Tony Williams / Tokyo Live
Label: Blue Note
Rec. Date: March 1992
Personnel: Wallace Roney (tp), Bill Pierce (ts, ss), Mulgrew Miller (p), Ira Coleman (b), Tony Williams (ds)
Disc 1:
1-1 Geo Rose
1-2 Blackbird [Lennon, McCartney]
1-3 Ancient Eyes
1-4 Citadel
1-5 Warriors
1-6 Angel Street
Disc 2:
2-1 Sister Cheryl
2-2 The Slump
2-3 Mutants of the Beach
2-4 Civilization
2-5 Crystal Palace
2-6 Life of the Party
2-7 The Announcements
このblogで扱うにはいささかメジャーすぎるし「今さら」といったアルバムではありますが、今回の記事はTony Williams(1945-1997)が1992年に録音した私の大好きな「Tokyo Live」を取り上げます。過去の記事「Powerhouse / In an Ambient Way」、「Cindy Blackman / Code Red」、「The Wallace Roney Quintet」で触れた「後期Tony Williams クインテット」の最後のアルバムです。
Tony Williamsは1969年録音の「In a Silent Way」あたりを最後にマイルスのバンドを離れるわけですが、その後の15年くらいのTonyは私にとっては言わば「暗黒時代」です。と言うのも、1970年代のLife TimeやNew Life Time名義のアルバムはいずれもピンときませんでしたし、例の「ぐれいと・じゃず・とりお」やハンコックのVSOPなどでの彼のプレイだって、マイルスのもとにいた頃のバンドに緊張感を与え続けたあの天才ドラマーはどこに行っちゃったんだろう、という感じで、そういう意味での「暗黒時代」でした。
「オレももう四十だし、いつまでもこんなことやってちゃいかんな」と彼が思ったかどうか知りませんが、1985年録音のリーダーアルバム「Foreign Intrigue」から新生ブルーノートに籍を移し、その次作「Civilization(1986年録音)」を皮切りに、彼にとっては「最後のレギュラー・バンド」となったクインテットによる快作を次々に発表します。
この新生ブルーノートに吹き込まれたアルバムは、これまで(暗黒時代)のTonyのモヤモヤを吹っ切るようなストレートな(現代)ハードバップで、彼自身のプレイの切れ味がマイルスのバンドにいた頃に戻ったとは決して思いませんが、こういうストレートなサウンドでの彼のプレイを聴くと、聴き手の方がTonyのプレイとの「付き合い方」を修正する、と言うのでしょうか、誤解を恐れずに言えば「天才」から「普通」のパワフルなドラマーに変わった姿を、率直に受け入れられるようになってきた・・・上手く表現できませんが、そのような内の変化が起こってきて、私はこれらのアルバムでのTonyのプレイ、少々ドタバタしているようにも聴こえる彼のドラミングを含めて、ほぼ100%受け入れられるようになっていったわけです。
回りくどいことを書いてしまいました。
さてこのTony最後のレギュラー・バンドですが、メンバーはフロントにWallace Roney(ウォレス・ルーニー)のラッパとBill Pierce(ビル・ピアース)のサックス、Mulgrew Miller(マルグリュー・ミラー)のピアノ、ベースはアルバムによって入れ替わりましたが、最後の二組のアルバムはIra Coleman(アイラ・コールマン)に固定され、2管フロントによるクインテット編成です。(本記事の末尾に、このクインテットによるアルバムのジャケット写真を掲載します。)
本作「Tokyo Live」は冒頭に書いたようにTonyのレギュラー・クインテットの最後のアルバムにあたり、タイトルのとおりブルーノート東京でのライブ録音で、演奏される楽曲は、全てこのクインテットによるここまでの4枚のアルバムから選ばれています。
フロントに「マイルスのように吹くことが俺の幸せ」が信条のWallace Roney(「The Wallace Roney Quintet」の記事より)がいることで、当然マイルスのバンドが思い浮かびますが、このクインテットのサウンドを聴いてマイルス・クインテットを連想するリスナーはいないでしょうし、Tony自身もマイルスにいた頃のサウンドをここに再現しようという思いは全くなかったと思います。何回も書きますが、もっとストレートで明快な1990年代前半当時のコンテンポラリー・ハードバップの王道を行くサウンドです。
ライブということで少々粗いながらも高いテンションの演奏ですが、そのサウンドはあくまでも「ステディ」で、Tony本人もマイルスのバンドでのメンバーを常に触発する変幻自在なドラミングで次々と局面を切り替えていくプレイではなく、バスドラがズドズドと鳴り響いてパワフルに、そしてストレートにバンドを鼓舞するスタイルは、マイルス・クインテットのTonyではなく、喩えが適切ではないかもしれませんが、まるでジャズ・メッセンジャーズのブレイキーのような・・・ちょっと違うかな?
