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Powerhouse / In an Ambient Way

Label: Chesky Records
Rec. Date: Dec. 2014
Personnel: Wallace Roney (tp), Bob Belden (ss, fl, arr), Oz Noy (g), Kevin Hays (el-p), Daryl Johns (b), Lenny White (ds)
Powerhouse_201412_Ambient Way
1. Shhh / Peaceful [Miles Davis]
2. In a Silent Way [Joe Zawinul]
3. It's About That Time [Miles Davis]
4. Early Minor [Joe Zawinul]
5. Mademoiselle Mabry [Miles Davis]
6. In a Silent Way (outro) [Joe Zawinul]

 2015年に亡くなったBob BeldenがMiles Davisの「In a Silent Way」関連の曲を素材にアレンジした・・・どちらかと言えば「キワモノ」のアルバムです。オリジナルをモザイクをかけたように表現したジャケットも「キワモノ」感が出ていますね。

 本アルバムで取り上げられた1、2、3、6曲目は「In a Silent Way」収録曲、4曲目"Early Minor"は2004年に発表された「The Complete In a Silent Way Sessions」(3枚組ボックスセット)収録曲で、以上5曲のオリジナルは1969年2月録音、残る5曲目"Mademoiselle Mabry"は「Filles de Kilimanjaro」(キリマンジャロの娘、1968年9月録音)に収録されたものです。
 少々脱線しますが、上記3枚組ボックスセットの他にも、「Bitches Brew」と「Jack Johnson」の関連音源(当時のスタジオでのアウトテイク)を寄せ集めたボックスセットが確か今世紀に入って相次いで発表されましたが、オリジナルを「耳タコ」で聴いてそれで満足していましたので、どうも「いまさら」感が半端なくどれもスルーしています。それにしてもあんな重量級のボックスセット、いったいどれくらい売れたのでしょうかね。

 本ユニットのリーダーBob Beldenは、過去にもマイルス絡みで「Miles from India(2006、2007年録音、Foue Quarter Entertainment)」と「Miles Español(2010年録音、Entertainment One Music)」の2組のアルバムを発表しています(他にもあるかもしれませんが)。特に前者は、1970年代にマイルスのバンドに在籍していた変態ギターのPete Coseyと我らがDavid Liebmanの久々の共演トラックが含まれており、私には思わぬプレゼントとなったアルバムです。
 ドラムのLenny whiteは「Bitches Brew」に参加していましたが、他のメンバーはマイルスよりもひと世代、ふた世代も若い連中で、この手のアルバムのファーストコール(?)Wallace Roneyがラッパを吹き、イスラエル出身のギタリストOz Noy、キーボードKevin Hays、ベースDaryl Johns(1980年代マイルスに参加したベーシストDarryl Jonesとは別人のようです・・・紛らわしい)という6人編成です。

 Bob Beldenがプロデュースするサウンドは、オリジナルをわりとシンプルにストレートに再現したものです。なんといってもオリジナルの方は、Herbie Hancock、Chick Corea、Joe Zawinulの三人のキーボードにJohn McLaughlinのギターによる分厚いハーモニーがベースとなっていました。一方ここにいるのはKevin HaysとOz Noyの二人ですので、「最小限」の編成でオリジナルの雰囲気を再現する・・・そういうBob Beldenの意図だったのではないでしょうか。

 順不同で、参加している各プレイヤーに着目して印象を述べていきますと・・・。

 ギターのOz Noyはけっこう器用なところを見せています。2002年録音のリーダーアルバム第一作「Oz Live(Magnatude)」以降、2年おきくらいに発表している彼のアルバムは全て聴いています。これらのアルバムは誤解を恐れずに言えば、どれも同じジャムバンド風の金太郎飴のようなサウンドですが、彼の「元気」でそして少し「不良っぽい」ギタープレイを私は好んで聴いているものです。彼にとって本作のような言わば「他流試合」はそうたくさんないと思いますし、彼自身のリーダーアルバムのサウンドとはかなり様相が違いますが、それでも彼本来の(そして少しマンネリ気味の)個性を主張しつつも、Bob Beldenの意図するサウンドに器用に合わせています。

 キーボードのKevin Haysも良い塩梅で雰囲気を出しています。本アルバムではエレピに専念しており、ここでのプレイは、本人にとっては不本意かもしれませんが、皮肉にもこれまで聴いた中では最もアイディア豊かなプレイを聴かせていると私には思えます。

 Wallace Roneyは想像していたとおりで、彼の永遠のアイドルであるマイルスを、こういう趣旨のアルバムですので少しも遠慮せずに彼なりに「トレース」したプレイです。1980年代(だったと思いますが)にデビューした当時「マイルスそっくり」と言われたWallaceではありますが、1980年代後半から90年代前半にかけて録音されたMuseレーベルへのリーダーアルバムや、後期Tony WilliamsクインテットでのWallaceのラッパは、私の非常に好みとするところです。ただし今世紀に入ってからくらいでしょうか、生来の「バンドリーダーとしての力不足」から、凡作を連発してしばらく遠ざかっていたところですが、このアルバムでのWallaceは、彼の「心のふるさと」であるマイルスの世界を意外に力強く表現しており、久しぶりに楽しく(実際ニヤニヤしながら)聴くことができました。現役のラッパで、こういう(擬似マイルスの)世界を描けるのは、やはりWallace Roneyただひとりでしょう。

 最後にLenny Whiteですが、正直「ちょっと重いなあ」という印象です。オリジナルのドラマーはもちろんTony Williamsですが、Tonyの切れ味鋭いドラミングとはだいぶ違う印象です。まあこれもこのドラマーの個性でしょう。

 オリジナルから45年後にBob Beldenが再現した「In a Silent Way」の世界は、正直それほど深みのある再構築ではありませんが、Wallace Roney、Kevin Hays、Oz Noyの好演は拾い物ですし、ハードなアルバムを立て続けに聴いたあとのコーヒー・ブレイク或いはティー・タイムのお供に・・・そんな感じの楽しいアルバムです。


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半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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