「歴史」のスゴ本オフで、積読山がさらに高くなる
好きな本を持ちよって、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。
これが嬉しいのは、「本」つながりで人の輪がどんどん広がるところ。なんせ、「この本が好きだ」とオススメすると、「その本が好きなら、この本はきっと気に入るはず」というアドバイスがリアルで聞けるから。
毎回テーマを決めて、それに沿った本が集まってくる。大型書店でありがちな特集とは異なり、ド定番のみならず変化球、裏返し、意外なつながりなど、本の大喜利になっているのも面白い。「なぜその一冊なのか」を聞いているうちに、その人となりが見えてくるのは、もっと楽しい。詳しくは、facebook「スゴ本オフ」をどうぞ。
今回は「歴史」がテーマ。書店や図書館の歴史コーナーに並んでいる人類史や歴史書をはじめ、美術史、偽史、黒歴史、コーヒーや日本刀、ベストセラーや疫病といった切り口から見た人類史がドラマティックだ。
さらに、聖書を戦史として読むという指摘が目鱗だ。歴史の改変だったら「ターミネーター」だって“歴史”になるし、遠い先だって未来史として括れる。“人”という存在が介在しなくとも、眼の機能の発展を追いかければ進化史となり、生きた化石であるイチョウの歴史は、そのまま2億年を辿ることになる。自分が、いかに狭くテーマを捉えていたかを思い知らされる。
ここではいくつかをピックアップしてご紹介するが、網羅的なものは実況tweetをまとめた[人類史から宇宙開発史、ベストセラー史、偽史、性病や流行の日本刀の歴史まで「歴史のスゴ本オフ」まとめ]を参考にしてほしい。
『おもいでエマノン』(梶尾真治)を“歴史”として捉えたのにはうならされる。「地球に生命が発生してから現在までのこと総て記憶している」美少女エマノンと、彼女に出会った人との交流を描いた名作だ。鶴田謙二のイラストで新装版になっているのを知って二重に嬉しい。初読した頃は、主人公の「ぼく」と同世代だったが、今じゃオトナになった「ぼく」を越えてオッサンになった。エマノンを思い出すとき、ユーミンの卒業写真が脳内を流れるくらいの、「わたしの青春そのもの」。願わくば、いまの「ぼく」たちの手に届きますように。
名著として名高い『人類が知っていることすべての短い歴史』(ビル・ブライソン)は読みたい。ビッグバンから911までを24時間に圧縮すると、人類が農耕を始めてからの歴史が、わずか1秒になってしまうそうな。そして、エーテル、燃素、宇宙定数などなど、人類がいかにデタラメな仮説を作ってきたかがわかる、「人類が知らなかったことすべての短い歴史」の本でもあるという。
『宇宙開発と国際政治』(鈴木一人)は専門書ながらものすごく興味深い。美化された物語としての宇宙モノでもなく、軍事利用を挑発的に告発するものでもなく、きわめて現実的に宇宙開発を分析している。最近の商用ロケットはインドが強いとか、中国の宇宙開発は凄い凄いと喧伝されているが、エンジニアたちは知識人ジェノサイドである文化大革命をどうやって生き延びたのかなど、ドロドロした側面が盛りだくさんだという。
『コーヒーが廻り世界史が廻る』(臼井隆一郎)は、近代市民社会の黒い血液・コーヒーで捉えた世界史になる。最初はイスラムの神秘主義者の秘密の飲み物だったのが、イギリス、フランス、ドイツと伝わり、コーヒー・ハウス=情報交換のサロンとなる一方で、植民地での搾取と人種差別にかかわる。コーヒーが廻した世界の歴史は、コーヒーを片手に読みたい。これ紹介したおぎじゅんさん、好きが高じてカフェを開くという。新宿荒木町「珈琲専門 猫廼舎」(ねこのや)で、4月オープンとのこと。今回、出張カフェで淹れていただいた一杯は、生まれて初めて飲んだ一杯みたいで、純粋に深く濃くなめらかだった。
歴史ど真ん中の『ガリア戦記』は、紀元前にカエサルによって書かれた、ガリア(現在のフランス)の遠征記録なのだが、これはルポルタージュでありエッセイであり論考でありプレゼンテーションにも読める。oyajidonさんの、「反戦を叫びながらも、この戦記に感動する、人の矛盾さも一つの歴史になる」という指摘に納得。
