この恋愛本がスゴい
スゴ本オフ(恋愛編)でまったりアツく語り合った中からいくつか。
いちばん面白かったのは、「オススメの恋愛本を紹介しあう」のが目的なのに、だんだん話が「恋愛とは何か?」にシフトしていったこと。なぜその本がオススメなのか?についての説明が、そのまま「自分にとって"恋愛"とはこういうもの」に換えられる。それは経験だったり願望だったりするが、それぞれの恋愛の定義なのだ。「本」という客観的なものについてのしゃべりが、「私」という個人的なものを明かす場になる。
「レンアイ」ってのは、ドラマや映画や小説で市場にあふれ、ずいぶん手垢にまみれているのに、いざ自分が体験するとなると、非常に個人的な一回一回の出来事になってしまう。墜ちて初めて、一般化されていたワタクシゴトに気づくという、とても珍しいものなんじゃないかな。いわゆるスタンダードな王道から、変則球なのに「あるある!」「そうそう!」と手や膝を打った覇道まで、スゴ本オフでの気づきをつづってみよう。
まず王道だったのが、エーリッヒ・フロム「愛するということ」。「愛とは、"愛される技術"ではなく、"愛する技術"なのだ」と断言する著者に、すこし引くかもしれない。わたしの紹介は「5冊で恋愛を語ってみよう」を参照いただくとして、オフ会ではMOGGYさんの、本の内容以上に、誰に教えてもらったか、というコンテキストが大切にハッとさせられる。確かにその通りで、どんなにすばらしい本でも、出会うタイミング、出会うきっかけというのがある。ちょうどいいタイミングで、ちょうどいい本にめぐり合うのは、運命みたいなものかもしれない。
実はこの本、一番カブったものでもある。わたしを含め、実に五人の方がこれを、「オススメの恋愛本」として持ってきたのだ。それぞれの「この本との出合い」を思い出してもらうと、ほとんどの人が「異性に勧められて」になる。そして、その異性はパートナーか、そこに近いところにいる人だという、面白い結果が得られた。「愛するということ」をオススメするということは、遠まわしの愛情表現なのかもしれないですな(実はわたしも嫁さんに勧めたw)。
もう一つ王道、まーしゃさんの「愛とは料理だ」にガツンとやられた。ウンウンとうなずきながら、「愛とは料理を作って一緒に食べること」を考える。愛する人のために、材料を準備して、調理して、できたてを食べてもらう。じぶんも一緒に食べる。笑う、楽しい、幸せ。これぞ愛じゃないの、とシンプルかつ説得力あふれる定義のもと、オススメされたのは「きのう何食べた?」。愛のためにゴハンを作って食べるゲイカップルの話なのだが、相方が女性でも自然に見える。というか、ゲイもストレートも関係ないんじゃないかなー、と思えてくる。
愛とは料理だ―――この感覚が分かるようになるのまでに、わたしはずいぶん、嫁さんにお世話になっている。感謝せねばなるまいて。Cookpadやfinalvent氏からレシピを仕込み、相手の好みを考えつつアレンジする。そういうときの料理は、作っているときから幸せになるし、食べてもらうと倍加する。極東ブログ:牡蠣のオリーブオイル掛けは白ワインと一緒に、冬の夫婦呑みの定番となっている。
覇道は、ユースケさんの推した、乱歩の「芋虫」。知ってる人なら「えっ?」かもしれない。だけどこれは、愛の小説なのだ。「愛とは、ゆるすこと」なんだ。
戦争で両手足と声と音を失った夫に献身する妻の話。その「献身」が「愛」なのかというと、それは違う。無抵抗で醜い芋虫のような夫と、健康で艶かしい肢体を持つ自分を比べ、彼女の嗜虐心はいっそう高められる。そして、夫に唯一残された「視る」ことに耐えられなくなった妻が、ある一線を越えてしまう。おのれがやったことを激しく悔い、「ユルシテ」と夫の肌に指文字を書く妻に、夫はある返事をする。その返事と、その後に夫がとった行為こそ、愛だと思う。やったことは取り返せない、(ネタバレ反転)失われた光は戻らない。だから、「やったこと」を後悔しながら世話をさせるよりは、いっそその後悔すらなくしてしまえる手段をとる。もちろん彼女はいっとき悲しむかもしれないが、生き延びなければもっと辛い思いをさせてしまう―――そこまで考えた上での行動だろうと想像すると、「愛」以外の言葉が見つからない。
