物語に夢中になったことはないだろうか?
小説やマンガ、ゲーム、映画や舞台など、素晴らしい作品に出会ったとき、あまりの面白さに、あっという間に時が過ぎる。お話が終わり、我に返った後、あらためて、なぜそれを面白いと思ったのかは、気にならないだろうか。
- その物語の「面白さ」はどこから来たのか
- なぜ、自分が、そこを「面白い」と感じたのか
- その「面白さ」は一般化/再現できるのか
こうしたテーマを視野に入れ、古今東西の「面白い」作品について語り合う。これはという作品を取り上げ、物語を作る人、楽しむ人、広める人など、様々な視点から「面白い」について語り合うオンライン会だ。
今回の課題作は、『ズートピア』。2016年に公開されたディズニーのアニメーションで、アニー賞やアカデミー賞を受賞しており、かなり話題になった作品だ。ご覧になった方も多いと思う。
注意:『ズートピア』と『トイ・ストーリー4』のネタバレあり
目次
- ストーリーは、たったの100分
- キツネ避けスプレー=内なる差別意識
- 【重要】ジュディとニックは可愛い
- 人間っぽくさせない動物で人間社会をやる
- 没となったディストピアな『ズートピア』
- 『トイ・ストーリー4』の本質=「〇の〇離れ」
- なぜベルウェザー副市長は陰謀を企んだか
- 『ズートピア』を現実社会の写し鏡にしなかったわけ
- 『ズートピア2』はトイ・ストーリー型かアナ雪型か
- 勇気を持って、マンネリ化
- 自分では気づかない自分自身の良さ、「成長感」
- ズートピアの普遍性は「可愛い」と「笑い」
- 禁断の技:ボイスレコーダー
スケザネ:物語の探求第2回、課題作はディズニー映画『ズートピア』ですね。よろしくお願いします。
他3名:よろしくお願いします!
スケザネ:早速Dainさんがご用意いただいたドキュメントの説明から、お願いします。
Dain:まず、「ズートピア・メモ」を作りました。話したいこと、皆さんから伺いたいことが沢山あるので、とりあえず全部書きました。これに遊民さんから追記いただいているので、これをベースに話ができればと思います。
また、「ズートピア・シーン一覧」を作りました。全部のシーンと印象的なセリフを一覧化したものです。「あの場面のあのセリフが~」というときの参考にしてください。
スケザネ:これ入力だけでも結構、ホントありがとうございます。めっちゃ大変だったと思います。
ネオ:絵を文字にするって大変だからね。
Dain:ありがとうございます! 「シーン一覧」を作ってて気づいたのが、プロットポイントです。『シド・フィールドの脚本術』(※1)を読んでたとき「いい映画にはプロットポイントが2つある」ということを教わりました。プロットポイントとは、「ストーリーのアクションを加速させ、別の方向へと行き先を変えるような事件やエピソード」(※2)です。ズートピアのプロットポイントに印を付けましたので、脚本に詳しい皆さま、後で採点してください(笑)。
あと進め方だけど、どうします?僕がやる収拾がつかなくなるんだけど。
スケザネ:誰がやっても収拾つかないんで。大丈夫です。
Dain:では第一印象から順に話しましょう。私だと、最初の「おもしろい!」というのに加えて、この物語ってどんな風に作られてるんだろう? ということが気になりました。脚本苦労したんだろうなとか、そっちの方が気になってしまい、あんまり良い視聴者ではなかったですね。
ネオ:作り手あるあるな感じかな。
1. ストーリーは、たったの100分
Dain:そうそう。物語世界の設定だと、みんな何食べるんだろう?っていうのが、一番引っかかりました。チョコレートケーキやドーナツ、アイスキャンディーとか出てくるんだけれど、でもこの世界って、肉食動物って何食べてんだろうなあ?って。ハンバーガー食べてるんだったら、ハンバーガーのその肉って何の肉なんだろう?って引っかかってました。あと、『ズートピア2』が制作されているらしいのですが、2ってどんな話になるんだろう? というのも気になります。次はスケザネさん行ける?
スケザネ:はい、了解です。最初、黒幕は誰なんだろう? という所が面白くて夢中になり、次は気になるシーンを集中的に観て、結局3回観たんですけど、これはアメリカならではというか、人種や差別の問題とか、深掘れるんだろうなと思います。
あと脚本家の職業病ってやつで、ズートピアという世界の作りが上手いな、と唸らされましたね。
例えば冒頭で、ジュディが特急列車でズートピアに上京(?)するところ。そこで列車が来た時に、ネズミ用のちっちゃいドアとか、大型動物用のドアとか、ああいうちょっとした芸が細かくて、色々なものと動物たちが世界観として有機的に連関して結びついているっていう構造は、相当手が込んでるなーと、そこばかりに目が行ってしまって。
おそらく、まず『ズートピア』という世界を作るのが最初で、その後にテーマを作り、具体的にシナリオ展開していったんじゃないかな、と勝手に睨んでいます。なので、どういう風にこの世界を作っていったのか、むしろ僕はそっちのほうに関心がありますね。
今日はこの辺りをお話できればと思います。ではタケハルさんにバトンタッチしますね。
タケハル:そうですね。二点あって、まず一点目はスケザネさんに近いんですけど、美術ですよね。さっきスケザネさんが言ったネズミ用の入口があるとかもそうだし、街の中、街そのものが手が込んでてかなり面白いんですよね。
細かい処までよく出来てて、例えばジュディが帰ってきて、ニックと再会するところ。橋をくぐったところにニックが寝そべっていて、そこで橋をくぐった陰にジュディがいて……とか当たり前にさらっとやっちゃっているんだけど、再会する場所でよくあそこを思いつくよな、みたいなことが結構あって。背景の力がすごく大きく、それが世界観を含めて、そのキャラクターを立たせるための街並みとかが、すげー凝ってるなっていうのが一つ。
二点目は、脚本です。クレジット見た時に脚本に携わってる人がめっちゃいるんですよね。ジブリも結構そうなんですけど。10人とか12人とか平気でいるんで、やっぱりこう話全体が水も漏らさぬ造りというか。
例えばこの「ズートピア・シーン一覧」見ると、これまずシーンが多すぎるだろ、とか思わない? 上映時間は108分、ラストの歌が8分くらいあるんで、ズートピアって、結局100分なんですよ、たったの。100分でこれ全部やってる上に、何なら一つ一つのシーンがもっと細かいわけじゃないですか。
最初に幼いジュディの学芸会のシーンがあったし、その後に親子で歩きながら職業の話をして、お前はニンジン屋になるんだって言った後に、いじめがあって。これだけでもう3分ぐらいで、ぱぱっとやっちゃう? みたいな。しかもこれ連発されていくんですよね。
聞いた話なんですけど、ピクサーって脚本が分業で、ギャグに強い人とか、シリアスが上手な人とか分けてるっていうんです。それぞれの得意を持ち寄って、全体として成果を挙げられるって言うのが、アメリカ的だなと思いましたよね。日本でここまで人集めてやる脚本って、そんなに聞いたことないので、その辺が最初の印象ですかね。
ネオ:「最初の印象」がもうレベルが高すぎるって言うのが僕らの感想です。
全員:wwwww
タケハル:用意してるのよ、これは。聞かれると思っているから、第一印象。
全員:wwwww
スケザネ:今のタケハルさんの、シーンが多いというのは、言われて確かにって思うし、テンポ早いですよね、だからわずか100分にもこれだけ詰め込めていて。で、そのシーンでの問題意識というか、シーンが向かっていく先っていうのが絞り込まれてシンプルなんですよね。だから、テンポ早くても、観てるこっちが全然混乱しないし。
この物語の中って、各シーンで起きている問題トピックがちゃんと絞られているんですよね。そこの制御とか、観客への伝え方っていうのが、結構テクニカルにうまくやられてるんだと思うので。
タケハル:本当ですよ。だってそれだけ節約した時間をナマケモノに使ってるんですからね。
他3名:www確かにwww
タケハル:あの時間があったらもう3シーンぐらい進められますよ。
スケザネ:隣の奴にギャグ言うシーン、いらねーだろ。
タケハル:ホントホント。あの5秒あればみたいなことなのに。
ネオ:でもナマケモノのシーンをみんな一番覚えてるよね。
タケハル:そうなんだよね。その勇気よ!
