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「2015ベスト」のスゴ本オフ

 オススメを持ちよって、まったり熱く語り合う、それがスゴ本オフ。

 いろいろな読書会に参加してきたけれど、「本好きは美味しいもの好き」を実感するのがスゴ本オフだ。極上の旨酒、絶品ローストビーフ、日本一のアップルパイ、腕によりをかけた手料理の数々は、「本好きは食いしん坊」の証明になる。食べたものが栄養となり、やがて身体をつくるように、読んだ(観た、プレイした)ものが心をつくる。人生残りの食事回数・読める冊数はそんなにない、一回一会、食と本を充実させるべし。

 風景はこんな感じ。

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 基本の流れはこんな感じ。

  1. テーマに沿ったお薦め作品を持ってくる
    テーマは「SF」や「食」「ホラー」「学校」「音楽」など事前に相談して決める。お薦め作品は、本(物理でも電子でも)、映像(DVDの映画やYoutubeの動画など)、音楽、ゲーム(PS4からボドゲ)など、なんでもあり。並べて皆に見せびらかそう。
  2. お薦めを1人5分くらいでプレゼンする
    「ここが刺さった」とか「これは音読する」でも「このシーンを絵にしてみた」でもやり方自由。なるべく前半に発表しておくのが吉。後半になるとヘベレケ&グダグダになり、ちゃんと聞いてもらえなくなるおそれがあるので、恥ずかしがり屋さんは後半にするといいかも。プレゼンはtwitter班が実況する。
  3. 「それが好きならコレなんてどう?」というオススメ返し
    自分の好きな本をプレゼンする人は気になるでしょ? その人に自分のお薦めを「オススメ返し」するのだ。これは観客のみならず、twitter実況のレスから来るときも。このリアルタイム性がスゴ本オフの嬉しいところ。プレゼンや本に優劣つけたり投票したりはないけれど、いわゆる話題本やベストセラーは「なんでそれなの?」というツッコミが入るかも。
  4. 放流できない作品は回収する
    ひととおりプレゼンが終わったら、回収タイムになる。「放流」とは本の交換会のことで、交換できない絶版本・貴重な作品は、ここで持ち主の手元に戻る。
  5. 交換会という名のジャンケン争奪戦へ
    回収が終わったら、作品の交換会になる。ブックシャッフルともいう。「これが欲しい!」と名乗りをあげて、ライバルがいたらジャンケンで決める。ゲットできた人は、2周目になるまで争奪戦を待ってもらう。皆に行き渡って、まだ作品が並んでいたら2周目になる。持ってくる作品の上限・下限はないので、「1冊持ってきて、誰かが持ってきた全集と交換」なんてこともある。

 午後いっぱいかけて、まったりとやってる。togetterやこのブログでまとめてるんだけど、楽しさの半分も伝え切れていない気がする。途中参加・退場自由・見学歓迎なので、お気軽にどうぞ。イベント告知や最新情報は、[facebook:スゴ本オフ]をどうぞ。

 今回は「2015マイベスト」というテーマで、今年に出会ったベスト本・映画・音楽・ゲームが集まった。児童書から料理本からボードゲームやスーパー歌舞伎まで、種々様々な「スゴ本」がわんさと集まった。twitter実況まとめは[児童書「ワンダー」から「理系の料理」、小説の常識を超える「シャンタラム」さらに「ワンピース・スーパー歌舞伎」まで。スゴ本オフ「2015 MyBestスゴ本オフ」まとめ]にあるので併せてどうぞ(ズバピタさんありがとうございます!!)

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 嬉しかったのは、すぎうらさんのグレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ『シャンタラム』(新潮文庫)のご紹介。以前[徹夜小説『シャンタラム』]でお薦めしたのに惹かれて読んだらビックリ! 「こんなに面白いのなら、もっと早く読んでおけばよかった」とのこと。でしょでしょ。あまりに夢中になるあまり、小説を読んでいるのに読書とは別の体験をしているような気がしているという指摘をいただいたが、鋭い。そうなんだ、感情移入というよりもその人としてその世界で生きているような感覚なり。前知識も予備知識も、できれば一切の情報を断って、まっさらの状態で読んで欲しい。新潮文庫の裏表紙にある「あらすじ」すら読まないほうがいい。改めて断言する、面白い小説とはコレダ! と自信を持ってお薦めする。そうだな……これに匹敵する面白さは、(ストーリーは全然別だけど)中島らも『ガダラの豚』、ケン・フォレット『大聖堂』、古川日出男『アラビアの夜の種族』級やね。つまり、未読の方こそ幸せ者、というやつ。

