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善人こそ、深く濃く救いなし「闇」のスゴ本オフ

 好きな本を持ち寄って、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。

01

 "Dark"や"Black"など「闇」をテーマにした本や映画や音楽が集まる集まる。twitter実況は、[ブレードランナーやスターウォーズから『論語』やナイチンゲールまでみんなブラック? スゴ本オフ「ダークネス」実況まとめ]、あるいはやすゆきさんの[ダークなスゴ本オフ、盛況でした]をご覧いただくとして、ここでは善人の闇こそ深いことを思い知らされる本をご紹介。

06

火葬人 まず、ラジスラフ・フクス『火葬人』。「正義」に身を任せ自分で考えることを放棄した人間は、こうなってしまうものだな、という恐ろしさが味わえるという。ナチ占領下のプラハ。「善良な」ドイツ人が主人公で、奥さんがユダヤ人。二人の間には息子がおり、温かい家庭を守っていたのだが―――自分の意見がない人が「正義」を知ってしまったときのハマりかたが恐ろしい。「善人」であるが故に、ナチズムにどんどんはまり込んでいく。善人を善人たりうるもの、「善さ」を担保しているものが空虚であることが分かる。いわゆる良識派が正義というものを知ってしまうと、善良さ故に最悪に至る。

服従の心理 「善良な市民がどこまで残虐になれるか?」を確かめた実験『服従の心理』[レビュー]を思い出す。人は権威に命じられると、かなり非人道的な行為まで手を染めてしまう。そして、良心の呵責に耐えきれなくなると、記憶の改変さえ行うことが示される。そして、著者ミルグラムは、この結果でもって、ナチスのアイヒマンがやったことは「悪の陳腐さ」にすぎないとみなす。ユダヤ人をせっせとガス室に送ったアイヒマンは、悪魔でもサディストでもなく、権威にからめとられたただの官僚にすぎないと主張する。単に彼は自分の役割を果たしていただけであって、民族や文化、人格に関係なく、「あなた」にも起こりうるというのだ。

 他人から任された「正義」に従い、「善」を貫く姿は、なまじホラーよりも恐ろしい。このミルグラム実験を頭に置きながら、『火葬人』を読みたい。パラ読みしたところ、ナチズムの皮を被ったリアリズムを徹底した小説だが、痛烈なメタファーを担っているようだ。ネットでもリアルでも槍玉に上がるバッシング対象―――喫煙やジェンダーや右左や年金や格差―――は、解決すべき課題として扱われるはずなのに、いつの間にか「正義」の問題にすり替えられることで、「善人」たちにバッシングされるのだから。「いま」「ここ」に置換可能な物語なのかも。

02

凶悪 人間、何が一番恐いかというと、「善良な人」だということが厭というほど分かる『凶悪 ある死刑囚の告発』。悪い奴を追っかけている方を、「善人」と思ってしまうのだが……最後まで読むのが恐いノンフィクションみたいだ。死刑判決を受けた男が、「他にも人を殺しています。警察はそのことを把握していません」と獄中で衝撃の自白を始めるのだが、首謀者はまだ娑婆にいる―――という序盤。今回のスゴ本オフはノンフィクションが薄目だったけれど、これは大当たりみたいだ、正座して読む。

隣の家の少女 ケッチャム『隣の家の少女』を一言でいうと、読むレイプ。隣に越してきた少女が虐待されているのに、見ているだけの12歳の「善良な」少年の物語。食事抜き、体罰、監禁、そして……エスカレートする虐めを薄々知りながら、周りの大人にうまくSOSできない少年に、もどかしさと無力感を抱く。読者は、作中に起きていることを、ただ受け止める存在でしかない(それこそ、この少年のように)。おぞましさを感じるだけでなく、ドキドキして読む自分自身に、たまらない嫌悪感を抱くはず。ニュースで安易に使われる、「心の闇」は自分の中にあることが分かる。これを覗きこめる厭な、厭な小説。スゴ本オフでケッチャム好きがちらほらいたが、これ好きな人はどうかしていると思う(もちろん、わたしは大好き)。