スケザネ:オチ持ってきてるからね。あれはね。
Dain:確かにオチだったwww
タケハル:ま、ま、そんなところで。
Dain:次はネオさん?
2. キツネ避けスプレー=内なる差別意識
ネオ:まず最初に『ズートピア』をテーマにしようって僕が言い出したので、皆に観てもらってありがたいです。映画館で観た時に、「なんという傑作だ」っていう印象があったんですけど。
で、すげーって思ったのは、主人公のジュディの意識のところ。自分は差別されている側っていう意識だったんだけど、記者会見するくらいのいいポジションが得られたとき、今まで意識されてこなかった内なる差別意識っていうのが、思いっきり出てきてしまったみたいなところ。僕の哲学的な関心って、そういう自分の内面を見つめるところにあるんだけど、そういう面からしても、面白かったなっていうのが、ひとつですね。
あと印象に残ったシーンとして、駐車違反を取締りまくりますよね。もう他人を蹴落として手柄をあげるって感じで、誰も喜ばないようなやり方ですよね、年末みたいにwww 。出世とか実績っていうには、やっぱり他者の犠牲が伴うんだなーと。他人に害を与えないと自分が手柄を立てられないということが、なんかわかるなあとか。
スケザネ:いやあこれはいいセレクトしていただきました。
タケハル:ホントに!
スケザネ:じゃ感想はこれで一通りって感じですかね。
ネオ:皆さんもコメントで感想あれば、チャットでも自分の感想を。
スケザネ:ちなみに、皆さんもご覧になったんですかね?
ネオ:見た方はぜひ手を上げておいてください。
Dain:(チャットより)Mr.深煎りさんが、「狐用のスプレーを手放せていないのが印象的ですよね」って話されてますね。
ネオ:それが差別意識の表れですかね。それもちょっと難しいんだけどね。現実の女性が護身用のベルみたいなの持ってたら、男性に対する差別なのかって話になっちゃうから。それは難しいんだけどね。
Dain:差別や偏見の眼差しからすると、誰でも被害者から加害者になりうる、という話ですよね。「ああそうだな」と僕も思いましたね、
ジュディが「警察学校を主席で卒業する能力があるのに、駐車違反の取り締まりみたいな仕事をやらなければいけないの」みたいな言い方をしていて、それって駐車違反の取り締まりみたいな仕事は能力がある人にふさわしくない、っていう。それって、そういう人への差別や偏見じゃね?とかいうようなツッコミがスルッと出てくる。
記者会見でジュディが、ニックを傷つけることを言ってしまうところ。「あんなやつらみたいな」「あなたはあんな奴らみたいなものではない」なんて言い方をしてて、ニックから「あんな奴らみたいなってどんな事?」て言われるところ。それって、肉食動物に対する偏見じゃね? って隠しているのか、隠れているのか分からないけれど、そうしたものがポロっと出てしまう。差別や偏見は嫌だとジュディは思っているし、そうありたくないと言っているんだけど、それでもやっぱり自分はそうしていることに、自分で気づくという……
ネオ:ニックのおかげで気づけるっていう。
Dain:そうそう、ニックのおかげで気づけるっていう。
タケハル:ありましたね。
ネオ:Dainさんの聞いて思ったのは、こんな仕事は私がやるべきことじゃない、って思えるからこそ、あれだけ容赦のない取り締まりができると言うか、良くも悪くもプロ意識というか、その辺がうまくつながってすげーよ『ズートピア』。
タケハル:ありましたねえ。
スケザネ:象徴的なのは、キリンの車に駐車違反の切符を入れる時に、キリンのところに届かないから、標識みたいなのを踏み台にジャンプして、スッと差すシーンとか、ああいうところで何か遊び心が定期的に入るんですよね。また視点が変わっちゃうんですけど、あれは好きでした。
タケハル:それ結構大事だと思いますよ。最後の最後、ジュディがモノローグで、受け入れるってのは簡単じゃないって話をしているとき。虎と草食動物の子供がサッカーしてて、ジュディが間を通り抜ける時に、ジュディがボールを取ってリフティングするんですよね。別に入れなくてもいいんだけど、あのリフティングが入ることで、ちょっと見てられると言うか。そういう細かいものが積み重なると、スムーズに見ていられる。その工夫を抜きにして伏線をひたすら回収するだけにすると、意図が見えちゃうというか。
ネオ:遊びとか余剰のところが、全体を自然にするというか、そういう感じ。
タケハル:そこで手を抜かないというかね。
スケザネ:本当は駐車違反のシーンなんてすげー退屈ですもんね。それだけ切符を切ってるだけだったら。
タケハル:下手すれば、ジュディ嫌いになるかもしれないからね。
スケザネ:確かに、確かに。
3. 【重要】ジュディとニックは可愛い
タケハル:その流れで差別の話にも繋がるんですけど、無自覚であるジュディの方が問題みたいなとことか、さらにそれに対して、いや別にジュディは女なんだからいいだろう、みたいなところも言い出したりとか。
ただ僕が面白いなと思ったのは、そうと言っても、みんな結局ジュディとニックが好きなんですよね。ジュディとニックは可愛い。そこについてはブレがない。
これ逆に言うと、ジュディとニックがウサギとキツネだったから可愛く見えたけれど、草食動物と肉食動物だったら、例えばロバとハイエナだったらどうなんだろ? あんまり感情移入できなさそうなサイズだったりすると、全く同じことしても、この議論に行く前に、そもそもこの議論ができないんだけど。ただそうなると、それも差別じゃないの? みたいに思ったりとか。
Dain:はいはいはいはい。
ネオ:なるほどね。
スケザネ:そうなんです、そうなんです、そうなんです。
タケハル:だってね、ウサギはあんな目をしてないからね。ジュディはある程度、可愛く受け入れられるようにデザインされているんだけど、逆に言うと、ロバとハイエナのコンビでも受け入れられるやつが、差別のない精神を持っているかと言われると、それはちょっと違和感があるというか。その辺いろいろ考えましたよ、差別について。
ネオ:確かに。この作品のキャラの差別意識だけじゃなくて、僕らの持っているそういう感情というか、無意識的な評価だよね。「ウサギ=かわいい」とか「キツネ=ずる賢い」とか。
Dain:それを逆手にとって、うまく引き込んでいるのかもね。ジュディをウサギにして可愛くしているから、ジュディがそういう差別的なことを無意識にやってて、それをイラっとするかもしれないけど、それでもウサギだし可愛いし。その、可愛いという思いにはなかなか勝てないということですよね 。
タケハル:可愛いは正義か。
Dain:可愛いは正義。
タケハル:これは結構根源的なものがあるよな、と思いましたよ。
スケザネ:ふむふむふむー。
タケハル:でもね人間的には、ルッキズムみたいなことで、よくオーバーサイズのモデルとかの話をするんだけど、あれに対するのも、ちょっと僕は個人的には……いてもいいと思うんですけど、違和感があるのはあるかなというのが本音としてはありますね。
スケザネ:ちょうどこのまえ、『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』(※3)って本が出たんですよ、まさに今の話で。
例えば綺麗な蝶って色んな糞に止まるから結構汚いという、そういう話が飛び出してきて。動物に対するイメージって、昔から我々が勝手に作ってきたイメージなんですよね。
だから、最後にアイドルのガゼルが効いてくる、って思ってて。ガゼルって温厚なイメージもあるし、あの役どころって、本当にぴったりだと思うんですよ。アイドルで、博愛精神みたいなものを体現しているんです。あれメスのガゼルで、オスはツノが生えていたりとか、徒党を組んで身を守ったりして結構強いんですよね。だからガゼルに託した意味って何なんだろうな?っていうのはずっと考えてます。
ウサギとかキツネは完全にこれは商業的にこうせざるを得ないと思うんですよ。それこそさっきのロバとかにはできないんですよ。ガゼルを持ってきてるのは分かるんだけど、なんかここを攻めたんじゃないかな、と。
タケハル:なるほど。
スケザネ:ここは攻められるというか、ちょっと謎ですね。そういう印象です。
タケハル:なんかね、日本人と西洋人の印象が違いますよね。ガゼルとかいないもんね。
スケザネ:ピンとこないですね。
タケハル:ちょっとピンとこない。
4. 人間っぽくさせない動物で人間社会をやる
Dain:『ズートピア ビジュアルガイド』(※4)にリッチ・ムーア監督のコメントがあって、ガゼルのキャラクターを作るとき、シャキーラっていうトップスターを参考にしたんだって。シャキーラって分かる? 俺分からん。
(チャットより)ゆすもひ:シャキーラはエロティックなダンスで歌うプエルトリカンです。
Dain:そのシャキーラの流し目の仕方とかをモデルに、ガゼルの動きを作ったんだって。ズートピアにはいろんな動物が出てくるんだけど、このガゼルのところだけ、わざと人間の髪型にしてて……
タケハル:ああ!確かに髪生えてた!
