[社説]財政健全化への努力を止める余裕はない
今年こそ、財政を平時に戻すはずではなかったのか。経済対策の裏付けとなる2024年度の補正予算案はバラマキの発想から抜け出せず、財政健全化に逆行していると言わざるを得ない。
一般会計の追加歳出は13兆9433億円に膨らんだ。石破茂首相が衆院選で「昨年を上回る大きな補正予算」にすると述べ、それを達成するために無理やり額を積み増した感は否めない。
物価高に苦しむ低所得層への支援はもちろん必要だ。
しかし、3万円を給付する住民税の非課税世帯は7割が65歳以上の高齢者で、預金などの資産を持つ人が少なくない。自動車を使う人にだけ恩恵が及ぶガソリン補助金の継続を含め、本当に必要な人のところにお金が届くのかは大いに疑問だ。
補正予算案では、新たに6兆6900億円の国債を発行する。追加歳出の半分近い額だ。
日本経済は緩やかな回復を続け、24年度の税収は当初の見積もりより4兆円近く上振れする見込みだ。需要不足はほぼ解消している。にもかかわらず「脱デフレ」を旗印に国債を増発して歳出を拡大すれば、かえってインフレを助長するおそれがある。
日銀の利上げ開始で「金利ある世界」が現実になり、安いコストで借金を重ねられる時代は終わった。財務相の諮問機関である財政制度等審議会が、新型コロナウイルス禍で膨張した財政が元に戻っていないとして、歳出の「平時化」を求めたのは当然だ。
いまのままでは、政府が掲げる国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を25年度に黒字化する目標の実現は難しい。日本の財政悪化が改めて意識され、金利が急騰したり、円安が加速したりするリスクを忘れてはならない。
石破首相は危機感が乏しいのではないか。所信表明演説では「経済あっての財政」と述べるだけで、財政の健全化にどう取り組むかを何も語らなかった。
国民民主党の要求をのんで実施する「103万円の壁」の引き上げで、税収は兆円単位で落ち込む。一方で年金、医療、介護といった社会保障や人口減への対応、防衛力の増強に必要な支出はこれから増える一方だ。
無駄の多いバラマキ型の予算を続ける余裕はない。首相はそれを肝に銘じてほしい。
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