「ベストセラーはなぜ、どのように生まれるのか?」をまとめた『ベストセラーの世界史』は、かなりダークな歴史になる。グーテンベルク以来、500年におよぶ書籍の歴史を振り返り、部数のごまかし、編集者の怠慢、売れまくった屑本など、出版の裏面を読み解くのにこれ以上のものはないとのこと。「よい本であってもよい編集者に恵まれなければ売れない、凡庸であっても編集者によって大ヒットすることもある」は、けだし真実だと思う。甲本ヒロトの名言をヒネるなら、「ベストセラーが一番なら、一番おいしいラーメンはカップラーメンになってしまう」だね。ベストセラーは、「ふだん本なんて読まない人が急いで買った」からこそベストセラーになっていることを忘れずに。
歴史を「視覚」から捉えた、きりんりきさんのオススメが面白い。まず、進化におけるビッグバン「カンブリア紀の爆発」をテーマに、グールド『ワンダフル・ライフ』を紹介した後、この大変革がなぜ起きたのかという謎を解いた『眼の誕生』(アンドリュー・パーカー)をお薦めする。ある種が光(=視覚)を得たときに陶太圧が起き、種の爆発に至ったという仮説はスリリングなり。さらに、この視覚(=画像圧縮技術)が人工知能の遺伝的アルゴリズムに法っている話から、ユル・ブリンナー主演の映画『ウエストワールド』につなげる。西部劇のテーマパークでロボットが制御不能になる話なのだが、「コンピュータが設計したロボットなので原因不明」という説明がされている。ヒューリスティックに作るとこうなるという、"懐かしい未来"やね。禿頭のガンマンがひたすら怖かったことを覚えているが、あれこそターミネーターだね。
嬉しい噂を耳にする。象形文字から人工知能まで、知と時を貫いて一望できる名著『情報の歴史』(松岡正剛)の新版が出るかも? という話だ。[松丸本舗で著者ご本人から伺ったことがある]が、かなり期待していいのかも……(amazonでトンでもない値がついているので、書影からご確認あれ)。確か、1980年代が「最新」として扱われていたはずなので、アップデートされるのは911や311も含まれて
いるだろう。座右か枕元の一冊にすべく、正座して待つ。
わたしが紹介したのは、ウンベルト・エーコ『醜の歴史』と『美の歴史』。絵画や彫刻、映画、文学、音楽、哲学、天文学、神学、ポップアートにいたるあらゆる知的遺産を渉猟し、「美とは何か」を追求したのが『美の歴史』で、その姉妹編が『醜の歴史』。うっとり陶酔する絵画や、ぞっと魅入られる図版などを眺めているだけで楽しい&タメになる。並べてみると興味深いのが、美は多様だが、醜は一様だという点。時代や文化ごとに定義されたものが美であるが、醜悪や異形や逸脱は、どの時代どの文化でも通用する。「正義は変数だが、悪は定数」だね。
紹介された作品は下記の通り。積読山がさらに高くなりますな。
- 『美の歴史』ウンベルト・エーコ(東洋書林)
- 『醜の歴史』ウンベルト・エーコ(東洋書林)
- 『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ(東京創元社)
- 『おもいでエマノン』梶尾 真治(徳間書店)
- 『時砂の王』小川 一水(ハヤカワ文庫)
- 『久遠の絆』(PlayStationソフト)フォグ
- 『たちの悪い話』バリー・ユアグロー(新潮社)
- 『カイト・ランナー』カーレド・ホッセイニ(アーティストハウスパブリッシャーズ)
- 『君のために1000回でも』カーレド・ホッセイニ(ハヤカワ文庫)
- 『ツタンカーメン発掘記』ハワード・カーター(ちくま書店)
- 『誰がツタンカーメンを殺したか』ボブ・ブライアー(原書房)
- 『王家の紋章』細川智栄子あんど芙~みん(秋田書店)
- 『チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語』リー・クンウー(明石書店)
- 『敗北を抱きしめて』ジョン・ダワー(岩波書店)
- 『シリーズ日本近現代史』井上 勝生ほか(岩波新書)
- 『人間は何を食べてきたか』(DVD)宮崎 駿ほか(ブエナ・ビスタ・ホーム)
- 『イチョウ 奇跡の2億年史』ピーター・クレイン(河出書房新社)
- 『ワイルド・スワン』ユン・チアン(講談社文庫)
- 『穂積重遠』大村 敦志(ミネルヴァ書房)
- 『137億年の物語―宇宙が始まってから今日までの全歴史』クリストファー・ロイド(文藝春秋)
- 『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン(新潮文庫)
- 『世界を変えた6つの飲み物』トム・スタンデージ(インターシフト)
- 『秘宝館という文化装置』妙木 忍(青弓社)