03

 フローレンス・ナイチンゲール著の『看護覚え書き』を読むと、ブラックな白衣の天使が見えるらしい。実際の彼女は実務家で、マネジメントに長けたダークな人だったという。たとえば、"病院の邪魔者"について辛辣にこきおろす。それは看護の手伝いにきた上流階級の奥様たちで、自分の充実感のために居るだけだという。薬の名前もロクに覚えられず、邪魔などころか害悪ですらあるという。だから、ホメオパシーのほうがマシらしい。「どうしてもクスリを与えたい女性には、そのクスリを与えさせておけばいい。たいして害ではない!」ってね。

 シャーリー・ジャクソン『くじ』は、読後感サイアクの短編であることは経験済み。だが、これを発表した直後のバッシングの方が闇であることを教えてもらった。同著者の『こちらへいらっしゃい』収録のエッセイによると、知りたくないもの、不快なものを見せつけられたとき、人々はどのように反応するのか?が分かる。掲載した雑誌を解約する人が相次ぎ、批判の手紙が殺到し、著者へのプレッシャーは相当なものだったらしい。これは、「美味しんぼ鼻血事件」と似ており、捕鯨を扱ったときと対照的だという。自分を善人だと信じる世間の反応の方がよっぽどダークなのかも。

ザ・ロード もう一つ。マッカーシー『ザ・ロード』の凄い「読み」を教えてもらった。いわゆる人類滅亡もので、動植物が死に絶え、廃墟と化した世界を旅する父子の話だ。掠奪や殺人があたりまえの世の中で、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとした二人。わたしのレビューは[『ザ・ロード』はスゴ本]に書いたが、「物語りをそのまま読んだ」もの。

 だが、スゴ本オフで教わったのは、(白文字マウス反転)―――この「少年」は本当にいたのだろうか?地獄と化した世界において、正気を失わないため、自殺しないために、「父親」が生み出した幻なのでは?―――という読み。こんな風に考えた自分が恐くなったというが、この読み方は斬新かつ凄い!確かに会話のかっこ「」や句読点を廃し、話者と描写が一体化している文体だから、そうとも読める。

 スゴ本オフでお薦め・紹介された作品は、以下の通り。


◆善人の闇こそ深い

『火葬人』ラジスラフ・フクス(松籟社)

『凶悪 ある死刑囚の告発』新潮45編集部(新潮文庫)

『隣の家の少女』ジャック・ケッチャム(扶桑社ミステリ)


◆ルサンチマンいらっしゃい

『谷崎潤一郎マゾヒズム小説集』谷崎潤一郎(集英社文庫)

『死霊』埴谷雄高(講談社文芸文庫)

『悪童日記』アゴタ・クリストフ(早川文庫)

『ウォッチメン』アラン・ムーア(小学館集英社プロダクション)

『アフターダーク』村上春樹(講談社)

『論語』金谷治訳(岩波文庫)

『こころ』夏目漱石(新潮文庫)

『狩撫麻礼作品集―カリブソング Side A』狩撫麻礼(アスペクトコミックス)

『ヒミズ』古谷実(講談社)


◆闇を観る映画、闇を聞く音楽

『ブレードランナー』リドリー・スコット監督

『スターウォーズ・トリロジー』ジョージ・ルーカス監督

『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語』シャフト製作

『ファニーゲームU.S.A』ミヒャエル・ハネケ監督

『ダークナイト・トリロジー』クリストファー・ノーラン監督

『ネクロマンティック』ユルグ・ブットゲライト監督

『ナマで踊ろう』坂本慎太郎(zelone records)

『protection』massive attack

『ZOO』ピーター・グリーナウェイ監督

『博士の異常な愛情』スタンリー・キューブリック監督


◆差別という闇

『ユダヤ人』J.P.サルトル(岩波新書)

『夜と霧(新版)』ヴィクトール・E・フランクル(みすず書房)

『溺れるものと救われるもの』プリーモ・レーヴィ(朝日新聞社)


◆「邪悪な」ダークネス

『OUT』桐野夏生(講談社文庫)