いずれにしても、Mulgrew MillerとIra Colemanが一緒になって叩き出すリズムは、「枠組み」を維持しながら熱くなっていく~そういう意味でのブレイキー~のですが、このクインテットはTonyがこれまで積み重ねてきたキャリアを背景に、熱いながらも実に洗練された趣味の良いサウンドを聴かせてくれます。
「洗練された趣味の良い」と聴こえるのは、言うまでもなくTony自身のオリジナル(ビートルズの1-2"Blackbird"以外は全てTonyのオリジナル)の魅力に負うところが大きいと思います。Tonyのオリジナルと言えば彼自身の二枚目のリーダーアルバム「Spring(1965年録音、Blue Note)」収録の"Love Song"は(おそらく)多くのジャズファンに強い印象を残した佳曲ですが、本作で取り上げられた楽曲も2-1"Sister Cheryl"を筆頭に彼のペンは冴えわたっていて、本当にこの人は良い曲を書きます。そして、複雑ではないけれどよく考えられたアレンジによるテーマ部から、各人の熱いソロに繋がれる(ちょっと「アレ」な長いドラムソロもあったりします)のですが、これがまた彼らのベスト・パフォーマンスと言ってもよいほどの出来なのです。
このblogでは何度も書いてきたことですが、本作が録音された頃のWallace Roneyは私の非常に好みとするところで、ここではライブということもあってずいぶん力が入ったプレイで、この時代の彼をずっと追いかけていた私にとってはむしろほほえましいとさえ思えるくらいですが、力強さという点では彼の最右翼に位置するパフォーマンスです。もう一人のBill Pierceは、Wallaceに比べれば「クールに燃えている」というのでしょうか、テナー、ソプラノともに折り目正しさの中にも熱さを感じさせるプレイで、Wallaceとの対比・コンビネーションが絶妙です。一方ピアノのMulgrew Millerですが、よく言われるようにマッコイ・タイナーの影響を感じさせる70年代ジャズの香り漂う彼のピアノがこのバンドのサウンドに良い塩梅にマッチしていて、今さらながらではありますが、Wallace - Bill - Mulgrewの組み合わせは大成功だったという以外ありません。
後期Tony Williamsクインテット自体が、Tony Williamsというミュージシャンの最後の「傑作」としか言いようのないバンドで、本作はこのクインテットの集大成となった最後の「力作」であり、このblogの中では少数派の「聴き手を選ばない」胸のすくような現代ハードバップのアルバムです。
「Civilization(1986年録音)」 ※ベースはCharnette Moffett
「Angel Street(1988年録音)」 ※ベースはCharnett Moffett
「Native Heart(1989年録音)」 ※ベースはIra Coleman又はRobert Hurst
「The Story of Neptune(1991年録音)」 ※ベースはIra Coleman
Rec. Date: March 1992
Personnel: Wallace Roney (tp), Bill Pierce (ts, ss), Mulgrew Miller (p), Ira Coleman (b), Tony Williams (ds)
Disc 1:
1-1 Geo Rose
1-2 Blackbird [Lennon, McCartney]
1-3 Ancient Eyes
1-4 Citadel
1-5 Warriors
1-6 Angel Street
Disc 2:
2-1 Sister Cheryl
2-2 The Slump
2-3 Mutants of the Beach
2-4 Civilization
2-5 Crystal Palace
2-6 Life of the Party
2-7 The Announcements
このblogで扱うにはいささかメジャーすぎるし「今さら」といったアルバムではありますが、今回の記事はTony Williams(1945-1997)が1992年に録音した私の大好きな「Tokyo Live」を取り上げます。過去の記事「Powerhouse / In an Ambient Way」、「Cindy Blackman / Code Red」、「The Wallace Roney Quintet」で触れた「後期Tony Williams クインテット」の最後のアルバムです。
Tony Williamsは1969年録音の「In a Silent Way」あたりを最後にマイルスのバンドを離れるわけですが、その後の15年くらいのTonyは私にとっては言わば「暗黒時代」です。と言うのも、1970年代のLife TimeやNew Life Time名義のアルバムはいずれもピンときませんでしたし、例の「ぐれいと・じゃず・とりお」やハンコックのVSOPなどでの彼のプレイだって、マイルスのもとにいた頃のバンドに緊張感を与え続けたあの天才ドラマーはどこに行っちゃったんだろう、という感じで、そういう意味での「暗黒時代」でした。
「オレももう四十だし、いつまでもこんなことやってちゃいかんな」と彼が思ったかどうか知りませんが、1985年録音のリーダーアルバム「Foreign Intrigue」から新生ブルーノートに籍を移し、その次作「Civilization(1986年録音)」を皮切りに、彼にとっては「最後のレギュラー・バンド」となったクインテットによる快作を次々に発表します。