も一つの覇道が、S.キングの「デッド・ゾーン」、正直、うすいさんからこれ聞いて「あっ」と思った。たしかに、確かにこれはラブ・ストーリーだわ。交通事故で四年間の昏睡状態になり、目覚めたあと予知能力を身につけた男の悲劇―――なのだが、そういう超自然的なストーリーを抜きにして、これは愛の物語だと断言できる。
オフ会で話す機会がなかったのだが、S.キングは「愛」を描きたくて、その方便としてホラーじみたストーリーをでっちあげているように思うときがある。「デッドゾーン」もそうだし、「グリーンマイル」の所長の妻の話なんてド真ん中。「クージョ」はその愛が無残にも奪われる話だし、「ペット・セメタリー」は愛が暴走した悲劇、「クリスティーン」や「ミザリー」、「ローズ・マダー」には、この上なく真摯な、狂った愛を読み取ることができる。
要チェックなのは、ともこさんオススメの「パーマネント野ばら」。西原理恵子の傑作だということは知ってはいるものの未読だったのだが、「切なくて、実にならない、大人の女の、イヤな恋」という紹介に惹かれる。男と女の間を流れる、暗い河から差し出された「情念本」としてぜひ読んでみよう。
以上、スゴ本オフ(恋愛編)から選んだ「スゴい恋愛本」。文字どおり山のように紹介されており、すばらしい狩場だった。実況は、twitterまとめtogetter:スゴ本オフ(恋愛編)をどうぞ。さらに、「Love!!」な2回目が終りました。や、第2回スゴ本オフに行ってきたもあわせてどうぞ。紹介された全リストを作ってみた。参考にしてほしい。カッコ 【 】 内は紹介者。
- 【Dain】聖少女/倉橋由美子/新潮社
- 【Dain】少女セクト/玄鉄絢/コアマガジン
- 【Dain】春琴抄/谷崎潤一郎/新潮社
- 【Dain】おおきな木/シルヴァスタイン/篠崎書林
- 【Dain】愛するということ/エーリッヒ・フロム/紀伊國屋書店
- 【やすゆき】Kiss/谷川俊太郎+谷川賢作/プライエイド
- 【ともこ】ラヴァーズ・キス/吉田秋生/小学館
- 【ともこ】パーマネント野ばら/西原理恵子/新潮社
- 【PAO(ぱお)】あなたが好き/タンタン(唐唐)/ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 【PAO(ぱお)】嫉妬の香り/辻仁成/集英社
- 【chachaki】イニシエーション・ラブ/乾くるみ/文芸春秋社
- 【yuripop】ム-ミン谷の十一月/トーベ・ヤンソン/講談社
- 【yuripop】君へつづく物語/日の出ハイム/海王社
- 【オータ】芋虫/江戸川乱歩/新潮社
- 【モギー】愛するということ/エーリッヒ・フロム/紀伊國屋書店
- 【モギー】陽子(荒木経惟写真全集)/荒木経惟/平凡社
- 【しゅうまい】ジャスミン/辻原登/文芸春秋社
- 【ぽかり】純愛カウンセリング/岡村靖幸/ぴあ
- 【ぽかり】僕の小規模な失敗/福満しげゆき/青林工芸舎
- 【taka_2】飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ/井村和清/祥伝社
- 【さいとう】ノルウェイの森/村上春樹/講談社
- 【さいとう】INTO THE WILD/Jon Krakauer/Anchor
- 【てつ】愛するということ/エーリッヒ・フロム/紀伊國屋書店
- 【てつ】愛の法則/米原万里/集英社
- 【点子】春琴抄/谷崎潤一郎/新潮社
- 【点子】半所有者 秘事/河野多恵子/新潮社
- 【清太郎】封印の島/ヴィクトリア・ヒスロップ/みすず書房
- 【清太郎】青春と変態/会田誠/ABC出版
- 【ハーレクイン】ハーレクイン名作セリフ集/非売品?