『アート&メイキング・オブ・ダークナイト・トリロジー』ヴィレッジブックス

『ユリイカ クリストファーノーラン』

『Under the Rose 冬の物語』船戸明里(バースコミックスデラックス)

『あなたに不利な証拠として』ローリー・リンドラモンド(ハヤカワ・ミステリ文庫)


◆「黒い」ダークネス

『自殺うさぎの本』アンディ・ライリー(ネオテリック)

『南条範夫残酷全集 梟首』南條範夫

『看護覚え書き』フローレンス・ナイチンゲール(現代社)

『くじ』シャーリー・ジャクソン

『こちらへいらっしゃい』シャーリー・ジャクソン(早川書房)


◆闇の定番

『ゴールデンボーイ』スティーブン・キング(新潮文庫)

『ダークタワー・シリーズ』スティーブン・キング(新潮社)

『ギャシュリークラムのちびっこたち』エドワード・ゴーリー(河出書房新社)

『ウエスト・ウイング』エドワード・ゴーリー(河出書房新社)

『ホワイト・ジャズ』ジェイムズ・エルロイ(文春文庫)

『ブラック・ダリア』ジェイムズ・エルロイ(文春文庫)


◆闇ファンタジー

『ボトルネック』米澤穂信(新潮文庫)

『ラベルのない缶詰をめぐる冒険』アレックス・シアラー(竹書房)

『闇の左手』アーシュラ・K・ル=グウィン(早川文庫)

『ゲド戦記』アーシュラ・K・ル=グウィン(岩波書店)

『マリアンヌの夢』キャサリン・ストー(岩波少年文庫)

『ブラック★ロックシューター イノセントソウル』huke・鈴木小波(角川書店)

『ショコラの魔法』みづほ梨乃(ちゃおコミックス)


◆デザスタ、パニック、人類滅亡

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー(早川書房)

『未確認原爆投下指令』バーディック&ウィーラー(創元SF文庫)

『ビビを見た』大海赫(ブッキング)

『渚にて』ネビル・シュート(創元SF文庫)

『トリフィド時代』ジョン・ウィンダム(創元SF文庫)


◆幽霊よりゾンビより、生きてる人こそダークなり

『奪い尽くされ、焼き尽され』ウエルズ・タワー(新潮クレストブックス)

『TOKYO STYLE』都築響一(ちくま文庫)

『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』井川意高(双葉社)

『阿修羅のごとく』向田邦子(文春文庫)

『日本三文オペラ』開高健(新潮文庫)

『夏の葬列』山川方夫(集英社文庫)

『冷血』トルーマン・カポーティ(新潮文庫)

『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』豊田正義(新潮文庫)

『シブミ』トレヴェニアン(ハヤカワ文庫)

『大鏡 ビギナーズ・クラシックス』武田友宏編訳(角川ソフィア文庫)

『落窪物語』室城秀之訳注(角川ソフィア文庫)


◆男と女の闇

『風の盆恋歌』橋本治(新潮文庫)

『自伝 じょうちゃん』松谷みよ子(朝日文庫)

『小説 捨てていく話』松谷みよ子(筑摩書房)


◆信仰の闇

『信仰が人を殺すとき』ジョン・クラカワー(河出書房新社)

『クレイジー・ライク・アメリカ:心の病はいかに輸出されたか』イーサン ウォッターズ(紀伊國屋書店)

『われらの不快な隣人』米本和広(情報センター出版社)


◆闇本指南

『毒書案内』石井洋二郎(飛鳥新社)

 (いつものことだけど)スイート系も充実していたぞ。ドーナツやらアップルパイやら、ワイン消費を加速させておりましたな。

04

黒オリーブとトマトの組合わせが絶品なり(これで飲み過ぎたw)。

05

萌酒は知らない間に無くなっていたorz

07

アップルパイも絶品なり。

08

 邪悪だったり絶望だったり鬱々してたり、さまざまな「ダークネス」にまみれた本ばかりでしたな。次回は、「音楽」をテーマに7/27に渋谷でやる予定。そのうちイベントページを作りますので、[facebook:スゴ本オフ]をチェックしてくださいませ。

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