11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち
「時代への落とし前」の迫力
1970年に作家の三島由紀夫が民族派の学生で作る楯の会のメンバーと共に自衛隊の市ケ谷駐屯地に立てこもり割腹自殺を遂げた事件を、若松孝二監督が描く。政治的に正反対の過激派を描いた「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」と対をなす作品である。
若松の視点は「時代」にある。60年代から70年代にかけて高揚した政治の季節。安保闘争を巡り、左も右も国を憂い、行動した。その時代の空気を体現した若者たちを描く、という意味で両作品は通底する。
この作品の焦点も三島と若者たちの関係にある。三島を最終行動へと突き動かしたのは、共に自決した森田必勝らの純粋さであった、というのが若松の考え。義を重んじる三島は若者の純粋さに追い詰められていく。その見方に沿ってドラマは実録風につづられる。
学生運動の高まりに危機感をもつ三島らは、自衛隊の治安出動を機に決起を考えるが、騒乱罪の適用で警察がデモの鎮圧に乗り出し、その機会を失う。当時の記録映像を交え、金嬉老事件やよど号事件に三島が焦ったことを物語る。東大全共闘との対話や自衛隊での演説、市ケ谷へ向かう車中でヤクザ映画の殴りこみよろしく「唐獅子牡丹(ぼたん)」を歌った逸話なども再現する。
しかし物まねではない。特に若者の存在感が生々しい。「連合赤軍」もそうだが、今の若者が表面だけ似せたような軽さがない。追い詰められた若者たちの焦燥感がひしひしと伝わる。その点がこの時代を描いた他の日本映画と決定的に異なる。驚くべき演出力だ。
壮大で複雑な文学世界をもつ三島の全体像を期待する向きには不満だろう。ただ若松の視点は明確で、三島の一面に迫る。何より、政治的に三島と対極にあった若松の、時代への落とし前をつけようとする迫力がみなぎる。結局、何も変わらなかったという怒りも。1時間59分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2012年6月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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