シャンタラム1シャンタラム2シャンタラム3

独りでいるより優しくて 激しく気になったのは、うえださんが持ってきた、イーユン・リー『独りでいるより優しくて』(河出書房新社)。ある毒物混入事件をきっかけに、離ればなれになっていた男女の現在と過去が交錯して描かれるお話。なのだが、ミステリでもなく断罪でもなく、長い人生が少しずつ毒に冒されるように壊されていく過程を温かく描いている。面白いのは、この「毒」というのは様々なメタファーに満ちていて、最終的に人を殺す薬であったり、人生のなかのトラブルであったりするらしい。「人生の有毒性」にどう対処するかを緻密な心理描写で暴き立て見せつける技は、ぜひこの目で確かめたい。

理系の料理 一番笑ったのが、にしやんさんご紹介の五藤隆介『理系の料理』。「適量って何センチ?」「ひとつまみって何グラム?」と、めんどくさい理系男子の料理研究本。レシピを理解・分解・再構築する。いわば、料理の錬金術師やね。良かったのが、フローチャート。コンロと流し、調理台と器具、そして両手は有限だし、適切なタイミングで定められた食材が調理されていることが必要だから、これをフローで俯瞰しようという姿勢は極めて正しい。昔、ベネッセの食材宅配に付いてたフローチャートを思い出す。同時に二品、三品を作るには、このフローがとっても便利だった(今でも作る前に脳内シミュレートする)。物性物理や生物科学や認知科学といった、サイエンスとしての料理なら、[料理と科学のおいしい出会い][味わいの認知科学]がお薦め。

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 めちゃくちゃ観たくなったのが、sngkskさんお薦めの『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』だ。配役・演技・演出・衣装・舞台装置・照明・レーザー・プロジェクションマッピングその全てが渾然一体となって押し寄せてくる5時間にわたる素晴らしい体験。名乗り、見栄、本水、殺陣など歌舞伎の型の上で確かにワンピースの世界が展開されるとのこと。原作の熱心なファンでなくともどっぷりとハマれそう。メディアで追験できるものは「コピーできる経験」としてしか重みはない。一方、その場でそこに居ないと体感できない経験は、まさしく生々しく「生きる」ことそのものになる。

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 ご紹介頂いたラインナップは以下の通り。人生は短く、読みたい観たいプレイしたいものばかり。


フィクション

  • 『DRIFTGLASS』サミュエル・R・ディレイニー(国書刊行会)
  • 『高慢と偏見』オースティン(ちくま文庫)
  • 『ジョニー・ザ・ラビット』東山 彰良 (双葉文庫)
  • 『黒い家』貴志祐介さん(角川ホラー文庫)
  • 『獣の奏者』上橋菜穂子さん(講談社文庫)
  • 『ワンダー』R.J.パラシオ(ほるぷ出版)
  • 『窓から逃げた100歳老人』ヨナス・ヨナソン(西村書店)
  • 『105歳の料理人ローズの愛と笑いの復讐』フランツ=オリヴィエ・ジズベール(河出書房新社)
  • 『金沢金魚館』(集英社オレンジ文庫)
  • 『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ著、東江一紀訳(作品社)
  • 『シャンタラム』グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ(新潮文庫)
  • 『vN』マデリン・アシュビー(早川書房)
  • 『月は無慈悲な夜の女王』ロバート・A・ハインライン(早川書房)
  • 『パイの物語』ヤン・マーテル(竹書房文庫)
  • 『独りでいるより優しくて』イーユン・リー(河出書房新社)
  • 『龍時』野沢 尚(文春文庫)
  • 『メタモルフォシス』羽田圭介(新潮社・新潮文庫)
  • 『銭の戦争』波多野聖(ハルキ文庫)
  • 『屍者の帝国』伊藤計劃・円城塔(河出書房新社)
  • 『銀河英雄伝説』田中 芳樹(創元SF文庫)
  • 『天地明察』冲方丁(角川文庫)
  • 『ホラード病』吉村萬壱(文藝春秋)
  • 『33年後のなんとなくクリスタル』田中 康夫(河出書房新社)