- 『名物刀剣 宝物の日本刀』(美術館図録)
- 『戦国名刀伝』東郷 隆(文藝春秋)
- 『三国志』吉川 英治(講談社)
- 『聖書』
- 『三国志演義』井波 律子(講談社学術文庫)
- 『孫子』
- 『コーヒーが廻り世界史が廻る』 臼井 隆一郎(中公新書)
- 『王様も文豪もみな苦しんだ 性病の世界史』ビルギット・アダム(草思社)
- 『タイム・マシン』H.G.ウエルズ(岩波文庫)
- 『風の王国』五木 寛之(新潮文庫)
- 『隠された日本 中国・関東 サンカの民と被差別の世界』五木 寛之(ちくま書店)
- 『NHKスペシャル ドキュメント太平洋戦争(DVD)』(NHKエンタープライズ)
- 『宮本常一が撮った昭和の情景』宮本 常一(毎日新聞社)
- 『オリガ・モリソヴナの反語法』米原 万里(集英社文庫)
- 『ガリア戦記』カエサル(岩波文庫)
- 『歴史にならなかった歴史』ロジャー・ブランズ(文春文庫)
- 『ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像』シュテファン・ツワイク(岩波文庫)
- 『僕たちの好きなガンダム 一年戦争徹底解析』(宝島)
- 『東大のディープな世界史』祝田 秀全(中経出版)
- 『ノーゲーム・ノーライフ』榎宮祐(メディアファクトリー)
- 『日本の米 環境と文化はかく作られた-』富山 和子(中央公論社)
- 『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』スティーヴン・ジェイ グールド(ハヤカワ文庫)
- 『ウエストワールド』(DVD)ユル・ブリンナー主演、マイケル・クライトン監督(ワーナー)
- 『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』アンドリュー・パーカー(草思社)
- 『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン(ハヤカワ文庫)
- 『終戦後』荒木経惟(ARTROOM)
- 『本当の戦争の話をしよう』ティム・オブライエン(文藝春秋)
- 『村田エフェンディ滞土録』梨木 香歩(角川書店)
- 『われらの父の父』ベルナール・ヴェルベール(日本放送出版協会)
- 『蠅の王』ウィリアム・ゴールディング(新潮文庫)
- 『蟻』ベルナール・ヴェルベール(角川文庫)
- 『ベストセラーの世界史』フレデリック・ルヴィロワ(太田出版)
- 『ラーメンと愛国』速水 健朗(講談社現代新書)
- 『情報の歴史』松岡 正剛(NTT出版)
- 『ぼんち』山崎 豊子(新潮文庫)
- 『後宮小説』酒見 賢一(新潮文庫)
- 『蒲生邸事件』宮部 みゆき(文春文庫)
- 『影武者徳川家康』隆 慶一郎(新潮文庫)
- 『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル(ハヤカワ文庫)
- 『テンプル騎士団とフリーメーソン』マイケル・ベイジェント(三交社)
- 『古事記夜話』中村 武彦(たちばな出版)
- 『疫病と世界史』ウィリアム・マクニール(中公文庫)
- 『宇宙開発と国際政治』鈴木 一人(岩波書店)
- 『春風のスネグラチカ』沙村広明(太田出版)
- 『無限の住人』沙村広明(講談社)
- 『そのとき歴史が動いた』NHK取材班(NHKブックス)
- 『ジョゼフ・フーシェ』シュテファン・ツワイク(岩波文庫)
- 『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』土屋 健(技術評論社)
- 『移行化石の発見』ブライアン・スウィーテク(文春文庫)
- 『日本の血脈』石井 妙子(文春文庫)
次回のテーマは、ちょっと変化球→「この一行」だ。決めゼリフだったり、心を震わせたワンセテンスを紹介して、どんな本かを皆に思い描いていただき、最後には種明かしをする、という流れにするつもり。新潮文庫の「ワタシの一行」に似てるって!? もちろんですとも。でも、新潮文庫に限らず、マンガも映画も歌も巻き込んで、刺さった/震えた/残り続ける/大声で/そっと伝えたい一行と、それへの想いを語っていただければと。facebook「スゴ本オフ」で告知するので、チェックしてくだされ。
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