- 【nao】尾瀬に死す/藤原新也/東京書籍
- 【nao】結婚のアマチュア/アン・タイラー/文芸春秋社
- 【nao】風味絶佳/山田詠美/文芸春秋社
- 【まーしゃ】愛するということ/エーリッヒ・フロム/紀伊國屋書店
- 【まーしゃ】きのう何食べた?/よしながふみ/講談社
- 【sako】冷静と情熱のあいだ/江國香織/辻仁成 /角川書店
- 【sako】トーマの心臓/萩尾望都/小学館
- 【うすい】デッドゾーン/スティーヴン・キング/新潮社
- 【まち】危険な関係/ラクロ/角川書店
- 【zubapita】嵐が丘/エミリ・ブロンテ/新潮社
- 【zubapita】華麗なるギャッツビー/フィッツジェラルド/新潮社
おまけというか、リクエストへの返事。まなめ王子から、「非モテに効く恋愛本ある?」と訊かれていたので、オフ会の俎上から考えてみた。恋愛は(自分が体験するときは)とても個人的な出来事であるにもかかわらず、映画やドラマや小説で消費されるときは、ものすごく一般化される。ラノベやアニメにいたっては「記号化」という言葉を使ってもいいくらい。ハーレクインの中の人が、「ハーレクインとは色恋ファンタジーである」と喝破したけれど、ハーレクインに限らないかと。
なので、マジレスすると特効本はない。お手軽にモテ・テクを紹介する本は多々あれど、マニュアル化した釣り方なら相応のサカナしか釣れないということで。だけど、「モテ」を離れて恋愛ってなんだろね?を考えるなら、フロム「愛するということ」がオススメ。これは、良い意味でも悪い意味でもバイブル、染まらないように読もう。あと、「愛とは料理」は真理なので、「きのう何食べた?」をどうぞ(既読だろうが、「愛は料理」を考えながら再読して)。好きな誰かがいるのなら、その人をどのように大切にするのか(そしてその気持ちをどのように伝えるのか)を考えるだろう。
なに?出会いがない?勇気を絞って料理教室へ行くんだ。イオンのクッキングスタジオとか見てみろ、若い女性ばっかりだぞ。肉じゃがのレッスン料が三千円とかふざけているけれど、わたしがもう少し若ければ狩場に……ゲフンゲフン、とともかく、自炊で上げた腕をアッピールする場として最高だと思う。
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コメント
こんにちは。まちです。
先日はとても楽しいかつメモ沢山のオフ会を
ありがとうございました。
さて、パトリシア・ハイスミスのかたつむりの本の話をしましたが「12の物語」でなく「11の物語」でした。ハヤカワ・ミステリ文庫です。大変失礼しました。記憶力のあやしいお年頃なものでひらにご容赦です。
投稿: まち | 2010.05.20 12:56
先日はお疲れさまでした。とても楽しい、あっという間のひとときでした。
飲み会で、モギーさんが読書における「人」(紹介してくれた人や、自分が人に勧めること)の大事さを語っていたのですが、今回は、それを強く感じました。
次回も、是非参加したいです。(テーマは何になったかな)
あと、自分の紹介本は、小規模な失敗と岡村靖幸『純愛カウンセリング』でした。フロムは、これから読みます!!
投稿: ぽかり | 2010.05.20 22:01
>>まちさん
教えていただき、ありがとうございます。わたしのノートの跡から察するに、相当量飲んでいたようです(聞き間違いかも)。「11の物語」、なかなかの毒を含んでいるようですね、楽しい毒書になりそうです。
投稿: Dain | 2010.05.21 06:53
>>ぽかりさん
激しく同意です。本そのものの魅力に憑かれることもありますが、人生のちょうど良いタイミングでオススメされることも大切ですね。
紹介本が間違っててすみませんでした。ご指摘ありがとうございます。
投稿: Dain | 2010.05.21 06:55