ノンフィクション
  • 『美術の物語』ゴンブリッチ(ファイドン)
  • 『「音」と身体のふしぎな関係』セス・S・ホロヴィッツ(柏書房)
  • 『緊縛の文化史』マスター”K”(すいれん舎)
  • 『富士山1周レースができるまで~ウルトラトレイル・マウントフジの舞台裏~』鏑木 毅・福田六花 共著(ヤマケイ新書)
  • 『極限のトレイルラン-アルプス激走100マイル-』鏑木 毅(新潮文庫)
  • 『ファミコン攻略本ミュージアム1000』松原圭吾編著(マイクロマガジン社)
  • 『サウジアラビア-変わりゆく石油王国-』保坂修司(岩波新書)
  • 『知るって何?』オスカー・ブルニフィエ(朝日出版社)
  • 『理系の料理』五藤 隆介(秀和システム)
  • 『量子革命ーアインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』マンジット・クマール(著)、青木薫(訳) (新潮社)
  • 『営業の意味』中村信仁(エイチエス株式会社)
  • 『失われた夜の歴史』ロジャー・イーカーチ(インターシフト)
  • 『田舎暮らしに殺されない法』丸山健二(朝日新聞出版)
  • 『荒木飛呂彦のマンガ術』荒木飛呂彦(集英社新書)
  • 『動物園の文化史 ひとと動物の5000年』溝井裕一(勉誠出版)
  • 『動物裁判 西欧中世・正義のコスモス』池上俊一(講談社現代新書)
  • 『ピクサー流 創造するちから』(ダイヤモンド社)
  • 『0ベース思考』スティーヴン・レヴィット、スティーヴン・ダブナー(ダイヤモンド社)
  • 『ビジネスマンへの歌舞伎案内』成毛眞(NHK出版新書)
  • 『パワーズ オブ テン―宇宙・人間・素粒子をめぐる大きさの旅』フィリップ・モリソン(日本経済新聞出版社)
  • 『モテない女は罪である』山田 玲司(大和書房)
  • 『選択の科学』シーナ・アイエンガー(文春文庫)
  • 『古本屋ツアー・イン・ジャパン』小山 力也(原書房)
  • 『古本屋ツアー・イン・首都圏沿線』小山 力也(本の雑誌社)
  • 『澁澤龍彦のイタリア紀行』澁澤 龍彦(とんぼの本)
  • 『新発見の恐竜大集合! 』講談社

映像と音楽
  • 『野火』塚本晋也監督
  • 『キングスマン』マシュー・ボーン監督
  • 『POSITIVE』tofubeats
  • 『Franz Kafka’s South Amerika』dCprG
  • 『LIVE IN LONDON』BABYMETAL
  • 『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』/全3幕
  • 『memory of primitive woman』seigen ono &pearl alexander(sony music)
  • 『インターステラー』クリストファー・ノーラン監督

ゲームとコミックとか
  • 『The Last Of US』Naughty Dog(PS4)
  • 『ダンジョン飯』九井 諒子(KADOKAWA / エンターブレイン)
  • 『僕だけがいない街』三部けい(角川書店 角川コミック・エース)
  • 『累(かさね)』松浦だるま(講談社 イブニング)
  • 『雪花の虎』東村アキコ(小学館 ビッグスピリッツ)
  • 『東京タラレバ娘』東村アキコ(講談社)
  • 『この美術部には問題がある! 』いみぎむる(電撃コミックスNEXT)
  • 『よつばと! 』あずまきよひこ(電撃コミックス)
  • 『山賊ダイアリー』岡本健太郎(イブニングコミックス)
  • 『ニーチェ先生』ハシモト(メディアファクトリー)
  • 映画 『あん』 河瀨直美 (配給 エレファントハウス)
  • 小説『あん』 ドリアン助川 (ポプラ社)
  • 『あん』 オフィシャルブック (キネマ旬報社)
  • webサイト『カーリル』
  • 『キャプテン・リノ』すごろくや