この新生ブルーノートに吹き込まれたアルバムは、これまで(暗黒時代)のTonyのモヤモヤを吹っ切るようなストレートな(現代)ハードバップで、彼自身のプレイの切れ味がマイルスのバンドにいた頃に戻ったとは決して思いませんが、こういうストレートなサウンドでの彼のプレイを聴くと、聴き手の方がTonyのプレイとの「付き合い方」を修正する、と言うのでしょうか、誤解を恐れずに言えば「天才」から「普通」のパワフルなドラマーに変わった姿を、率直に受け入れられるようになってきた・・・上手く表現できませんが、そのような内の変化が起こってきて、私はこれらのアルバムでのTonyのプレイ、少々ドタバタしているようにも聴こえる彼のドラミングを含めて、ほぼ100%受け入れられるようになっていったわけです。
回りくどいことを書いてしまいました。
さてこのTony最後のレギュラー・バンドですが、メンバーはフロントにWallace Roney(ウォレス・ルーニー)のラッパとBill Pierce(ビル・ピアース)のサックス、Mulgrew Miller(マルグリュー・ミラー)のピアノ、ベースはアルバムによって入れ替わりましたが、最後の二組のアルバムはIra Coleman(アイラ・コールマン)に固定され、2管フロントによるクインテット編成です。(本記事の末尾に、このクインテットによるアルバムのジャケット写真を掲載します。)
本作「Tokyo Live」は冒頭に書いたようにTonyのレギュラー・クインテットの最後のアルバムにあたり、タイトルのとおりブルーノート東京でのライブ録音で、演奏される楽曲は、全てこのクインテットによるここまでの4枚のアルバムから選ばれています。
フロントに「マイルスのように吹くことが俺の幸せ」が信条のWallace Roney(「The Wallace Roney Quintet」の記事より)がいることで、当然マイルスのバンドが思い浮かびますが、このクインテットのサウンドを聴いてマイルス・クインテットを連想するリスナーはいないでしょうし、Tony自身もマイルスにいた頃のサウンドをここに再現しようという思いは全くなかったと思います。何回も書きますが、もっとストレートで明快な1990年代前半当時のコンテンポラリー・ハードバップの王道を行くサウンドです。
ライブということで少々粗いながらも高いテンションの演奏ですが、そのサウンドはあくまでも「ステディ」で、Tony本人もマイルスのバンドでのメンバーを常に触発する変幻自在なドラミングで次々と局面を切り替えていくプレイではなく、バスドラがズドズドと鳴り響いてパワフルに、そしてストレートにバンドを鼓舞するスタイルは、マイルス・クインテットのTonyではなく、喩えが適切ではないかもしれませんが、まるでジャズ・メッセンジャーズのブレイキーのような・・・ちょっと違うかな?
いずれにしても、Mulgrew MillerとIra Colemanが一緒になって叩き出すリズムは、「枠組み」を維持しながら熱くなっていく~そういう意味でのブレイキー~のですが、このクインテットはTonyがこれまで積み重ねてきたキャリアを背景に、熱いながらも実に洗練された趣味の良いサウンドを聴かせてくれます。
「洗練された趣味の良い」と聴こえるのは、言うまでもなくTony自身のオリジナル(ビートルズの1-2"Blackbird"以外は全てTonyのオリジナル)の魅力に負うところが大きいと思います。Tonyのオリジナルと言えば彼自身の二枚目のリーダーアルバム「Spring(1965年録音、Blue Note)」収録の"Love Song"は(おそらく)多くのジャズファンに強い印象を残した佳曲ですが、本作で取り上げられた楽曲も2-1"Sister Cheryl"を筆頭に彼のペンは冴えわたっていて、本当にこの人は良い曲を書きます。そして、複雑ではないけれどよく考えられたアレンジによるテーマ部から、各人の熱いソロに繋がれる(ちょっと「アレ」な長いドラムソロもあったりします)のですが、これがまた彼らのベスト・パフォーマンスと言ってもよいほどの出来なのです。
このblogでは何度も書いてきたことですが、本作が録音された頃のWallace Roneyは私の非常に好みとするところで、ここではライブということもあってずいぶん力が入ったプレイで、この時代の彼をずっと追いかけていた私にとってはむしろほほえましいとさえ思えるくらいですが、力強さという点では彼の最右翼に位置するパフォーマンスです。もう一人のBill Pierceは、Wallaceに比べれば「クールに燃えている」というのでしょうか、テナー、ソプラノともに折り目正しさの中にも熱さを感じさせるプレイで、Wallaceとの対比・コンビネーションが絶妙です。一方ピアノのMulgrew Millerですが、よく言われるようにマッコイ・タイナーの影響を感じさせる70年代ジャズの香り漂う彼のピアノがこのバンドのサウンドに良い塩梅にマッチしていて、今さらながらではありますが、Wallace - Bill - Mulgrewの組み合わせは大成功だったという以外ありません。
後期Tony Williamsクインテット自体が、Tony Williamsというミュージシャンの最後の「傑作」としか言いようのないバンドで、本作はこのクインテットの集大成となった最後の「力作」であり、このblogの中では少数派の「聴き手を選ばない」胸のすくような現代ハードバップのアルバムです。
「Civilization(1986年録音)」 ※ベースはCharnette Moffett
「Angel Street(1988年録音)」 ※ベースはCharnett Moffett
「Native Heart(1989年録音)」 ※ベースはIra Coleman又はRobert Hurst
「The Story of Neptune(1991年録音)」 ※ベースはIra Coleman