「幸福の形は同じだが、不幸はいろいろ」というが、ホントは逆じゃないかと思えてくる『HAPPY』がテーマのスゴ本オフまとめ
好きな本を持ちよって、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。
行くたびに、「この場」「その時」でしか味わえない驚きがあり、発見があり、積読がどんどん増えていく。せめてtwitter実況やブログまとめを張り切るのだが、伝えきれない(ネットには)載せられないネタが山ほど出てくる。北海道から沖縄まで、海外からも御参加いただける魅力は、この現場性にあると踏んでいる。同じ趣味で違う興味を持った人が集まると、こんなに面白い化学変化が楽しめる。
今回のテーマは「HAPPY」、読むとハッピーになれる本や、「幸せ」がテーマの思索、文字通りハッピーエンドの物語や、人生を前向きにする啓発書、なんでもないような幸せから、キュアハッピーまで、さまざまな「HAPPY」を眺める。
twitterまとめは[ソクラテス、老師から、さくら学院、おっぱいの科学、そして完璧なお尻の写真集まで。「ハッピー」なスゴ本オフ]をどうぞ。
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次回の申込みは[今年のMyBestスゴ本]をどうぞ。
気になったのが、タオイズムのご紹介。社会の中での役割や生き様をあがくより、「生きる場所はどこにでもある」と納得するほうが自由だ。これを教えてくれるのが、『タオ―老子』(加島祥造)とのこと。「ようこそ駄目人間の避難場所へ」みたいな感じで、「俺って生きていていいんだな」と思えてくる。この「自由」という言葉が実に老子的で、教条主義の正反対というか、ルールに縛られない自在な生き方を目指す手がかりがここにある。死にたくなったら読んでる本とのこと。
「HAPPY」を逆説的に捉えた『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(ロバート・ビスワス=ディーナー)が面白そうだ。普通ならマイナスイメージのある「怒り」「罪」「後悔」といったネガティブ感情が、実は行動力や創造性を促す有益な源として再評価されている。現代人は幸福に拘りすぎた「快楽中毒」で、ネガティブ感情に慣れていないと「精神的敏捷性」が失われてしまうと説く。無理やりポジティブに持っていくのでなく、あえて様々な感情に目を向け、ありのままの自分を利用するのが大事らしい。
100回うなづいたのが、『ご注文はうさぎですか?』(Koi)だ。可愛いものを愛でるように特化された現代人の脳構造に合わせて作られのが、この日常系マンガ最終進化形だという。アニメのキャッチコピー「かわいさだけを、ブレンドしました」の通り、かわいいだけのお話。これといい、『きんいろモザイク』を観ていると、葛藤とか確執みたいな物語の動力なんていらなくなる。かわいいは、正義。
うれしかったのが、『おっぱいの科学』(フローレンス ウィリアムズ)。進化、環境衛生、遺伝子、授乳、がん、豊胸などから分析した、おっぱいのサイエンス。四足歩行から二足歩行へ移行した際、発情期を示すお尻が目立たなくなったのを補うために、おっぱいが発達したという。乳首に色がついたのも、視力の弱い乳幼児のための「目標」だと考察しているという。隠されたり、見せびらかされたり、測られたり、膨らまされたりされる、おっぱいの知られざる真実を「まじめに」探究した一冊。
そして、お尻。ハッピーなものとは、満ち足りること、わくわくするもの……完全性を追求すると、それは円であり球であり、お尻に行き着く。わたしが紹介したのが、『HIPS 球体抄』(伴田良輔)。これがすばらしいのは、邪魔なものが一切なく、美しくみずみずしく撮っている。エロスを想起させるひじき等を写さないようにしているのもいい。[女は尻だ。異論は認めない]や[お尻を理解するための四冊]を圧縮して熱く語ったが、ちとフェチ色が強すぎたかもしれぬ。
「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う」といわれるが、人によって幸せの形は、千にも変わるし万にも化ける。癒しであったり成長であったり、変化やフェチや"好き"そのものだったり。実にさまざまな形をとっている。「幸せ」をあるオブジェクトやステータスに置き換えたり、それを求める行為として見なしたり、幸せの定義や様相の変化が面白い。
会場を貸していたただいたHDE様、参加されたみなさま、ありがとうございました。次回のテーマは「2015ベスト」、11/28に渋谷でやります。ちょい見、飛び入り、見学歓迎、詳しくは、[今年のMyBestスゴ本]をどうぞ。
