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James Carter / Present Tense

Label: EmArcy
Rec. Date: Sept. 2007
Personnel: James Carter (fl, bcl, ss, ts, bs), Dwight Adams (tp. flh), D.D. Jackson (p), James Genus (b), Victor Lewis (ds), Rodney Jones (g) [4, 6, 9], Eli Fountain (per) [4, 7, 9]
Carter James_200709_Present Tense 
1. Rapid Shave [Dave Burns]
2. Bro. Dolphy [Carter]
3. Pour Que Ma Vie Demeure [Django Reinhardt]
4. Sussa Nita [Carter]
5. Song of Delilah [Victor Young, Livingston, Ray Evans]
6. Dodo's Bounce [Dodo Marmarosa]
7. Shadowy Sands [Jimmy Jones]
8. Hymn of the Orient [Gigi Gryce]
9. Bossa J.C. [Carter]
10. Tenderly [Walter Gross, Jack Lawrence]

 マルチ・リード奏者James Carter(「Odean Pope / Odean's List」特集記事『The Julius Hemphill Sextet』の「Fat Man and the Hard Blues」と「Five Chord Stud」に参加、以下「JC」と記す)が2007年に録音したアルバムです。

 JCはデビュー前にはR&Bのバンドでも活動していたそうですが、例えばエディー・ロックジョー・デイビス、ドン・バイアスらのコンベンショナルでどちらかと言えばR&B方面に傾いた先輩たちからの影響を受けた、或いは軸足を置いたプレイをベースに、一瞬にして「フリー」の次元に移動(アウト)してしまう変幻自在でパワフルなプレイが持ち味・・・なんとも上手く表現できませんが、ジャズシーンのメイン・ストリーマーかどうかは別にしても、或いは「そこまでやるか」的な脂ぎったプレイを受け入れられるかどうかは別にしても、際立つ個性を持つサックス・プレイヤーの一人であることは間違いないでしょう。
 つい先だって久しぶりにリーダーアルバムを発表したJCを私はデビュー当時からずっと聴いていますが、なんだかんだ言っても当時のレギュラー・バンドを従えて一切の迷いなく吹き切った最初の二作(「JC on the Set(1993年録音)」と「Jurassic Classics(1994年録音)」、いずれもDIWレーベル)がベストだよね、と私は思っていますし、同じ意見のリスナーも多いのではないかと思います。

 本作「Present Tense」は、JCの12枚目のリーダーアルバムで、このように彼の最良作という訳ではありませんが、『ピアノソロ 三題』の「So Far」と「Peace-Song」の2枚のアルバムを取り上げたピアニストD.D. Jacksonが全面参加ということで選んだアルバムです。
 JCとD.D.は1990年代のD.D.のリーダーアルバムで既に共演していますが、アルバム全曲で共演したというのは本作のみですし、以前にも書きましたが、2007年録音の本作が手元では現時点で最新の(と言うか最後の)D.D.の録音です。
 他のメンバーは、JCとは共演歴のあるDwight Adamsのラッパとの2管フロント、リズムは中堅どころのJames GenusのベースにVictor Lewisのドラム、曲によってRodney JonesのギターとEli Fountainという人のパーカッションが入る編成です。
 JCはどのアルバムも選曲に拘りがあって、本作でも自身のオリジナルやスタンダードの他に、トランぺッター・デイブ・バーンズの1曲目、JCの大事な素材であるジャンゴ・ラインハルトの3曲目、ピアニスト・ドド・マーマローザの6曲目など、相当マニアックな楽曲が選ばれています。

 オルガンのShirley Scott(シャーリー・スコット)の「Queen of the Organ(1964年録音、Impulse!)」で取り上げられたアップテンポの変則ブルーズ"Raphid Shave"でアルバムはスタートします。テーマ部はわりとまともに始まり、最初のラッパソロまではそのペースで演奏が進められますが、二番目のD.D.のソロになると、ドン・ピューレンばりに鍵盤を叩きつけながらの弾けた変態プレイが全開となり、その勢いは続くJCのソロに引き継がれ、続くベースソロからバンドの温度は徐々に下がってきて、最初のテーマに戻ります。
 2曲目のJCオリジナル"Bro. Dolphy"はその名のとおり、JCがEric Dolphyをイメージさせるバスクラでしっとり始まり・・・と思ったら、D.D.のソロになると案の定どんどん変態度が高くなっていき、テンポがグッと上がる後半では、ラッパと絡むバスクラは一気に「アチラ」の世界に突入していきます。
 この冒頭2曲のような「まとも」と「変態」が行き来するやり方は、JCが初期のリーダーアルバムからやってきた彼の得意技で、堅実でオーソドックスなプレイが持ち味のベースとドラムも、彼のやり方にキッチリと合わせているという印象を受けます。このほかでは、ブラウン・ローチのレパートリーだった5曲目(このトラックはサックスのいやらしいオーバーダブ)、スタン・ゲッツが「Plays(1952年録音、Verve)」で取り上げたジジ・グライスの8曲目なども同様で、一見(一聴?)ストレートな現代ハードバップがJCとD.D.がアドリブを始めるや変態の隠し味が一気に表に出てくる、そういった感じのサウンドです。
 一方でジャンゴの3曲目、生ギターが入るJCオリジナルのボッサ・ビートの4、9曲目、珍しくJCのフルートが聴ける6曲目、かつてエリントン・バンドのバリサク奏者ハリー・カーネイが自身のバンドで演奏したバラードの7曲目などは、彼らなりに「牙を隠した」オーソドックスな演奏で、最後のスタンダードのバラード"Tenderly"もJCがしっとりとバリサクを吹き、D.D.は神妙なバッキングに徹し、実に穏やかな演奏でアルバムを閉じます。

 D.D.以下のリズム(特にベースとドラムは健闘)に支えられて自信たっぷりに吹くJCのプレイは健在ですし、3,4,10曲目などで聴ける彼の「まとも」な、或いはしっとりとした吹奏には、確かに初期のころから比べれば一定の熟成も感じられて、私は好ましくこのアルバムを聴きました。
 欲を言えばD.D.にはもっと弾けてもらいたかったところですし、若干魅力薄のラッパは必要だったのかな、という気がしないでもないですが、JCのリーダーアルバムとしては最初の二枚の「次」あたりにくる出来にはなっていると思います。

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半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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