スケザネ:ああー!確かに。
Dain:なので、なんかズートピアって、人間っぽくさせないように、人間に動物の着ぐるみを着せたようにはさせないようにしてるのに、でもガゼルだけは特殊な存在にしたっていうのは今、まさスケザネさんの攻めてるっていうのはそこなのかもと思いましたね。
スケザネ:なるほど。たしかに人間の髪型だわ。
タケハル:すげえな、やりすぎだよ、はっきり言って。作り手からすると、すごいなって尊敬する反面、勘弁してくださいよっていう気もちょっとする。
スケザネ:わかります。それはわかりますわかります。めっちゃわかる。もう、そんな作り込むかね、みたいな。
タケハル:ほんとほんと。なんで思いついたんだよそれ、みたいな。この悔しさ。
スケザネ:悔しいですよね、わかる……差別の話にちょっと戻すと、物語を作るときに、こういう現実の問題っていうのにどれくらい向き合うかっていう話が出てくる。前回の物語の探求にあった寓意の話にまで戻るけど、この塩梅、すごい絶妙だなって思う。難しいんですよね、これ。差別の問題とか、人種、あとセクシャルな問題って、すごくセンシティブで、下手にやると叩かれて終わるんですよ。それこそ下品なやり方なんですけど、これを「人間」でやったりなんかしたら、絶対に問題が起こるやつ。
タケハル:大変なことになるっすよ
Dain:人間でやったら問題起きるね、これ。
スケザネ:そうそう、これを動物に逃すっていうまず発想が違うんですよね。例えば、最初の開始10分で、「この世界でキツネは差別されてる存在なんだよ」っていうのをばーっとやっちゃう。で、観てる方には、なるほど、この世界でキツネは差別されてるんだと伝わる。まぁ、我々の持っているイメージとそう遠くないからすんなり理解できる。で、ジュディが駐車違反の取り締まりをしているとき、アイス屋に入っていくニックを見て、「ん?あいつ怪しいぞ」って目をするんですよね。
タケハル:したした。
スケザネ:ここすごく大事なシーンで、ジュディもあの瞬間、「キツネだから」って偏見で追ってるわけですよね。で、追っかけて中入った後、「パパだからいい人」って判断を下すわけじゃないですか。
Dain:あー
タケハル:したした
スケザネ:「息子思いのパパ=いい人」、「それを迫害するゾウ=悪い人」みたいな公式でいくと、「キツネ=差別される人」という公式を、ジュディも持ってることが簡潔に表されているんで。観るほうも無理なく受け入れられるというか。あの情報制御のバランス計算が本当にすごい。変に説明しすぎちゃうかもしれないし、逆に説明がなさすぎて、なんでキツネってこういう風に思われてんだろうってなっちゃうかもしれないのを、ほんとここは現実とフィクションの世界のちょうど、こう上手いバランスがとれて、見てる側にスッと入らせる。
タケハル:すごい時間かけて書いてますよ、あそこ、それこそ。
スケザネ:大変だと思いますよ。何回もリテイクしてると思う。
5. 没となったディストピアな『ズートピア』
タケハル:「シナリオ400本捨てた」とあるけれど、なんだっけ、誰かが言ってたけれど、「長いシーンを書くのは比較的簡単で、短いシーンを作る方が難しい」みたいな話、どっかで利いたことがあります。しかもセリフなしですからねここ。この一連の流れ、映画的な文脈でやっちゃうってのは、かなり頭を使わないとできないです。
スケザネ:うんうんうんうん
Dain:シナリオ400本捨てたってやつ、たぶん400本のシナリオを書いて捨てたんじゃなくて、400回ぐらい書き直したって意味だろうから、まあ捨てたっていうのは言い過ぎかも。それでも、何回も書き直したことは、よくわかりますね。
スケザネ:そうですねー、たぶん実際捨てられたエピソードもいっぱいあると思いますね。ほんとはこんな動物がーとか、レインフォレストとか、いろんな地区あったと思うんですけど、言及されるだけで行かない場所とか、ああいうところ絶対話があったりしたけど、結局それ捨てられちゃったんだと思いますね。
Dain:そういや捨てられたエピソードで思い出したけど、ニックと一緒にいたスナギツネかなんかの…
スケザネ:あー、赤ちゃんのふりしてた
Dain:それ、赤ちゃんの格好してたんだけど実はおっさんっていうやつ。あの二人は、実はハンバーガーショップで働いてたっていう話があったみたい。スナギツネは店員をやってて、ニックは機械のメンテナンスみたいなことをやってるとか。『ズートピアビジュアルガイド』見ると、店の名前は「シェチーズ」で、経営者の顔も載ってる。チーズバーガーにチーズが何枚入っているとか、パテが何枚とか、メニューまである。
スケザネ:細けぇ~
Dain:それ見てて気づいたのが、やっぱこの世界でもハンバーガー屋がある。ってことはこのパテは何の肉なんだろうなという疑問が出てきて。時間的な制約から外したのと、やっぱり食べ物系を入れるとまずいので外したのかな。
スケザネ:すごいな、ボツのハンバーガー屋までそんなに作り込まれてたんですね。
Dain:そう。ボツ案もね。さっきのレインフォレストも、ズートピアのどのへんに位置してて、どういう生態系になってるかも、事細かにビジュアルも含めて作り込んでいるんですよ。なのに、映画はほんとにさらっと流れるっていう、ほんとのワンシーンなんだけどね。
タケハル:いやー、でもすげえな、やっぱエネルギーのかけ方が!
Dain:「ズートピアの都市設計」を見ると、ズートピアの都市設計だけで、デザイナーさん4人いるみたい、すごいわ。最初にタケハルさんおっしゃってましたけど、最初に世界を、ズートピア作って、その後にストーリーを作ったんじゃないかしらって思います。
スケザネ:なるほどなぁ!
Dain:ボツ案で凄かったのは、「ズートピアの削除シーン」で知ったんだけど、最初はニックが主人公だったというやつ。ジュディなんて影も形も無かった。んで、肉食動物と草食動物が共存するため、肉食獣には首輪が義務付けられていて、「肉を食べたい」という欲望が起きるたびに、首輪に電気ショックが流れる世界なの。どう見てもディストピア。
スケザネ:へぇ~
Dain:「肉を食べたい」欲求を我慢しながら、草食獣と一緒に過ごさなければならない。当然、ストレスが溜まる。で、ニックの役柄なんだけど、そういう世界で、ちょっといかがわしいお店をやってる。人間でいうとアダルト関連で、押さえつけられた肉欲を解放できるようなお店なの。そこでは、ミニチュアの草食獣を襲って欲望を発散させるの。本物の草食獣を襲ったら電気ショックが流れて犯罪になるから。ニックは、そういういかがわしいお店の経営者を目指すっていうストーリーだった……らしい。
スケザネ:へえぇ~!
タケハル:絶対ディズニー無理でしょ!