さまざまな形をとる「HAPPY」に属性のタグ付けするのは乱暴だけれど、紹介された作品の見通しをよくするために強引にまとめてみた。むしろこのキーワード/箴言の方がというのがあればご教授を。
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【愛】愛することと愛されること。 それより大きな幸福なんて、私は望みもしないし知りもしませんわ(モラティン)
- 『100万回生きたねこ』佐野洋子(講談社)
- 『100万分の1回のねこ』江國香織(講談社)
- 『ダヤンと時の流れ星』池田 あきこ(白泉社)
- 『フクとマリモ』五十嵐健太(KADOKAWA)
- 『ライン』西村しのぶ(講談社)
- 『エリカ 奇跡のいのち』ルース・バンダージー講談社)
- 『宴のあと』三島由紀夫(新潮文庫)
【癒し】もっとも平安で純粋な喜びは、癒しである(カント)
- 『しあわせの香り: 純喫茶トルンカ』八木沢 里志(徳間文庫)
- 『純喫茶トルンカ』八木沢 里志(徳間文庫)
- 『ぬしさまへ』畠中 恵(新潮文庫)
- 『レミーのおいしいレストラン』ルー・ロマーノ(主演)(Disney)
【かわいい】かわいいは正義、かわいいは幸せ
- 『けいおん!』かきふらい(芳文社)
- 『ご注文はうさぎですか?』Koi(芳文社)
- 『なんだこれくしょん』きゃりーぱみゅぱみゅ(ワーナーミュージック・ジャパン)
- 『あずまんが大王』あずま きよひこ(小学館)
【希望】寝るとき、明日を楽しみにしている人は幸福である(ヒルティ)
- 『キッパリ たった5分で自分を変える方法』上大岡 トメ(幻冬舎文庫)
- 『LIFE!/ライフ』ベン・スティラー(監督)(20世紀フォックス)
- 『ソクラテスの弁明』プラトン(岩波文庫)
- 『虹をつかむ男』ジェイムズ・サーバー(ハヤカワepi文庫)
- 『夜間飛行』サン=テグジュペリ(新潮文庫)
- 『Dorothy Little happy FINAL at NAKANO SUNPLAZA』Dorothy Little Happy(avex)
- 『さくら学院 The Road to Graduation 2014 〜君に届け〜』さくら学院(ユニバーサル ミュージック)
【自由と人生】一番幸せなのは、幸福なんて特別必要でないと悟ることです(サローヤン)
- 『生きるとは、自分の物語をつくること』小川洋子・河合隼雄(新潮文庫)
- 『イスラム飲酒紀行』高野 秀行(講談社文庫)
- 『タオ―老子』加島 祥造(ちくま文庫)
- 『フォレスト・ガンプ』トム・ハンクス(主演)(パラマウント)
- 『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』佐々木典士(ワニブックス)
- 『ふくろう女の美容室』テス・ギャラガー(新潮社)
- 『死ぬ気まんまん』佐野 洋子(光文社文庫)
- 『詩羽のいる街』山本弘(角川書店)
- 『守備の極意』チャド・ハーバック(早川書房 )
- 『博士の愛した数式』小川 洋子(新潮文庫)
- 『有頂天家族』森見 登美彦(幻冬舎文庫)
- 『トモネン』大庭 賢哉(宙出版)
- 『細雪』谷崎潤一郎(中公文庫)
【好き】なにが君の幸せ? なにを見て喜ぶ(アンパンマン)
- 『Alice's adventure in Wonderland』クリストファー・ウィールドン振付のバレエ
- 『Hate that Cat』Sharon Creech(HarperCollins)
- 『Love that dog/あの犬が好き』Sharon Creech(HarperCollins)
- 『エデン』近藤 史恵(新潮文庫)
- 『サクリファイス』近藤 史恵(新潮文庫)
- 『ディーバ』デラコルタ(新潮文庫)
- 『算法少女』遠藤 寛子(ちくま学芸文庫)
- 『恐竜 (講談社の動く図鑑MOVE)』小林 快次(講談社)
- 『妖怪温泉』広瀬 克也(絵本館 )
- 『理科好きな子に育つ ふしぎのお話365』自然史学会連合(誠文堂新光社)
- 『アイヌ学入門』瀬川 拓郎(講談社現代新書)
- 『ゴールデンカムイ』野田サトル(ヤングジャンプコミックス)
- 『UYUNI iS YOU』TABIPPO(いろは出版)
- 『にじいろのさかな』マーカス・フィスター(講談社)
- 『おやすみロジャー』カール=ヨハン・エリーン(飛鳥新社)
- 『FRAU 2014 3月号 女って、おしり』(講談社)
- 『HIPS 球体抄』伴田良輔(スペースシャワーネットワーク)
- 『アナル全書』ジャック モーリン(作品社)
- 『おっぱいの科学』ウィリアムズ・フローレンス(東洋書林)
【ライフワーク】一生の仕事を見出した人には、ほかの幸福を探す必要はない(カーライス)
