読まずに死んだらもったいない48作品
「こんなに面白いのに、読んでないのは損してる」という本がある。「面白い」のところには、「タメになる」「心が洗われる」などが入る。徹夜保証の小説だったり、良く生きるための教養書だったり、完結するまで死ねない漫画だったりする。
5/8締め切りで、シミルボンの[「本とワタシ」選手権]で募集している。わたしが選考するので、楽しみでならないのだが、待ちきれなくてスゴ本オフのテーマにした。スゴ本オフとは、お薦め作品をまったり熱く語り合う読書会なのだが、まさに「読まずに死ねるか!」級の、とっておきが集まった。
まずわたしから。読書猿『アイデア大全』を強力に推す。考えるヒント集みたいな顔つきだが、今晩の献立から一生を賭すに事業学業の進め方まで、なんにでも応用できる。これは、問題解決のための人類の叡智を結集したもの。即効を謳う安直なサプリメントのような本ではない。すぐ効く本はすぐ効かなくなる。そうではなく、現実を捉え直す新しい「目」と「手」が手に入る。
たとえば、対立関係にある相手に問題ありとする構造(me vs you/problem)から、ホワイトボードに問題を可視化することで、問題と私たち(problem vs us)にする手法がさらりと書いてある。わたしは自分の経験から学んだが、これ読めば苦労しなくて済んだのにと思うと、声を大にして言いたい、「読め! あなたが楽しく楽するために」と。
「読まずに死んだらもったいない」の「読まずに死ぬ」が自分でなかったらという、すぎうらさんの指摘にハッとする。そして、親の最期の看取りの際、追われるように読み始めたという、深沢七郎『楢山節考』を紹介してもらう。因習に閉ざされた棄老山伝説を小説に昇華した名作で、死への社会観念が変化しているいま、もう一度読まれるべきなのかもしれない。
そして、自分が死ぬまでに読むべき本は沢山ある一方で、誰かが死ぬ前に読むべき本もあるのではないか、という視点は、確かにその通りだと思う。親が死ぬことに向き合い、保険になるような一冊が、『楢山節考』なのだ。
「読まずに死んだらもったいない」作品は、すでに世の中に出ており、自分がまだ読んでないだけという前提でいたが、「いま連載中で、最終回になる前に死にたくない」という発想もあることを、sngkskさんに教えてもらう。
その通り! 自分だけでなく、作者も含めて最終回まで死ぬなよ、と祈りたくなるような確定傑作。『グイン・サーガ』を終わらせられずに逝った栗本薫のことを考えると、『ワンピース』や『ヒストリエ』はそうなりませんように……と祈りたくなる。sngkskさんの激推しは原泰久『キングダム』、史実に基づいているので、最後は秦の始皇帝になるはずなのだが、とてもそう思えない逆境が続く。「読まずに死ねるか」級の、命をつかんで離さない確定傑作。これは読む!
「読まずに死んだらもったいない」を、「仲直りせずに死んだら後悔する」と考えたのが、よしおかさん。そして、数学と仲直りするためのベストな一冊、吉田武『虚数の情緒』をお薦めする。思い返せば、三角関数を習ったあたりから、数学を避けてきたという。仕事や生活で、直接三角関数を扱うことがないけれど、それは表立って出てこないだけで、3DCGや力率など、数えきれない裏側を支えていることは分かっている。
だからこそ、数学を学び直したい。数学と和解したいという。この本を読んだからといって数学と仲良くなれるとは限らないけれど、1年前に読んでから、数学に対する苦手意識が随分減ったという。よしおかさんは「虚数の情緒読書会」を主催し、読みたい人、読んだ人、読んでいる人でゆるゆると語り合っているので、興味のある方はぜひどうぞ。かくいうわたしは、200ページのあたりで挫折中なので、この機に再開してみようかと。
「読まずに死んだらもったいない」のド直球、こんなに面白い本を知らないなんて、人生損している! と断言できるのが、やすゆきさんが持ってきた『シャンタラム』(グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ)、oyajidonさんお薦めの、『背教者ユリアヌス』(辻邦生)。どちらも、予備知識ゼロでいいから(むしろネット検索しないでと言いたい)とにかく読め、という徹夜小説であり夢中小説でありスゴ本。『シャンタラム』は読んだけれど([『シャンタラム』はスゴ本])、『ユリアヌス』は凄い凄いと聞いているので、読む!