Dain:ところが、あのジョン・ラセターっていう、ピクサーでは神様のような監督に、ある程度出来たものを見せたら、「こんなの観たい? こんな辛い世界に誰が住みたい?」ってぶった斬って、作り直しになりました。普通こう、動く絵まで物語を作り上げているのに、もう一度戻そうとするって、英断というか、勇気がすごいなぁって。
タケハル:このエピソード、いろんな示唆がありますよね。さっき僕もいっちゃいましたけど、そんなのディズニー撮るわけねえじゃんって、外からみてれば思うんだけど、少なくとも企画書あげて、絵までつけてるんだから、作ってる最中はそれわかんないっていうことですからね。クリエイティビティっていうか、自由に作るとき、やり始めるとなんでもありになって、ディズニーだからいいとかダメとか考えず、思いつかないところまで一旦は振り切るみたいな。そこにやっぱり、ジョン・ラセターはやっぱりすげえって思うけど、彼は自分でも話作るだけじゃなく、それをこう、ジャッジできる目を持っているのは、特殊ですよね。
Dain:なるほど!
タケハル:しかも、これからもっとまずいの、ジョン・ラセター、いまディズニーにいなくなっちゃったっていうのが問題で、そこには別の問題ちょっとありますけど。
スケザネ:たしかに、企画がある程度までいってから戻すっていうのは、業界としてよく聞きますし、まあ珍しいことではないんですけど、こうやって聞くと、わ、そこまでやったんだってのは驚きですね。だって、テーマの設定とか、対象年齢の設定とかからもう一回やり直したんでしょうけど、ほんとに。ジョン・ラセターすごいな。
Dain:それって物語の完全な作り直しですよね、カットを変えるとかシーンの入れ替えってレベルじゃなくって、物語の設定とか背景とか、根幹から変えて、まあ主人公変えちゃってるっていう時点でそうだけど。
タケハル:たぶん、このボツ案のアイディアとかも、どこかで使ってて、完全な無駄って無いとは思うけれど、実際やってる側としては、今更変えないでくれよみたいなことが……あと、なんならもう一個誘惑としてあるのが、多分この、ディストピアバージョンでも、ある程度の正解はあるっていうか、別にディズニーだってことを抜きにすれば、好きな人にはハマるかもしれないし。そういう誘惑をすべて退けてやり直すっていうのは凄い。
スケザネ:現実問題として予算とか締め切りもありますからね。
タケハル:そうそう、怖すぎますよ。まあでもこれも、今回までかもしれないですけどね。ジョン・ラセターいないから。
スケザネ:なるほど。
Dain:ダメ出しできる人。
6. 『トイ・ストーリー4』の本質=「〇の〇離れ」
タケハル:そうなんですよ!若干ずれちゃいますけど、『トイ・ストーリー4』ご覧になりました?みなさん。
スケザネ:あー、4見てないですねー。
タケハル:あんま先入観持たせちゃいけないですけど、それでもいうと、4は違うんじゃないかと。今までのテーマはどこにいったんだとか、バズそんなやつじゃなかっただろみたいなことが、結構あるんですよ。で、それがちょうどラセターが、セクハラ問題でいなくなった後にできた最初の映画が『トイ・ストーリー4』だったんですよ。で、注目してたら、いややっぱりラセターいないとダメだみたいなかんじがあってですね。
Dain:うわあ……
タケハル:いま『2分の1の魔法』やってますけど、そんなにウケてないのは、コロナだからしょうがないよねって感じで流れちゃってるけど、違うんじゃない? それじゃすまない問題がピクサーに起こってるんじゃない? 大丈夫か? クリエイティビティ落ちていないか? という危惧はありますね。
スケザネ:これあんまり、盛り上がってないですね。
Dain:そもそもそんなのやってるの、全然知らなかった……
ネオ:俺もこれはじめて知った
タケハル:コメントでゆすもひさんから「4好きの意見を聞くとよく理解できた」ってお言葉があります。
Dain :ちょっと発言できます? 4好きの人の意見。
ゆすもひ:ゆすもひです。こんにちは。喋らないほうがいいんですかね、これ?
スケザネ:大丈夫です。
ゆすもひ:この話、「親の子離れ」の投影っていう見方で見ると、当てはまるっていうことらしくて。たしかに4でアンディが変わりますよね。キャラまったく変わるんですけど、あれはもう親心って目で見てあげないとダメみたいな話なんですね。そこらへん掘って探されると、なるほどっていう意見が見つかるかもしれないなと思ってコメントしました。
タケハル:なるほどー。俺も親離れできてないのかな。
ゆすもひ:親離れの話、それで見るとすごいよくわかります。
タケハル:ちょっと探してみよ。
Dain:ここで言う親とは? 誰なの?
ゆすもひ:親はアンディです。
Dain:アンディが親。なるほど。
ゆすもひ:あと、フォーキーがゴミか、おもちゃか問題ですよね。そのあたりも結構納得できる、私もわかんなくていろいろ探ったんですけど、「親の子離れ」だと、結構納得できる意見で、なるほどと思いました。
タケハル:ちゃんと調べよ。いや、ありがとうございます。
7. なぜベルウェザー副市長は陰謀を企んだか
ネオ:そうですね。みなさんのチャットでも、このシーンとか印象的でしたとかいうのあったらね、ぜひぜひってかんじです。
Dain:じゃあ僕から。ここでみなさんいると思うんで、いろんな意見を聞きたいなあっていうので。それは、「なぜベルウェザー副市長は陰謀を企んだか」ってところ。映画だから、悪役がいるかなーって、物語を作るほうからするとベルウェザー副市長は非常に物語あるある。最初は協力者だったけど、実は黒幕っていう、教科書みたいな。面白さからすると正解だと。
で、今度は物語に没入して楽しむ方からすると、なぜ彼女が陰謀をたくらまねばならなかったのかっていう動機を考えると、ひっかかってて。
そのヒントになるのがラストの博物館、クライマックスのところ。ジュディに向けたセリフなんですけど、「ちゃんと評価されず、いつも低く見られて、あなたもうんざりのはずよ」。草食動物で、力が弱く体も小さいからといって、低く見られて、いい仕事をもらえずに、能力的にはあるのかもしれない。ベルウェザーに寄せると、能力的にはライオン市長よりも上かもしれないけれど、副市長の立場に甘んじているみたいな。
これをなんとかしたかったんだっていう、そんな話なのかなって。で、なんでそれで羊だけが悪役にするのかなっていうのが分からなくて、ネットで意見を探してみたら、「もしジュディが、駐車違反の仕事ばかり延々とやらされて、ニックに出会うこともなかったら、おそらくベルウェザー副市長みたいになったんじゃないかしら」という呟きをみて、ちょっとぞっとしましたね。ベルウェザー副市長は、ニックに出会えなかったジュディなんだと。
タケハル:おお~
スケザネ:いや~そうっすね、結構時代もあったので、オバマと白人的なことをずっと思い出していまして。要は黒人というものが大統領になった、で、白人側からすると面白くない感触に追いやられた人もいると思うんですね。で、恨みを募らせたっていう恨みの募らせ方も、単純にその仕事ができるできない以上の複層的なものがあったんじゃないかと思うんですよ。当時の一部の白人には。
で、結果としてその時の膿とかっていうものが今トランプって形になっていると思うんですよ。それが、さっきのニックと出会わなかったジュディと実は結構重なるところがあって。オバマ的なものをなんとかして追い落としてやろう、あいつらは危険なやつらだ、昔から危ないやつだったじゃないかっていうプロパガンダで追い落としていくっていうのは、なんかすごく納得できるキャラ造形というか。
現実から逆算しちゃうんですけど、ベルウェザー副市長に落とし込むのであれば、もともと肉食動物っていう危険だったやつが今トップにいて、で、私は地下の狭苦しい汚いところで秘書みたいな仕事をさせられていると、私なんか票集めの道具ですよ、私の方がきっと仕事もできるのにと鬱屈してくる。
だから、ジュディから仕事を任せてもらった時、すごい誇らしそうな、嬉しそうな顔になったりとかするのはそういうところだと思うんですよね。私はできるんだと。ジュディの「私は警察学校首席で出たし仕事ができる」っていう自意識は、たぶん同じものをベルウェザーも持ってるんじゃないかと。
しかも女性でってところもポイントだと思っていて、そういういろいろな恨みが彼女の草食民意識とか性意識とかいろいろなものが結構凝縮されて、復讐に走ったんじゃないか、陰謀に走ったんじゃないかっていうのは、自分の考えですね。
Dain:なるほどすごい! 納得っていうか、言われてみるとそうかつながるわーっていうとこあります。
ネオ:市長っていう地位も、女性を官僚につけるってことでイメージアップみたいなことが現実にもあったりするじゃないですか。これに利用されてるって自覚もベルウェザーはもってて、もう明らかに言葉でセリフとしてでてるから、そういうところでの鬱憤みたいなものはきちんと表現されてるなとは思いますね。
Dain:なるほどー。ありがとうございます、腑に落ちました。当時の政治の、あんまり生々しく描いちゃうと炎上する燃料になっちゃうから、黒人白人女性の話も、動物の形にして、まさに戯画化というか、比喩として寓話化してやってるんだなーっていうのも含めて理解できました。
8. 『ズートピア』を現実社会の写し鏡にしなかったわけ
ネオ:そうなんすよね。だから、スートピアのすごいところって、完全にまるっきり同じにはしてないんですよね。だから普通だと、黒人がちゃんと評価されず低く見られるって偏見があると考える方が自然じゃん。スケザネさんの説明だと、オバマ大統領が誕生して、なんか白人の鬱憤がたまったみたいになるけど、でもズートピア的に考えると、むしろベルウェザーは数で言えばマジョリティなんだけど、草食動物で、でもずっと差別されてたっていうような側だから、ズートピアって完全に同じじゃないっていうのがすごい。
現実社会とズートピアが、分かりやすいパラレルな関係にはなってなくて、必ず、ちょっと微妙に違わせてるっていう。だから、草食肉食がマイノリティ、マジョリティっていうふうにもわけられないんだよね。アメリカ社会の反映というか。だから数でいったら草食動物のほうが圧倒的に多いんだけど、アメリカ社会って白人の方が多いわけで、みたいな。そのへんがよく考えられてるなっていうか、すごいなって思うところ。
スケザネ:なるほどね!
