するく体がそのまま土圧を受けるため、仮設の山留め壁などが省ける。
実際の施工はまず、刃口金物を取り付けたケーソンく体の下部に気密作業室を構築。ここに地下水圧に応じた圧縮空気を送り込み、地下水の浸入を防ぎながら地上と同じ状況で掘削作業ができるようにする。並行して地上部でく体工事を進め、浮力と建物重量のバランスを取りながら沈設する。
建築と土木の異なる知見を融合
施工計画や施工管理などは、通常の建築工事とは勝手が異なる。清水建設の土木部門や技術研究所の技術者などもチームに加え、総力戦で当たったという。
工事長を務めた安中健太郎氏は、「大規模開発など、土木部門との協業はこれまでにもあったが、今回のように垣根なく全員でつくり上げたのは初めての経験だった。建築と土木の異なる知見を融合させて完成した」と振り返る。
建築と土木の融合のよい例の1つが材料の選定だ。外壁コンクリートは漏水を防ぐために継ぎ目を極力少なくする必要があった。1度に約1500m3(立方メートル)ものコンクリートを打設するため、温度解析を行ったうえで、建築ではあまり使わない低発熱セメントや中庸熱セメントを採用してひび割れを抑制している。
供用を始めた地下1階のライブラリープラザは約200席が連日、ほぼ満席だという。川添准教授は「建築分野での前例が少なかった土木技術を採用してまで計画を推進したのは、必要容積の確保とキャンパスとしてのオープンスペースの維持という矛盾した2つの課題を同時に解決するためだ。都心部の再開発などでも活用できる手法だ」と話す。
(日経アーキテクチュア 谷口りえ)
[日経アーキテクチュアWeb版 2017年11月6日掲載]