- 『happier 幸福も成功も手にするシークレット・メソッド』 タル・ベン シャハー(幸福の科学出版)
- 『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン (講談社)
- 『その幸運は偶然ではないんです!』J.D.クランボルツ(ダイヤモンド社)
- 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』ロバート・ビスワス=ディーナー(草思社)
- 『バードマン』マイケル・キートン(主演)(20世紀フォックス)
- 『甘美なる作戦』イアン マキューアン(新潮クレスト・ブックス)
- 『遥かなるセントラルパーク』トム・マクナブ(文春文庫)
- 『アルケミスト~夢を旅した少年』パウロ コエーリョ(角川文庫)
- 『幸福論』ヒルティ(岩波文庫)
【禍福】禍福は糾える縄の如し(老子)
- 『幸福の王子』オスカー・ワイルド(新潮文庫)
- 『クリスマス・キャロル』ディケンズ(新潮文庫)
- 『マリファナの科学』レスリー・アイヴァーセン(築地書館)
- 『ハッピーピープル』釋英勝(集英社)
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コメント
はじめまして。アップされる度に楽しんで拝読しています。「幸せの形は~、不幸の形は~」というのはトルストイの「アンナ・カレーニナ」冒頭からの引用だと思いますが、正確には「幸福な家庭は~、不幸な家庭は~」なのでかなり意味が変わっちゃいますね。それから「同じ」と断定はしてません。「似通っている」ですね。
よくこの言葉だけ単独で抜かれて「そんなことなくね?」という疑義が呈されることがあるけど、特に「アンナ」前半部ではカレーニン家の<一見>幸せな家庭が実はそうではなかった(そしてオブロンスキー家のごたごたがありつつもそれなりに幸せな家庭との対比)というところを描いているのでちゃんと小説内で冒頭の一文が効いているのです。この小説の大ファンである僕などは「ちゃんと全部読んでくれたらなあ」と思わずにはいられません。
投稿: 青達 | 2015.10.23 11:24
>>青達さん
コメントありがとうございます。
お察しの通り、『アンナ・カレーニナ』の冒頭を歪めて援用しているというご指摘は合ってます。惹句を作りたいがため、名言のフリをして恣意的に変えています。ただし、アンナを読んで伏線の効果を理解した上で、本気で逆だと考えるようにも至っています。
『アンナ・カレーニナ』読むと結婚が捗るぞ
https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2012/07/post-f40b.html
投稿: Dain | 2015.10.23 18:30
「逆」というのはオリジナルの「幸福な家庭は~」の方ですかね? いや、僕も最初は「逆ではないか?」と思ったクチなわけですが、少なくとも「アンナ・カレーニナ」という長大な作品全体が炙り出しているのは冒頭のこの決め台詞だという事は明白だと思います。まあ、残念ながらこの本を読む人自体がそれほどいないのでどうということも無いんでしょうが。
これは全然別の話ですが、某評論家兼作家が「アンナ」を「メロドラマ」だなんて寝ぼけたことを抜かしやがっておりまして、どうせ読まれないにしてもこの小説を読まなくていい<間違った>理由を植え付けないでもらいたいっすねえ……
全然違うのにさあ……
投稿: 青達 | 2015.10.24 12:18
>>青達さん
お返事ありがとうございます。
はい、「逆」というのはオリジナルの「幸福な家庭は~」の方です。ただし、逆ではないかと思うようになったのは、最初ではなく最後です。冒頭の一句は、カレーニン家とオブロンスキー家の対照性を狙っているのは分かります……が、頁が進むにつれ、「不幸な家庭の不幸な形」は「不信」というキーワードに収束するように読めました。これは、先の投稿のリンク先でご紹介したブログ記事で示す通りです。長い長い小説を書いていくうちに、トルストイ自身の家庭が変化してきたのでは……と勘ぐったりもしています。
また、「メロドラマ」と言うのは"あり"だと思います。アンナは、様々なテーマが縦横に入り混じった、いわゆる「全部入り」です。なので、不倫とか自殺とか扇情的な要素だけを抜いて「メロドラマ」として腐すことも可能なのです。このように、名作を腐すことで相対的に話者を高く見せる方法は、ありがちですね(Amazonレビューや食べログでよく見かけます)。ただ、そのようにしか「読め」なかったことは、某評論家兼作家さんの見識の低さを暴露していることも事実です。ここは嘲笑うところですねw
投稿: Dain | 2015.10.25 22:37