バラマキ排し成長力高める補正予算を
安倍晋三首相が2015年度補正予算案の編成を指示した。10月に大筋合意した環太平洋経済連携協定(TPP)対策や、一億総活躍社会の実現に向けた政策などにあてる費用を盛り込むという。
実質経済成長率は7~9月期まで2四半期連続のマイナスとなったが、政府は今回の補正予算案を景気対策とは位置づけていないようだ。
財源は前年度の剰余金や15年度の税収の上振れ分を使い、新規国債の追加発行は見送るという。日本の財政事情は先進国で最悪だ。財政規律への目配りは当然だ。
歳出面で、災害復旧費などを盛り込むのは妥当だが、安易に歳出を膨らませるようなことがあってはならない。
政府内では、低所得の年金受給者に3万円程度の給付金を支給することが検討されている。「賃上げの恩恵が及びにくい世帯にアベノミクスの成果を届ける」のが目的とされている。
今も低所得者向けに年6000円の臨時福祉給付金があるが、それと比べても3万円はかなりの大盤振る舞いだ。
低所得者なら若年層にもいるが、なぜこの給付金は年金受給者だけが対象なのか。そもそも来年の参院選を意識したバラマキ政策ではないか。一定の低所得者対策は必要だが、今回の給付金には疑問が多い。
一億総活躍社会に向けた対策として、いずれ必要となる介護施設や保育所を前倒しで整備するのは一理ある。
しかし、人口減への対応策は本来、息の長い取り組みが必要だ。医療や年金など既存の社会保障予算を抜本的に組み替えて安定財源を確保し、毎年の当初予算に計上していくのが筋だ。
歳出管理が比較的厳しい当初予算を迂回し、補正予算に対策費を紛れ込ませるのは今回で最後にすべきだ。TPP対策も、農業の体質を抜本的に改善する内容に重点を置いてほしい。
日本経済の最大の課題は、持続的な経済成長と財政健全化の両立だ。財政出動で一時的に景気を押し上げるのではなく、構造改革で潜在成長率を高めるのが急務だ。
補正予算案はその目的にあった、費用対効果の高い中身に絞り込んでほしい。野放図に歳出を積み上げるよりも、新規国債発行額を減らして着実に財政健全化を進める視点も忘れてはならない。