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『ルパン三世 カリオストロの城』を映画館の大画面・大音響で観てきたら100分が秒だった

「さて、面白くなってきやがったぜ!」

「バカヤロウ!そいつがルパンだ、俺に化けて潜り込んだんだ!」

「今宵の斬鉄剣は一味違うぞ」

「奴はとんでもないものを盗んでいきました……あなたの心です」

VHSで1万回、DVDで1万回、金曜ロードショーで10万回くらい観てきた『ルパン三世 カリオストロの城』を、IMAXで観てきた。

ストーリー、セリフ回し、物語の緩急、名セリフ、名シーン、ラストのカタルシス、めちゃくちゃ好きだ。もちろん12万回観たので、次に何を言ってどうなるかは全部知ってる。でもこれは、これだけは劇場で観たかった(それもデジタルリマスター版をIMAXで)。

で、観たんだが、本当に一瞬だった。最初のカジノからラストのあのセリフまで、100分が秒だった(でも考えてみると、あれほどの物語と人物とアクションを100分でまとめるなんて凄いことだと思う)。

映画そのものは一瞬だったが、「なんでこんなに面白いのだろう?」とつらつら考えていると、新たな発見があった。これ、ルパンやクラリスだけでなく、「時計塔」がめちゃくちゃ重要だ。

「いや、時計塔が重要なのはあたりまえでしょ?いろいろイベントもあるし」とツッコミが入るかもしれぬ。もちろんその通りだ。

その通りなんだけど、「物語の構造」と「物理的な配置」と「演出の構造」が重なっているのが時計塔なんだ。以下に説明する。

これ、行きて帰りし物語として見ると、時計塔がその境界に立っている。カリオストロ城が俯瞰で映るシーンには、必ず城が左、時計塔が右に配置されている。なので観客の脳内にはこういう構造になっている。

カリオストロ城ーーーー時計塔ーーーー湖

で、ルパンはローマ水道から時計塔の下を通って城へ侵入しようとする。つまり舞台の右から左に向けて進んでいく。スクリーンが舞台でこれが演劇なら上手から下手に向かってルパンが移動するのが物語の前半の構造だ。

演劇の世界では、上手から下手への移動は、過去への遡行や困難への進行を意味する。ルパンが乗り越えなければならない障害や、過去の出来事を思い出すのは物語の前半にある。

そして、物語の後半では、今度はルパンは城から時計塔へ逃げていく。つまり、下手から上手へ移動する。演劇の世界では、勝利や成功、未来を意味する。

思い出しやすい例を挙げるなら、ルパンがぴよーーーーーーんっと飛ぶシーンは左に飛んでいたし、時計塔へ逃げるシーンは常に右を向いていた。

で、この上手→下手への移動と、下手→上手への移動の区切りは、時計塔の鐘が鳴るときで区切られている。

物語の最初、ボーンボーンと鳴るときに、観客には時計塔の存在が印象付けられ、かつ困難に向けて物語が進むことが示唆される。

そして物語のある重要な場面で、やはり連続でボーンボーンと鳴る。そこでは困難な状況から脱出し、勝利へ向けたスタートの鐘の音になる(さらに、最後に時計塔が鳴るときは、みなさんご存知のあのシーンになる)。

つまり、時計塔の鐘が連続で鳴らされるシーンは3回あり、最初の2回は、物語が進む方向が切り替わったことと重ね合わされている。

宮崎駿の映画初監督作品だが、この構造を意図して作り込んでいたに違いない。私が気づいていなかっただけで、スタジオジブリ作品にも「音響」と「キャラの進行方向」と「物語の構造」との重ね合わせがあるのかもしれぬ。

もはや金ローの定番であるこの傑作、ひょっとすると観たことがない人がいるかもしれない。もし、そんな人がこれを読んでいたら……羨ましい! あなたはこれから、カリオストロの城という大傑作を観るという幸せが待っているから。

そして、この作品を劇場で観たことがないあなた、あなたも幸せな人だ。100分を秒で溶かす体験が待っているから。おそらくあなたも5億回くらい観てきたとおもう。それでも45周年リバイバルが良いチャンスになるはず。

大画面で『カリオストロの城』を観るこの機会、お見逃しの無きよう。



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コメント

●●年前、10歳離れた弟にレンタルVHSでカリオストロの城を見せたことがあるんですが
「時々、画面端に黒い●がでてくるのはなんだ」ばかり聞かれました。
リマスターはそんなことがないからよいですね。

そういう冗談(実体験ですが)は置いといて、そういうノイズなしに見れるという事で自分も見ました。本当に良かったです。
最近の流行で白黒映画も映画館でしてますが、見たいです。

投稿: 関西人 | 2024.12.08 20:38

>>関西人さん

VHSは特有のノイズ(というか画質)が良い感じを醸していると思います(昔の写真をセピア色にするみたいに)。思い出補正を強化してくれる演出ですね。
IMAXのデジタルリマスター版は、その辺、クッキリクリアに見えており、さしずめ新しい革袋に入った古い酒のような味わいです。


投稿: Dain | 2024.12.10 16:57

自分も、カリオストロの城はおそらく10万回以上みてます。VHS のテープが、擦りきれるくらいみたし、ネトフリなどでも何回も見ました。それこそ、ほぼセリフは覚えているし、音楽も...やっぱり、カリオストロはいいですね!

投稿: これちゃん | 2024.12.11 20:44

>>これちゃんさん

「VHS のテープが、擦りきれるくらい」←それだけの価値ありですよね!
10万1回目は、劇場で観るのもよいかもですー

投稿: Dain | 2024.12.12 14:13

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