 次回は………決めてなかったwww 来年になるけれど、そのうち告知しましょう。このブログよりも、[facebook:スゴ本オフ]の方が早いぞ。

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コメント

科学技術的なサステナブルって全体最適なイメージがわきにくいよね。そんな中、ダイセルリサーチセンターの久保田邦親博士(工学)の材料物理数学再武装は人工知能と品質工学のあいのこみたいで黄金のバランスを示す曲線の作り方を説明されている講義資料だ。多変数なサステナブル問題はどう解決されるべきかのイメージが湧きますね。

投稿: トライボロジーの未来 | 2021.05.02 10:36

>>トライボロジーの未来さん

この辺りの論文でしょうか?
どこまで理解できるか分かりませんが、序盤を見る限り、めちゃくちゃ面白そうですね。

材料物理数学再武装
(等確率の原理を材料の第一原理と見立てた場合の物理数学)
https://www.researchgate.net/publication/325178980_Plinciple_of_artificial_intelligence_on_basis_of_thermodynamical_aproach

投稿: Dain | 2021.05.02 12:12

DXのブラックボックス問題がらみでも最近は文科省関係者にも脚光を浴びているみたい。

投稿: 猿坊 | 2022.05.28 13:19

確率論と決定論の清濁併せ飲む数理的方法論ですね。

投稿: 歴史好き | 2022.06.11 17:16

 ビジョンがどうたらマネジメントがああたらなんていう虚飾がなくていい。

投稿: 猿坊 | 2022.06.14 13:49

九層の台も累土より起こり、千里の行も足下より始まる. その塁土を確認したわけで、そこに組織文化という土台を積み上げて、さらにその上に理念や体制という楼閣を企業の場合つみあげることが重要になるのかもしれませんね。いずれにしても人工知能の数理の第一歩として分かりやすいですね。

投稿: CO2排出削減分野  | 2024.04.21 15:42

「材料物理数学再武装」ですか。プロテリアル製高性能冷間ダイス鋼SLD-MAGICの発明者の方の大学での講義資料でしたね。熱処理時のマルテンサイト変態における焼入れ性で重要なTTT曲線の解析の話が印象的でしたね。均一核形成モデルの方程式をPCT MathCadによる解析解と関数接合論で比べた精度の議論などをしていてAIテクノロジーの魁となってこの世に普及しているようですね。

投稿: グローバルサムライ | 2024.05.13 22:02

日経クロステックの記事に今年のノーベル賞は「「AIの父」ヒントン氏にノーベル賞、深層学習(ディープラーニング)の基礎を築いた業績をまとめ読み」と題して紹介されていましたが、物理学賞、化学賞ともにAIがらみあったんですね。しかしながらブラックボックス問題の解明には至っていないようです。

投稿: 潤滑機素設計関係 | 2024.11.02 03:04

SLD-MAGICかハイテン成形の金型材料として超有名ですからね。

投稿: 金型関係 | 2024.11.04 03:42

AI半導体大手のNVIDIAのCEOも「AIと日本の優れた製造業、ロボット技術を合わせれば、日本は新しい産業革命を起こせる」と述べ、日本が持つ可能性に対して強い期待感を表明している。このようなAI技術は地球環境問題だけでなく人口減少に伴う労働力不足の解決策ともなろう。今後ロボットは高度な多軸、多関節化がおこることが予想されるため日本人の経営者も指導力を発揮すべきでは。

投稿: ストライベック | 2024.11.29 19:13

まあ、そうはいってもやはりCCSCモデルはノーベル賞級の境界潤滑理論だといえますね。なにしろ極圧添加剤の作用機構の原因物質が、グラファイト層間化合物であることを世界で初めて明らかにした業績は素晴らしいものがある。あとなにやら鉄鋼のリサイクル技術にも関連した話があるということだ。

投稿: プラスチックエンジニア | 2024.12.08 04:23

なるほど、「材料物理数学再武装」なかなか面白いですね。AI数学の理論基礎をトライボロジーにおけるストライベック線図にもとめ、そこでAIに使われるシグモイド関数の意義を明確化している。アルゴリズム教育として一種の価値創造が見受けれれますね。

投稿: AIインストラクター | 2024.12.11 11:19

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