静かなブーム、読書会の魅力って?
会って共感、読み方深く
ある日の朝、東京・渋谷のカフェ。物理学からダイエットまで、多彩なジャンルの本をテーブルにずらりと並べ、談笑する10人ほどのグループがいた。2010年から隔週金曜の朝8時~9時半に定期開催されている「何でも読書会」の参加者たちだ。
各自が持ち寄った本を紹介し合い、その内容にまつわる情報や意見が飛び交う。課題図書はない。レジュメを作って誰かが発表して、という従来の読書会とは違って、終始フリートークを楽しむ。参加費はドリンク代のみ。こんな読書会が近ごろ増えている。
「気軽に参加してもらえるよう、ゆるやかな雰囲気を心がけている」と話すのは、主宰者のライター、森智子さん。「始めたきっかけは、一日の最初に前向きな気持ちになれることをしたかったから」。だから朝8時スタートにこだわる。「会って話すということも大事にしたい。会うと伝わることってある」
参加者も口々に言う。「いい本を読んだら、感動を伝えたい。みんなが共感したり、面白がったりしてくれるのがうれしい」(医師・印田幸子さん)、「これまでは本を漫然と読み流していたが、紹介したい箇所に付箋をつけるなど、アウトプットを意識した読書をするようになった」(会社員・廣井泉さん)、「全然興味がなかったジャンルの本も、読書会で紹介されると読みたくなる。自分では選ばない本の魅力を新発見できる」(主婦・平野由美子さん)。
作家が自ら主宰、もしくは参加する読書会も最近、注目されている。たとえば11年から東京ミッドタウンの「ukafe(ウカフェ)」で、甘糟りり子さんが不定期開催している「ヨモウカフェ」だ。
「課題図書は毎回、新刊小説。担当編集者を招き、本ができるまでのエピソードなどを披露してもらう」と甘糟さん。この出版秘話が、ほかではなかなか聞けないと好評だ。甘糟さんの著書を取り上げる回では、書き手と読者が直接対話できる醍醐味も。
取り上げる作品に合わせた、この日だけの特別メニューの食事やお酒を楽しみながら、甘糟さんと編集者のトークショーを聞いたあとは、参加者同士が課題図書について自由におしゃべり。「一冊の本をきっかけに、新たな交流が生まれる場になればいい」(甘糟さん)。
情報交換で視野広がる
「本は絶対、1人で読むな!」(潮出版社)の著者、中島孝志さんは「1人の読書は足し算型、読書会は掛け算型」と語る。5人いれば5通りの読み方がある。1人で読むより、多角的で広い視野を得られるのが読書会だ。
「本を誘い水に、複数の人から実体験に基づく知識、情報、アイデアを得ることもできる」。単なる感想大会にせず、プラスアルファのディスカッションを深めてこそ、意義ある読書会になるだろう。そのためにも情報交換はお互いに惜しみなく。刺激的な読書会にする鉄則だ。
思いどおりの会にするには、いっそ主宰してみるのも手。SNS時代の今、ブログなどを通じたメンバー集めは、それほど困難でない。「丁寧な読書会リポートをアップするなど、アピールは精力的に」
多様な情報交換のためには、バラエティーに富んだ年齢や職業の参加者を集めるのが理想だ。あとはとにかく継続する。「長続きのコツは、毎月第1月曜日など、定例開催日を決めて守ること」
読書の秋。本を通じて、人とつながってはいかがだろうか。1人きりだった読書の世界が一気に広がるはずだ。
(ライター 松田 亜希子)
[日経プラスワン2014年10月4日付]
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