ネオ:だから、逆にこの作品を見て、自分がすごい揶揄されてるとか思う人がいないんじゃないかなって気がするんですよね。
タケハル:そうね。言い方あれだけど、都合の良いところで感情移入できるようになっちゃうから。
Dain:確かに。
スケザネ:確かに、確かに。
タケハル:よくよく見ると違うんだけど。
Dain:そうか、これネオさんの言う通り、ストレートっていうか、現実を寓話化するときに示すほうと示されるほうが、本当リニアにというか、きれいにパラレルに移行しちゃうと、「揶揄されているのは自分だ!」ってすぐわかっちゃうから、そこはうまく作り込んでいる。微妙にずらしてたり捻ってたりしていると。
ネオ:まあそうなんじゃないかなあ。
Dain:なるほど。そのために、タケハルさん言う通り、自分ではなく他の人を表象しているがために楽しめる。楽しめるっていうか、自分のことは言われてないように都合よく受け取ることができるっていう。そこまで仕掛けられてるかと思うと、ちょっと恐ろしいぐらいの物語の作りようを感じますね。
ネオ:まさにそうしなかったら、動物に比喩した意味がないってことになりかねないですかね。動物に比喩するから、ある種他人事というか、そういうふうに見れるっていうところも関係あると思うんですよね。動物にしても自分のことだと思っちゃったら意味がないというか。だから、あと例えば最初に凶暴になった動物ってなんでしたっけ?
タケハル:カワウソ?
ネオ:カワウソ。そう、そういう微妙なところ!全然馴染みがない感じの。
スケザネ:肉食なんだあ、くらいの。
ネオ:ライオンが凶暴になったとかさ、オオカミが凶暴になったとかさ、ああってなるけど。え、カワウソ?みたいな。だから誰も揶揄されてるように感じないっていうのはあるかもしれない。
タケハル:そういやいま思ったけど、イヌとかネコっていたんだっけ?
ネオ:オオカミはいたよね。
タケハル:いなかったんじゃないかな。
スケザネ:いまパッと出ないですね、少なくとも。
Dain:『ズートピア』の全員が出てるビジュアル見てるけど、コアラ、シマウマ、ハリネズミ、リスとかいるけれど、イヌ・ネコはない。ないわー
タケハル:受付はチーターです。チーター。
スケザネ:これ本当に英断だと思うのが、絶対海外展開を考えてたはずなんですよ、ピクサーだし。っていうことは、アメリカに限らずいろんな国の人がピンとくる動物を選んでいると思うんですよ。よくちゃんと日本でも「ああ、あの動物ね」ってなったってのがすげえなって思ってて。裸のクラブの虫いっぱい集まっているあいつ、まあわかんなくはないけど、ぐらいでしたけど。あとほぼわかんないことなかったんで。あのへんって相当気を遣ってるはずですよね。
タケハル:あのハエたかってるのよく出したよね。結構ギリギリだと思ったけど。ウシ・ブタだったり…
Dain:そうそう。これ僕の謎にもつながるんですけれど、いない動物を言うとイヌ・ネコいないし、サルもいないし。
スケザネ:サルいないのかあ。
9. 『ズートピア2』はトイ・ストーリー型かアナ雪型か
Dain:たぶんサルは人間を彷彿とさせるからいないんだろうけど。あと、やっぱり食べ物を避けてるように思えてて。警察署長はアフリカ水牛ですけど、あれは肉用じゃないし。普通に食べ物を思い浮かべるウシ、ブタ、ニワトリっていうのはいないなあって引っかかったところなんで。『ズートピア2』やるんだったら、このへんの問題を明らかにしてくれるとおもしろいんだろうけれど。やり過ぎかも。
タケハル:こうなったら『ズートピア2』はあれですね、「植物からの抵抗」みたいなことがテーマに。動物は、当たり前のように植物を食べてるけど、私たちには進化する余地もない、みたいな展開で。それぐらいしないと、鳥とか海の動物とかだと予想ついちゃってる気がするんですよ。
ネオ:確かに、ディスニーで植物が主人公とかってあんまりないよな。
タケハル:木がしゃべるとかあるかもしれないけど、これぐらいやんないとね。ちょっと前に植物のほうもハマってた時期があって。植物は基本、食われる立場にいるけど、植物こそが生物を支えてる、みたいな話。雑草とかも、人の入らないところに生えたりとかして、文句言わないとか。なんか全然違う角度から攻めるっていうのはありかもしれないけれど、ヒットするかはわからない。
ネオ:植物の孤独を描くっていうのが。
タケハル:そうそう孤独ね。めちゃめちゃメジャーじゃないな、どうにも(笑)
ネオ:サボテン主人公にしてほしい。
タケハル:ちょっとおもしろそうだね。サボテンだったらね。
スケザネ:『ウォーリー』とかね。ちょっと植物をめぐる話だったりしたけど。
ネオ:『ウォーリー』はよかったなあ。
スケザネ:続編の話だけど、ピクサーとかディズニー系の続編でパターンがあると思ってて、アナ雪型とトイ・ストーリー型のどっちかがあるかなと思ってて。
トイ・ストーリー型は螺旋状で。『4』はちょっと横に置いておくとしても、基本的に上にやっていく型。いきなり新しい大事件がボーンと出てくるとか、進んでいる感じではないと思うんですよね。基本的には同じメンバー、同じ時代感、同じ感覚で、上に積みあげていく感じ。
アナ雪型は、時間が完全に進むんで。『1』で起きたこと踏まえて、今度こういう新しい事件が起きます、ボン、みたいな。これ本当に難しいんだと思うんですよね。こっちのアナ雪型は。『アナ雪2』ってそんなにいい評判聞かないし、『1』は俺好きだったんだけど、『2』はちょっと微妙だったんですよ。
『ズートピア』は、このアナ雪型にいくしかないんじゃないかという懸念が正直ありまして。もうおおむねのことが終わってしまった、このズートピアでもう一回お話を作るには、やりようはあるんだけれども、最近のピクサー的には新しい大事件――それこそ植物が反乱してくるとか――を起こすしかもうやりようないんじゃないかな。でも、個人的に観たいのは『トイ・ストーリー』みたいにそのズートピアでまた何か、その完結した中で新しい何かを起こすっていうほうが観てみたい気はするんですけどね。
10. 勇気を持って、マンネリ化
タケハル:アナ雪型になるのか。俺も個人的にはトイ・ストーリー型でやってほしいな。もうバディができたんだから。ニックとジュディっていう。もうドラマとかで、一話完結で街の事件を解決する程度とかね。いいんじゃないかなと思うんだよね。無理してがんばらなくてもいいんじゃないかな。っていうかもうがんばらないでくれもう、みたいに言いたくなっちゃう。
