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本好きが選んだハヤカワの170冊

 オススメを持ち寄って、まったりアツく紹介しあう「スゴ本オフ」、今回のテーマは「ハヤカワ」!これまた楽しく美味しいだけでなく、積読山脈を成長させるスゴい回だった。

 午後一時から夜八時、延々7時間のマラソン・オフ会、見てくれこの獲物。

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 本ばかりですまぬ。場の"ふいんき"はやすゆきさんの「早川書房さんシバリスゴ本オフは直球、変化球アリで「さとし」が大人気の楽しいパーティだった」でどうぞ。

 まずはSF、「ハヤカワといえばSF」の通念をあえて外したのか、SFはあるにはあるが、期待したより少なめ。おすすめプレゼンでは、イーガンもホーガンも、ギブスンもレムもないのがちょっと驚き。代わりにブラッドベリやハインライン、クラークが熱く語られる。暫定的結論によると、「幼年期の終わり」はSFオールタイムベスト、「ハイペリオン」はSFのラスボス」になった。「幼年期の終わり」と「ブラッド・ミュージック」はペアで読むと人類の未来の両極を見ることができる。鳥肌モノのスゴ本、ぜひセットで(幼年期→ブラッドの順で)読んで欲しい。

幼年期の終りブラッド・ミュージックハイペリオン

わたしを離さないで 次にNV、耳を惹いたのが、カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」。近未来のイギリスで"提供者"と呼ばれる人々の話だが、この評価が真っ二つに割れたのだ。「抑制した筆致で淡々と描かれる残酷な未来」という肯定的意見もあれば、「開始1/4でネタバレは早々と明かされ、あとはひたすら退屈」という否定的な方も。わたしは傑作だと評価しているが、これに「面白いお話」を求めると辛いかも。

 本書のテーマは、極めてセンシティブかつナイーブで、しかも利権に絡まる。だから、ネットでの議論には向かない。でも、本書を読んだ人とは対面で語りたい(杯を交えてね)。なぜなら、これはSFでもなんでもなく、現在のムンバイや中国、そして東京である話だから。現実ともかく、心理的に受け入れられる/られないかについて行政や立法に委ねるには、時期尚早だろう。今のところ、これは小説のなかでもSFでしか語れないネタだ。

 そして、絶版をなんとかしてくれーという魂の叫びが、今回も噴出する。「ファイト・クラブ」と「ブラッド・ミュージック」がそう。2ちゃんねらが選んだオススメ本で必ずプッシュされ、評価も上々だというのに無い。背取り業者に結構な値をつけられているのが残念なり。お越しいただいたハヤカワの中の人は、この魂の叫びと、ビジネスとしての出版の現実の板ばさみにされてた。ハヤカワの偉い人がかなり意識していたから、ワクテカしながら待っていよう(ガマンできず、図書館に走ってしまうかも)。

 ハヤカワJAはBGMと融合したプレゼンとなり、会話と音楽とtimelineが混ざり合って非常に愉快になった。円城塔 「Self-Reference ENGINE」から「後藤さんのこと」、そして野尻抱介「南極点のピアピア動画」に連携し、金子邦彦「カオスが紡ぐ夢の中で」にリレーされる。

南極点のピアピア動画 「初音ミク」が好きすぎて仕事してないと心配されている野尻氏から、金子氏の遺伝的アルゴリズムを使って物語を作るプロットにつながる。なぜなら、中途半端な"作品"をネットにアップロードし、フィードバックをもらい、さらにブラッシュアップしたものをアップする―――この過程は「初音ミク」を初めとスルニコニコ動画のふるまいそのものだから―――と思っていると、BGMがさりげなく(?)初音ミクにチェンジされる。小憎い演出が愉快なり。

 組み合わせの妙が楽しい。単品でオススメするのではなく、セットになると、テーマに対しより立体的に読め、さらに相乗効果が生まれる。本で語る大喜利みたいなものなのだが、肝心なのはラインナップで「お題」を伝えるところ。たとえばこう。

  「一九八四年」オーウェル
  「華氏451」ブラッドベリ
  「すばらしき新世界」ハクスリー

一九八四年華氏451

こう並べたら、三大ディストピア小説だ。「すばらしき」は講談社文庫だけど、上二つをハヤカワが押さえているのがポイントやね。

 わたしが考えたのはこの2冊。人生の後半になって、自分の人生、そんなに悪くなかった…むしろ成功したほうじゃないか、と振り返っていくうち、自己欺瞞の兆しを見つける。ほころびを解くうち、嘘に嘘を塗り固めている自分を自身で暴いてしまう。

  「セールスマンの死」アーサー・ミラー
  「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ

セールスマンの死 ずっと隠してきた虚像が打ち砕かれるとき、どういう態度を取るのか?男の場合は、「セールスマン」になるし、女の場合は「春にして」になる。非常に(非情に?)対照的なので、一緒に読むと肌が粟立つこと請合う。

 いちばん唸ったのは、次の3つをセットにしたもの。上二つは読んでいるので、テーマはおそらくこうだろう―――絶望的な日常を、それでもなんとかうまくやっていくか、できれば幸せな"きょう"にするために何かを・誰かを圧殺する話。