おそらく、ケン・フォレット『大聖堂』、中島らも『ガダラの豚』、古川日出男『アラビアの夜の種族』といった、四の五の言わず読め、面白いことを保証するから。そして、万が一にも、これより面白いものがあるならば、教えて欲くれ、という傑作なんだろうなぁ……
以下、集まった「読まずに死ねない」マスターピースばかり。皆さんのお薦めは、[読まずに死んだらもったいない]で募集中ですぞ。ぜひ、教えて欲しい。
- 『アイデア大全』読書猿(フォレスト出版)
- 『侍女の物語』 マーガレット アトウッド(ハヤカワepi文庫)
- 『チャイナ・メン』マキシーン・ホン キングストン (新潮文庫)
- 『楢山節考』深沢七郎(新潮文庫)
- 『虚数の情緒』吉田武(東海大学出版会)
- 『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン(早川書房)
- 『流転の海』宮本輝(新潮文庫)
- 『女生徒』太宰治(新潮文庫)
- 『寄生虫なき病』モイセズ・ベラスケス=マノフ(文藝春秋)
- 『源氏物語』谷崎潤一郎訳(中公文庫)
- 『国をつくるという仕事』西水美恵子(英治出版)
- 『幸田文の箪笥の引き出し』青木玉(新潮文庫)
- 『この世の美しきものすべて』ヤロスラフ・サイフェルト(恒文社)
- 『背教者ユリアヌス』辻邦生(中公文庫)
- 『誘拐』本田靖春(ちくま文庫)
- 『本当に生きるための哲学』左近寺祥子(岩波書店・岩波現代文庫)
- 『BUTTER』柚木麻子 (新潮社)
- 『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』佐々涼子(早川書房)
- 『トーマスのほん』
- 『キングダム』原泰久(集英社)
- 『ふたりからひとり ときをためる暮らし』つばた英子 つばた秀一(自然食通信社)
- 『シャンタラム』グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ(新潮文庫)
- 『くらやみの速さはどのくらい』エリザベス・ムーン(ハヤカワ文庫)
- 『アルジャーノンの花束を』ダニエル・キイス(ハヤカワ文庫)
- 『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』ジョン・グローガン(ハヤカワ文庫)
- さくら学院6th アルバム『約束』
- 『読んでいない本について堂々と語る方法』バイヤール,ピエール(ちくま学芸文庫)
- 『学習の図鑑LIVE植物』
- 『小説 言の葉の庭』新海誠(角川文庫)([柏大輔『88』]を聴きながら読むと良いとのこと)
- 『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路』松本 修 (新潮文庫)
- 『花の慶次』隆慶一郎/原哲夫(ジャンプ・コミックス)
- 『種の起源』チャールズ・ダーウィン(岩波文庫)
- 『ビーグル号航海記』チャールズ・ダーウィン(平凡社)
- 『進化の存在証明』リチャード・ドーキンス(早川書房)
- 『烏に単は似合わない』阿部 智里(文春文庫)
- 『獣の奏者』上橋 菜穂子(講談社文庫)
- 『東方の夢―ボナパルト、エジプトへ征く』両角 良彦(講談社文庫)
- 『オイラーの贈物』吉田 武(東海大学出版会)
- 『コインロッカー・ベイビーズ』村上龍(講談社文庫)
- 『ドラえもん』藤子不二雄(小学館)
- 『勇午 ロシア編』赤名 修/真刈 信二(講談社漫画文庫)
- 『キラリと、おしゃれ―キッチンガーデンのある暮らし』津端 英子/津端 修一(ミネルヴァ書房)
- 『南アルプス山岳救助隊K-9 レスキュードッグ・ストーリーズ』樋口明雄(山と渓谷社)
- 『るろうに剣心』和月 伸宏(ジャンプ・コミックス)
- 『新平家物語』吉川英治
- 『私の生きた証はどこにあるのか』H.S.クシュナー(岩波現代文庫)
- 『冴えない彼女の育て方』丸戸史明(富士見ファンタジア文庫)
- 『不在の騎士』イタロ・カルヴィーノ(白水Uブックス)
次回のスゴ本オフのテーマは、「ハマる瞬間」。恋でも趣味でも運命でも、なにかにハマる瞬間、墜ちるトキメキがテーマですぞ。その瞬間が描かれた作品そのものを持ってきてもいいし、その作品にハマった自分自身について語ってもよし。本でも音楽でも映像でもゲームでもなんでもOK、6月に渋谷でする予定です。
最新情報は[スゴ本オフ]をチェックしてくださいませ。
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