ネオ:『スター・ウォーズ』のアニメ版みたいな感じでいいと。
タケハル:そうそうそう、いいよいいよ。『マンダロリアン』でいいよ。『クローン・ウォーズ』でいいよ。
ネオ:確かにね。警察官のバディ、『相棒』でいいよってことか。
タケハル:『相棒』でいいの。毎回新しい犯人が出ればいいの。
Dain:それ言うとバディものの、刑事・警察ものの映画で『リーサル・ウェポン』ってシリーズで続いてたんだけれど、みんな知ってるかな? おっさんしか知らんかもしれん。
スケザネ:「1987 アメリカアクション映画」っていうのが出た。
Dain:そんな昔なんだ。確かね、『4』ぐらいまで出てたはず。
スケザネ:ほんとだ、続編ありますね。TVドラマシリーズも2016年から放送中みたいです。
Dain:知らんかった。デコボココンビのバディもので反りが合わないんだけど、無理やりバディにさせられちゃって。あとは次から次へと新しい事件が、新しい犯人がっていう、そんな話。もし『ズートピア』がそっちにいくんだったら、『ズートピア1』がバディ誕生で、『ズートピア2』がそのバディものっていう。昔からの映画のお作法を守っていけば、きっとずっと続けていけるだろうなあ。なんだけれど、それがおもしろいかっていうと、「普通におもしろいね」っていうぐらいかなあ。どうなるんだろう。
ネオ:タケハル先生の話を聞いて思ったのは、これ完成されたすばらしい世界じゃないですか。まさに「ユートピア」になったわけじゃないですか。その世界観をやっぱり壊しちゃだめだって思う。だから、まさにみんなが住みたくなるような世界での小さな出来事とかを扱っていけばよくて。それでだんだん進んでいくごとに、例えば草食動物がついに市長になるとか、そういうことがあってもいいかもしれないけど、根底の世界観としては安心できる「水戸黄門」みたいな続編でいいと思う
タケハル:ずいぶん草食動物的な発想になってきたけど。
ネオ:変に植物の反乱とか、やんなくていいような気がすんだよ。
タケハル:確かに、そう考えるといらないかもしれない。
ネオ:やりたいならもう別の世界でなんかこう。
スケザネ:『アナ雪』は別の世界に行っちゃったんだよな、だからな。
タケハル:偏見出ちゃうけど、白人のほうが狩猟型っていうかさ、次なる地平を求めるみたいなことで、新しいことやりたがるんじゃないかな。草食人物たちは、やっぱり「水戸黄門」なり「寅さん」なり、農耕生活になってんじゃねえかな。
Dain:おそらく『2』の企画書でも、バディものにしようって案があるはず。
スケザネ:あるでしょうね。
タケハル:なあなあ展開しようっていうのはあるでしょう。
Dain:せっかく「ズートピア」っていう世界があるから、そのなかで次から次へといろんな事件を起こせばっていうふうにすればってありだと思う。けれど、実際その物語に予算を割り当てる人が、本当にそれを選ぶかどうかになると、どうなんだろう? 安全すぎるとかって言うのかしら。投資としては安全だと思う。いま僕が思ったの深煎りさんがコメントしてくれて、「社会風刺が入るような」っていう感じが。バディもので、その時その時の社会風刺がチョロチョロっとこう入れているっていう。
ネオ:『ドクターX』でいいってことですね。あれは要所要所時事ネタでふざけてる。
スケザネ:最後、麻雀して終わる。
ネオ:「忖度」とか言い出すし。
タケハル:やっぱりこれ、勇気を持ってマンネリ化してほしいですよね。
スケザネ:いやあ、それはいい言葉。
ネオ:すばらしい。
Dain:いい言葉だ。マンネリ化でいいとは言わんけれど、そうそう。
スケザネ:でも、これマンネリ化できるやつですからね。十分舞台がそろってるから。『アナ雪』は無理なんですけど、これはできるんですよ。
Dain:世界がすごいもん。「ズートピア」が。
スケザネ:まだまだ全然消化不良というか、描けてないところたくさんあるし、見てみたいところたくさんあるし。俺は幼なじみのギデオン・グレイとかけっこう気になってるんで。あいつの扱いってもっとけっこう重要な感じで出てくるのかなって思ったら、パイ職人やってんのかよって感じだったりとか、ああいうところとか気になるし。
タケハル:確かに、ギデオン・グレイだけで1話作れるからね。
スケザネ:絶対できますよね。
タケハル:なんなら2話で。前後編とかで。
ネオ:いろんなことが起こっても不自然じゃないっていう世界観を構築できてるよね。だから、例えば『アナ雪』でなんか起こそうとしても、「別にいいよ」とかって思うかもしんないけど、ズートピアで全然知らない動物がなんかしだしたとなると、「へえ」ってくらいになる。
スケザネ:新しい動物出すっていうのは絶対映えるもん。おもしろい動物。
タケハル:両親が都会に来るだけでも1話。
スケザネ:確かに、あの両親おもしろそうだなあ。
タケハル:「市長、恋に落ちる」とかさ。
スケザネ:無限に出せるな。
タケハル:無限にできるだろ、これ。
ネオ:重たくも軽くもできるのは、異種類どうしの恋愛とか。キツネとウサギ、今のところそういう混血っていないと思うんだよね。『ズートピア』って。
Dain:ないね、うん。ないない。
ネオ:まあ生物学的に無理なのかも知んないけど、そうなるとどうなのかなあって当然考える。めっちゃ重たくなりそうだけど。
タケハル:たまにはスパイスと一緒の回があったりね。
スケザネ:明らかにとっ散らかるな。
ネオ:ナマケモノで1話作れるし。ほぼ進まない、みたいな。
Dain:『3』も出したらやばいかな。サルは絶対出さないだろうなって思うけれど。
ネオ:サルは悪者じゃねえかなあ。
Dain:うん。悪者で、なおかつ科学技術に長けてて、なおかつ宇宙とかを目指そうとしてって大きくなっちゃうな。
ネオ:それかもう、『おさるのジョージ』みたいなの出すっていう。
スケザネ:愛嬌ある感じね。ちょっとね。
ネオ:『おさるのジョージ』は来てもいいんじゃないかな。でももう、『おさるのジョージ』もいる場所ない。みんなジョージくらい頭いいからな。
Dain:ズートピア壊しちゃったらダメだろうなあ。沈めるとかっていうのもダメだろうし。
ネオ:どうして沈めるって発想が出てきたの?