  「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
  「パーマネント野ばら」西原理恵子
  「スカイ・クロラ」森博嗣

 「スゴ本オフ@ハヤカワ」で語られた/つぶやかれた/オススメされた本を一覧化してみた。この「まとめ」ができるのは、根岸さんのtwitter実況「SF、ミステリ、そしてノンフィクションの殿堂! スゴ本オフ、ハヤカワしばりの巻」のおかげ、ありがとうございます。

 また、事前に聞いてみた結果→「人力検索はてな : あなたのオススメを教えてください」と、わたしのイチオシ「このハヤカワがスゴい!」とあわせると、ハヤカワのスゴ本が170冊集まった。「こいつが無いぜ!」というのがあったら、教えて欲しい、是非。

ハヤカワNF


  • 「ニワトリの歯 進化論の新地平」スティーブン・ジェイ・グールド
  • 「カオスの紡ぐ夢の中で」金子邦彦
  • 「これからの「正義」の話をしよう」マイケル・サンデル
  • 「博士と狂人───世界最高の辞書OEDの誕生秘話」サイモン・ウィンチェスター
  • 「FBI心理分析官───異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記」ロバート・K. レスラー、トム シャットマン
  • 「スパイのためのハンドブック」ウォルフガング・ロッツ
  • 「ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語」ヴィトルト・リプチンスキ
  • 「神話の力」ジョーゼフ キャンベル

ハヤカワNV

  • 「シャドー81」ルシアン・ネイハム
  • 「ファイト・クラブ」チャック・パラニューク
  • 「料理人」ハリー・クレッシング
  • 「あの日暑くなければ」エルヴィール・ド・ブリサック
  • 「ライジングサン」マイケル・クライトン
  • 「警察署長」スチュアート・ウッズ
  • 「太陽の黄金の林檎」レイ・ブラッドベリ
  • 「ルイジアナ物語」モーリス・ドニュジエール
  • 「スイート・ヴァレー・ハイ・シリーズ」フランシーン・パスカル
  • 「ローズマリーの赤ちゃん」アイラ・レヴィン
  • 「卒業」チャールズ・ウェッブ

ハヤカワ・ミステリ

  • 「火刑法廷」ジョン・ディスクスン・カー
  • 「サマータイム・ブルース」サラ・パレツキー
  • 「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
  • 「初秋」ロバート・B.パーカー
  • 「深夜プラス1」ギャビン・ライアル
  • 「女には向かない職業」P.D.ジェイムズ
  • 「もっとも危険なゲーム」ギャビン・ライアル
  • 「NかMか」アガサ・クリスティー
  • 「007/黄金の銃をもつ男」イアン・フレミング
  • 「恋するA・I探偵」ドナ・アンドリューズ

ハヤカワSF

  • 「月は無慈悲な夜の女王」ロバート・A.ハインライン
  • 「夏への扉」ロバート・A. ハインライン
  • 「ハイペリオン」ダン・シモンズ
  • 「幼年期の終わり」アーサー・C.クラーク
  • 「華氏451度」レイ・ブラッドベリ
  • 「火星年代記」レイ・ブラッドベリ
  • 「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス(文庫ハードカバーという非売品)
  • 「デューン 砂の惑星」フランク・ハーバート
  • 「重力が衰えるとき」ジョージ・アレック エフィンジャー
  • 「ブラッド・ミュージック」グレッグ・ベア
  • 「リングワールド」ラリイ・ニーヴン
  • 「サンドキングズ」ジョージ・R.R. マーティン
  • 「燃える傾斜」眉村卓
  • 「宇宙船ビーグル号」A.E.ヴァン・ヴォクト
  • 「イリーガル・エイリアン」 ロバート・J.ソウヤー

ハヤカワepi

  • 「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
  • 「日の名残り」カズオ・イシグロ
  • 「一九八四年」ジョージ・オーウェル
  • 「青い眼が欲しい」トニ・モリスン
  • 「君のためなら千回でも」カーレド・ホッセイニ(プルーフ版の非売品)
  • 「マジック・フォー・ビギナーズ」ケリー・リンク

ハヤカワJA

  • 「マルドゥック・スクランブル」冲方丁
  • 「南極点のピアピア動画」野尻抱介
  • 「self reference engine」円城塔
  • 「虐殺器官」伊藤計劃
  • 「サマー/タイム/トラベラー」新城カズマ
  • 「京美ちゃんの家出―ミルキーピア物語」東野司
  • 「そして夜は甦る」原尞
  • 「本邦東西朝縁起覚書」小松左京
  • 「亜空間要塞」半村良
  • 「七都市物語」田中芳樹
  • 「征東都督府」光瀬竜