Dain:ものができたから壊しちゃえっていう発想。オチは「ズートピアとは何か」って話にする。結局、ズートピアって建物とか道路とか施設じゃなくって、そこに暮らすみんなの多様性を認める共同体なんだ、みたいにすればできるかなあって思ったけど……それどっかで聞いたことあるなあって思ったら小松左京の『日本沈没』と同じテーマや。ちょっと飛びすぎ感ある。要するに、日本という土地が沈んでも「日本人」っていう文化なり考え方は世界中に散らばってという発想。
スケザネ:場所じゃないよっていう。
Dain:そうそう、場所じゃないよっていう。あと思ったのが、『ズートピア』観る前の想像からなんだけど、動物たちのユートピア=『動物農場』というやつ。ジョージ・オーウェルの小説が浮かんじゃって。もし風刺も絡めて、なおかつエグいところも入れてってやろうとすると、『動物農場』路線に行くのかしらんって思った。ストーリーをかいつまむと、とある農場で家畜たちが反乱を起こして、人間たちを追い出しちゃう。で、動物だけで平等なコミュニティを作ろうってまさに「ズートピア」みたいな場所を作ろうとする。だけど、ちょっと賢いブタが他の動物をこき使うようになって。でも他の動物たち、ウシやウマやニワトリたちは言われるがまま働いて、何でおれたちの生活こんなに苦しいんだろうって思っているんだけれど、前人間がやってたことと同じことをブタがやるようになってて、気づいたらブタが人間に成り代わっていましたっていうオチ。これを『ズートピア2』に入れて、ブタの代わりにサルを入れてなんだけど、もうあれだけ世界ができあがっちゃってるから難しいだろうなあ、なんてなことを妄想してました。
スケザネ:それやるなら『1』しかなかったかもしれないですね。
Dain:『1』だろうな。
スケザネ:今さら壊せないでしょうね、きっと。
Dain:壊せない、ちゃんとできてるから。
タケハル:ディズニーは『モンスターズ・インク』で前日談という手を使ったので、『(モンスターズ・ユニバーシティー』だったら『モンスターズ・インク』より前だから。前の話するというのであればありですね。
ネオ:『モンスターズ・インク』あったな。
スケザネ:確かに、前日談パターンあったな。
タケハル:まあ、でも今回しつこいくらいにもうジュディとニックが最後相棒になってるから、あれだけ警官になっといてやらんのかい、みたいな感じしますけどね。
スケザネ:今さら警察学校時代の話されても、みたいなところはありますよね。
11. 自分では気づかない自分自身の良さ、「成長感」
スケザネ:けっこう自分が思ったのは、動物がどうとか種族がどうとかっていうよりも、自分自身の成長感としていいところがたくさんあるなって。「自分自身のいいところって自分自身では気づけていない」ってこの1つの作品のテーマかなあと思ってて。
さっきの虫がいっぱいたかってるあいつの話ありましたけど、実はあいつが一番記憶力いいとか、あれってあいつわかってないじゃないですか。「象は記憶がいいね」とかって言ってましたけど、自分のこと気づけてないとか。
ニック、実は警察官としての能力が高いのを、ジュディが気づいて見込むわけですよね。「あなたに依頼しようと思ってたの」って言って、ニックはそこで「おれにそんな能力があるんだ。じゃあがんばってみようかな」っていう顔になってたりとか。みんな自分のいいところって、自分自身で気づいてなくて、自分自身で押さえ込んでしまっていて、人によって、人との出会いとかで、それを今度気づかせてもらうっていうか。この作品、人種とかそういう話がどうしても前面に出てきてしまうがゆえに忘れられがちというか、あんまり目を向けられていないのかなと思ったんですけど、これは大事なテーマなのかなと感じていました。
タケハル:かなり普遍的な問題でもあるからね。
ネオ:一緒にしていいのかわかんないけど、自分の差別意識には自分では気がつけないって話とちょっとつながるかもしれない。
スケザネ:ああ、確かに確かに。
タケハル:ひっくり返したらね。
ネオ:成長できるとか、見方が変わるとかっていうのは、自分じゃなくって他者を通してっていうことは全体にあるのかもしれない。
タケハル:成長は確かにテーマとしてあったよね。最初のセリフですげえおもしろかったけど、ジュディが「警官になりたい」とか言ったら、お父さんお母さんが「ニンジンはすごくいいぞ」「ニンジンでみんなのために役立とう」としか言い出して。でもお父さんお母さんは可能性に対して、ここは塞いどいてみたいなことしてるんだけど、ジュディだけは外を見てるみたいな。そのジュディですらいろいろ問題はあるんだけど、今のとこ普遍的な問題としてみんな思ってることだし、お父さんお母さんは善意だしってところはうまく入ってる。
スケザネ:お父さんお母さんは間違っちゃいないってところも、大事なポイントかもしれないです。
12. ズートピアの普遍性は「可愛い」と「笑い」
タケハル:ずっと思ってたのが、「ニックとジュディがやっぱり可愛い」っていう話で。
ちょっと話が飛ぶんですけど、よく美しさの基準は変遷するみたいな話あるじゃないですか。平安時代のおかめ顔とかみたいなこと言うんですけど、でも思うに、このジュディとニックに関しては、例えば100年後見てもまだ可愛いんじゃないかって思うんです。動物だし。もっと個人的なこと言うと、「美は変遷する」ってウソなんじゃないかって思ってて。なぜかというと、例えば『ミロのヴィーナス』、ぶっちゃけ今見ても美人だなって思うわけじゃないですか。時代時代によって多少の好みみたいなのはあるっちゃあるけれど、もうちょっと普遍的に可愛いとかっていうものって。
今のポリコレ的な見方とか色々あるけど、たぶんそれを乗り越えて通じる可愛いさというものは、『ズートピア』にはあるって思うんですよね。「可愛い」が存在しないことには共感がまったくできないようになっちゃうか、もしくはすごく心の広い人だけが共感できる映画ってことになっちゃうから、可愛いさの基準みたいなのはあったかなあって。
ネオ:それ見た目だけど、エピソードのカッコ良さみたいな、例えばストア派のセネカが紹介しているエピソードとかってやっぱり今聞いてもかっこいいとか男らしいとかって思ったりするからね。そういう普遍性っていうものはあるのかもしれない。
タケハル:差別意識とかで乗り越えられるとか、変わっていくほうもあるんだけれど、むしろ変わっていかないものをキャッチしつつ、変わっていくものに対してきちんと追いつくみたいなのはすごくよくできてるよな、意識してるのかなって。
人間としても普遍的に反応しちゃう部分は抑えつつ、おそらく10年と言わず5年ぐらいしたら古くなっちゃうのかもしれないと思うけど一応入れる、みたいなこともどっちもやってるからレベル高えなとは思ったかな。
ネオ:それで言うと、笑いもそうだよね。前回の読書会にも出てきたけども。ナマケモノのあれってもう100%笑うよね。100年後でも。
タケハル:そうそう、100年経っても。逆に、羊のもふもふを叩くとか。アフロの人に対してアフロたたくの失礼みたいな話で。アフロの人は「たたいてもいい?」ってみんなに言われるらしいんだけど、それは本人すごく嫌だみたいなことで、それは羊も一緒ってなるけど。それはもしかしたら、100年後には無くなっているかもしれないね。
スケザネ:あれは、日本だとちょっとピンとこなかったですね。
タケハル:そうそうそうそう、わかんなかった。
ネオ:確かに、確かに。笑いに関して言えば、シェイクスピアとかモリエールで笑えるところはいまだに笑えるし。
タケハル:そうね。ネオに教えてもらった、モリエール『守銭奴』のやつ。文字通り守銭奴で金にがめついやつなんだけど、執事がやってきて、「お客様です」みたいな。それで守銭奴が「そんなの後にしろ!」みたいなこと言うんだけど、召使いが「いや、お金を持ってきているんですが」、守銭奴「すぐに通せ!」みたいに手のひらを返す。これは貨幣経済が続く限り、1000年くらいは笑える。
Dain:人間が生きている限り、貨幣経済は続きそう。
タケハル:ベーシックインカムが普及したらなくなっちゃうかもしれない。
スケザネ:電子マネーが普及してもそうかもしれないですね。
タケハル:もしそうなったら、モリエールを読んだ未来の人は、当時は人が現金を持ち歩いていること自体に驚くかもしれない
スケザネ:その話でいうと、もはやぼくらは、電話を自宅で受けることにピンとこない。みんな携帯だから。固定電話は古びる速度、結構早かったですね。
タケハル:電話で言ったら、電話が来てるよってジェスチャーがありますよね。手を受話器の形にして耳元で手を振るやつ。あれとかもう子供は理解できないみたいですね。
ネオ:ジェスチャーも変わるわけだね。
13. 禁断の技:ボイスレコーダー
スケザネ:ちょっと細かいところなんですけど、録音できるペン。ボイスレコーダー。出てきたとき、小道具の使い方として、しょぼいなと思ったんです。最初は、ニックをジュディがはめたところに出てきます。(詐欺師と呼んでくれる? ってシーン)
あれは、映画内エピソードとしては、めちゃくちゃしょぼいです。録音して、騙してってだけ。しかもそのボイスレコーダーの話を、「詐欺師って呼んでくれる?」っていうセリフまでつけて、何度も何度もこするんですよね。
それこそ最後の解決のシーンもそうですし、ジュディとニックが仲直りする時もボイスレコーダーやりましたし、3~4回ぐらいこすって、色んなセリフをそこに重ねている。これは作り手側のすごい意地悪な見方をすると、たぶん思いつかなかったんじゃないかなと感じます、ボイスレコーダー以上におもしろいシナリオが。この小道具が一番しょぼいと思うんだけど、他に思いつかなかったから、そのしょぼさを隠すために何度も重ねる。いろんなセリフを重ねて意味深く持たせるしかなかったかと思う。
ネオ:それは超重要だと思います。ボイスレコーダーってどんな作品、刑事ドラマにしてもなんにしても一番がっかりする仕掛け。しょうもなっ、みたいな。トリックの禁じ手の一つなんじゃないかな。
タケハル:クリシェですね。細かいところで、録音ペンのデザインを人参にしてみたりとか、何回も重ねるとか、なんとか見えないようにしてるけどもクリシェはクリシェかもしれない。
スケザネ:クリシェがゆえにとにかく色々つけてなんとかして。これ、作り手側の逃げ手法です。ほかにアイデアがない時に、それだけだと安っぽく見えちゃうから色々つけて、意味深く見せる。これだけこすったら許してやろうとは思うけど。
ネオ:これ今回一番聞いて、いい話だったなあ。
タケハル:素材は微妙でもソースがおいしいから許してやるみたいな。
Dain:生々しい話ですね。おそらく、肉食獣のディストピアの初期の案がボツになって、焦ったのではないかなと。こんなんじゃだめだとちゃぶ台返しされて、でもスケジュールは決まってて、そんな中でもなんとか物語を新しく作らないといけない。ものすごく当たり前なんですけど、映画作る時に最初にしなきゃいけないないことは、物語をつくるということで、それがボツになった。
じゃあもう一回、別の主人公で・・・どうする・・・って、でも作らなきゃいけない。そんなギリギリのところで、できる精一杯だったんじゃないかな。最後の副市長のベルウェザーのセリフをどうやってひっくり返すかとか、色々考えて、やっぱりボイスレコーダーだ! ってなったんじゃないかなあ。んで、ここだけでボイスレコーダーを使っても……ってなったら、じゃあニックのところで使おう! でも2カ所だけだと伏線が広がりすぎるから途中で入れた方が……じゃあニックと仲直りするところでも入れよう! そんな感じで最後のパズルのピースを埋めるためにボイスレコーダーが使われたんじゃないかと
スケザネ:まさにそうだと思います
タケハル:クリエイターたちの息切れが聞こえるよね
Dain:物語作家のね。ゴールだと思ってハァハァ言ってたら42.195km走ったのに、まだ走るよみたいな。もう1回って。しかもシナリオは最初に作んなきゃいけないから
ネオ:ボイスレコーダーを使ったら、必ずその前に何かしゃべらなきゃいけないよね。そこでペラペラしゃべるっていう不自然さがどうしても出てくる。刑事ドラマで犯人暴かれたらペラペラしゃべりだすみたいな不自然さが。
全員:それはあるなあー。
タケハル:絶対言っちゃダメなのに言うよね。
ネオ:ボイスレコーダーのがっかりさって、不自然なセリフを呼び起こさなきゃいけないっていうところにあるのかもしれないね。本当に悪いやつはそんなヘマしないで粛々とやる。だからボイスレコーダーを使うと、最終的に相手のドジによって解決する。
スケザネ:『相棒』でも「語るに落ちる」パターンで見せる回があるけど、何かしらひと手間加えた話の方が印象に残る。単純に言わせてしめしめではなくて、言わせるために導入を持たせたとか、小細工しといたとか、そういう工夫がないと物足りない
ネオ:そういう言質をとる系だと、例えばドラゴンボールでピッコロがセルと戦うときに左腕を吸収されて、もうこれでは勝負ついたと言ってセルにペラペラ語らせる場面があるんだけど、あれはまあまあ自然な気がするんだよ。でもあれもセルはドジってるんだけど、「気づかなかったとはドジだな」って言ってるし。まあ不自然かー。要するに問題点は、相手のドジに期待する脚本・プロットになっちゃうってことだよね。
タケハル:裏を返せば、そこまで分かってるのになぜ使っちゃうかってところ。それはやっぱり必要性があるわけで、ピッコロとセルの話でいえば、セルの設定がわからないとこの先読者がついていけないだろうっていう作る側の恐怖がある。まんがの場合は毎週連載するから説明しないと無理な気がするけど、映画に関しては勇気のある作家は説明しないよ。
その例でいくと、最近ですけど『テネット』ね。テネットは話がやたらややこしいんです。時間がひっくり返ったり。なんだけど説明全然しないんです。説明するとしても、グッとまとめてパパっとやる。映像とかの迫力で見てられるけど、たぶん家で観たら相当しんどいと思う。気が散ったら話わかんなくなっちゃうから。金曜ロードショーなら絶対無理。CM入ったらもう無理ですよ。何の話かわからなくなる。
Dain:『テネット』は見てないけど、物語の世界の中で物語をペラペラ説明されるとがっかりする。それがネタとして使われてて、しょっぱいなっていうのはさっきのボイスレコーダーにつながるのかな。物語の世界なんだから、説明のセリフではなくて行動のセリフとか絵で見せてほしいと。西暦何年、人類が絶滅に危機にーとか、映像を数秒流せばわかるじゃんって。高望みなのかもしれない。でもディズニーだったらやってくれって思う。
タケハル:これをさらに応用してるのはスターウォーズです。要は冒頭に文章でどかどか説明しますよね。あれは思いきりましたね。伝統芸能化してる。
スケザネ:あれやらせてもらえたら楽だなあ
タケハル:あれがなぜ許されてるんだお前らはって思うね。
ネオ:『アオイホノオ』というまんがで主人公がスターウォーズを「途中から始まって途中で終わる」と言ってるけど、まさに冒頭字幕はそういうことだね。
スケザネ:あと10分なので締めに入りましょうか。
Dain:前回の様子をブログで取り上げたとき、反応よかったです。スケザネさんやタケハルさんの物語のとらえ方が素晴らしいとか。
ネオ:ネオさんは何が素晴らしいとか言ってました?(笑)
Dain:ネオさんのことは特に何も(笑)
スケザネ:さてまとめに入りましょう。自分としても色んな視点を得られました。この会を通じて、見落としがたくさんあったことにも気づけて面白かったです。最初に戻ると、タケハルさんの「シーンが多いのにテンポがいい」とか、なるほどと思いました。ズートピアの続編の話とかも面白かったです。
タケハル:やってみて、Dainさんのレジュメあるなしではだいぶ変わりますね。これあるおかげでスムーズな議論ができました。シーン一覧もそうですし、資料の一覧も非常にありがたかったです。あとはスケザネさんのボイスレコーダー理論も納得でした。トイストーリーのことも勉強しないといけないなー。
ネオ:次回は『レディ・プレイヤー・ワン』でやろう。
※1 『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』シド・フィールド、フィルムアート社、2009
※2 『シド・フィールドの脚本術』p.167
※3 『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』松原始、山と渓谷社
※4 『ディズニー ズートピア ビジュアルガイド』KADOKAWA
ちょうどこれを書いているときに、ズートピアのアニメシリーズ化が発表された。
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが制作し、『Zootopia+』(ズートピア・プラス)になるという。
シリーズものだから、おそらく、ジュディ&ニックのバディもので、ズートピアを舞台に、いろんな事件を解決していく展開になるのかと。「ズートピア」という世界観をいじらず、「勇気を持ってマンネリ化」した企画に拍手!
この楽しい場所を作りだしていただいた、ネオ民さん、スケザネさん、タケハルさん、ありがとうございます! そして、ご視聴&チャット参加いただいた「物語の探求」メンバーの皆さま、ありがとうございます! さらに、文字起こしをご協力いただき、ありがとうございます。
最近のコメント