ハヤカワ新書juice

  • 「人生を無理なく変えていく「シフト」の法則」ピーター・アーネル
  • 「人間はガジェットではない」ジャロン・ラニアー

ハードカバー

  • 「小さなチーム、大きな仕事───37シグナルズ成功の法則」ジェイソン・フリード
  • 「トッカン───特別国税徴収官」高殿円(サイン本)
  • 「発想する会社!───世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法」トム・ケリー、ジョナサン・リットマン
  • 「それをお金で買いますか」マイケル・サンデル
  • 「イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材」トム ケリー、ジョナサン リットマン」
  • 「閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義」イーライ・パリサー
  • 「インサイド・アップル」アダム・ラシンスキー
  • 「川の少年」ティム・ボウラー
  • 「ミステリの原稿は夜中に徹夜で書こう」植草甚一

ハヤカワ・コミック

  • 「夢幻紳士 幻想篇」高橋葉介
  • 「夢幻紳士 迷宮篇」高橋葉介
  • 「夢幻紳士 怪奇篇」高橋葉介
  • 「夢幻紳士 逢魔篇」高橋葉介

ハヤカワ・演劇

  • 「セールスマンの死」アーサー・ミラー

番外編

  • 「二人がここにいる不思議」レイ・ブラッドベリ(新潮文庫、ブラッドベリつながり)
  • 「モンゴルの残光」豊田有恒(ハルキ文庫、もとハヤカワJAつながり)
  • 「シャドー81」ルシアン・ネイハム(新潮文庫、ハヤカワへ移籍つながり)
  • 「ペパミント・スパイ」佐々木倫子(「スパイのためのハンドブック」つながり)

 ハヤカワの中の人に大感謝。お忙しい中お越しいただいただけでなく、「アルジャーノンに花束を」の文庫ハードカバー版(非売品)が何気に放流されてたり、高殿円「トッカン───特別国税徴収官」のサイン本が惜しげもなく供出されたり、ありがたいかぎり。

 この場の雰囲気を伝えたい!とUstreamに挑戦したのだが、音が流れない…お見苦しいところ申し訳ありません(次回までになんとかします)。

 この中でハヤカワ・マイベストを(ムリヤリ)選ぶなら、これ。NVなら「シャドー81」、SFなら「幼年期の終わり」、ミステリなら「火刑法廷」になる。未読なら、おめでとう。"黙って読め"級の傑作なり。これを試金石にして、「それが一番ならこれは?」というのがあれば、教えて欲しい、是非に。

シャドー81幼年期の終り火刑法廷

 次回は以下の通り。募集~開催のスピードが早いので、このブログよりもfacebook「スゴ本オフ」で情報収集するほうが吉。

 6/2(土) テーマ「旅」
 6/23(土) テーマ「角川文庫」
 未定 「スポーツ」
 未定 「ホラー」
 未定 「こども」

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コメント

セールスマンの死、いいですねー。
観光 (ハヤカワepi文庫)もかなりおすすめなのですが見当たらない様子・・・。
あとカズオイシグロの夜想曲集もいれてほしいです(^ ^)

投稿: mono | 2012.05.15 12:05

>>monoさん

あざっす!
これを機に「観光」に手を出します。カズオイシグロ「夜想曲集」も!
読んでない(でも噂で良さげな)本をオススメされると、「そうきたかー!」という気になれて嬉しいのです(たとえ読んでなくても)。
…ただ、カズオイシグロは「日の名残」がマイベストなので、これが覆されるかというと…

投稿: Dain | 2012.05.16 00:31

ハヤカワ文庫JA、草上仁も良いです。「お父さんの会社」「ゆっくりと南へ」など。
「旅」といえば景山民夫。裏をかいてムツゴロウ。ただし結構毒あります

投稿: ko1 | 2012.05.16 00:57

>>ko1さん

ありがとうございます、嬉しいことに未読です。「お父さんの会社」のあらましを読む限り、いま、現実に起きていそうなネタですね。

景山民夫やムツゴロウなら、例えばどんな作品が挙げられるでしょうか…どれも未読なので、オフ会には間に合わないかも知れませんが手にとっておきたいです。

投稿: Dain | 2012.05.16 06:58

景山民夫のエッセイは大半が旅行モノです。
「イルカの恋、カンガルーの友情」あたりがオススメですね。
ウソだらけで面白いです。
スティービー・ワンダーの楽屋でハンガー盗む
アメリカ南部の街でギター抱えてライブに飛び入り など
ムツゴロウは「ムツゴロウの人生上達の術」です。
笑顔で動物と遊ぶだけではありません。
彼は移動はスーツ姿なのです。理由は本にかいてあります

投稿: ko1 | 2012.05.17 00:30

>>ko1さん

よっしゃー「イルカの恋、カンガルーの友情」から手を付けます。どのへんで法螺を吹くのか楽しみに読みますね。ありがとうございます。

投稿: Dain | 2012.05.18 00:07

お詫び
スティビーワンダーの楽屋からハンガー盗む話は
「One Fine Mess 世間はスラプスティック」
ニューオリンズでギター抱えてライブ飛び入りは
「普通の生活」
にそれぞれ収録でした。
イルカの恋も面白いです。ではでは

投稿: ko1 | 2012.05.20 10:56

>>ko1 さん

補足ありがとうございます、「イルカの恋」面白いですね、ほら吹きなのか実話なのか境目が分からん…ちょっとエロスが混ざっているのも○です。

投稿: Dain | 2012.05.23 06:53

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