特集:The Julius Hemphill Sextet
四回目の特集記事はThe Julius Hemphill(ジュリアス・ヘンフィル)Sextet名義の四枚のアルバムです。
ジュリアス・ヘンフィル(1938年テキサス生まれ、1995年没)と言えば、Oliver Lake(オリヴァー・レイク)、Hamiet Bluiett(ハミエット・ブルーイット)、David Murray(デヴィッド・マレイ)と組んだWorld Saxophone Quartet(ワールド・サキソフォン・カルテット、以下「W.S.Q.」と記す)のオリジナル・メンバーであったことがよく知られていると思います。
The Julius Hemphill Sextetは、1989年にジュリアスがそのW.S.Q.を脱退した後に結成した6本のサックスのみによるアンサンブルで、彼の生前に二枚のアルバム、死後に教え子の一人であるMarty Ehrlichらが遺志を引き継いでやはり二枚のアルバム、今回取り上げるこれら四枚のアルバムが、おそらくこのセクステットが残した(現時点での)全記録ということになると思います。
W.S.Q.は四人のメンバーがそれぞれにかなり凝ったスコアを持ち寄り、好き嫌いは別としても短いながらも個性的なソロを披露し、時にはポップに、時にはフリーに近づく演奏を聴かせるアンサンブルでしたが、「悪くないんだけど、どうもスカッと良い気分になれないなぁ」というのがこのカルテットに対する個人的な感想です・・・私には「苦手」に分類されるDavid Murrayもいますし。
ジュリアス自身がW.S.Q.を途中で脱退した理由はわかりませんし、彼も「スカッとしないなぁ」と感じていたかは知りませんが、彼としては自分の意図が隅々まで行き届く理想的なサックス・アンサンブルを作りたいという思いから、このセクステットを結成したのではないかと私は思っています。
①Fat Man and the Hard Blues
Label: Black Saint
Rec. Date: July 1991
Personnel: Julius Hemphill (as), Marty Ehrlich (ss, as, fl), Carl Grubbs (ss, as), James Carter (ts), Andrew White (ts), Sam Furnace (bs, fl)
1. Otis' Groove
2. Lenny
3. Floppy
4. Opening
5. Headlines
6. Four Saints
7. Fat Man
8. Glide
9. Tendrils
10. Anchorman
11. Untitled
12. Three-Step
13. The Answer
14. The Hard Blues
第一作にあたる本アルバムは、図らずもジュリアス本人がサックス奏者としてこのセクステットに参加した最後のアルバムになってしまいます。
メンバーを見ますと、初リーダーアルバム「JC on the Set(1993年録音、DIW)」で多くの日本のリスナーの~少なくとも私の~度肝を抜いたJames Carterですが、その2年前、おそらくプロのミュージシャンとしてキャリアをスタートさせた頃の初期James Carterの参加が目を引きます。
編成を大きくしたということだけではないでしょうが、W.S.Q.に比べてこのセクステットはアンサンブルというかハーモニーがグッと分厚くなります。そしてW.S.Q.と同じように充分に練られたスコア(本当に良く出来ています)ですが、このハーモニーがW.S.Q.に比べてずっと素直でストレートなので、「スカッとしない」というモヤモヤ感はなく、私にとってはストレスなく楽しく聴けるアンサンブルになっています。
譜面に書かれたアンサンブル主体の楽曲が約半分で、ソロの時間はあまり長くないものの、短いながらも各メンバーの個性的なソロが聴けるという点はW.S.Q.と全く同じですが、中でも5曲目のリーダーのアルトとMarty Ehrlichのソプラノの激しい絡み、6曲目の堂々とブロウするJames Carterのテナー、9曲目の2本のフルートの絡み合い、10曲目のAndrew Whiteのテナーなどはゾクゾクするような気持ち良さがあります。
このセクステットの最初にして最高のアルバムと言ってよいでしょう。
②Five Chord Stud
Label: Black Saint
Rec. Date: Nov. 1993
Personnel: Julius Hemphill (conductor), Tim Berne (as), James Carter (ts), Marty Ehrlich (ss, as), Andrew White (ts), Sam Furnace (ss, as), Fred Ho (bs)
1. Band Theme
2. Mr. Critical
3. Shorty
4. Mirrors
5. Five Chord Stud
6. The Moat and the Bridge
7. Georgia Blue
8. Flush
9. Spirituals Chairs
上記①の2年後に録音された第二作では、リーダーのジュリアスは体調のせいもあったのでしょうか、ここではコンダクターに徹して、その代役はジュリアスの一番弟子(?)で前回の特集記事で取り上げたTim Berneが務めています。他に前作からはCarl GrubbsがバリサクのFred Hoに交代と、メンバーのマイナーチェンジがあります。
充分に練られたスコアとメンバーの短いソロの交換という基本的なやり方は前作と同様ですが、前作に比べてインプロに比重が置かれ、その分、フリー方向に傾いたサウンドになっているという印象です。例えば2,4,8曲目では、メンバーがくんずほぐれつのコレクティブ・インプロを聴かせるといった具合です。
メンバーに焦点を当ててみますと、やはりTim BerneとJames Carterの共演ということになるでしょう。その後、全く別の道を歩んでいくこの二人の共演は、私の知る限り本作のみで、3曲目では最初のTim Berneらしい高密度のアルト・ソロに続いてJames Carterがテナーで登場するところなどは、今となっては貴重な記録でしょう。またタイトル・チューンの5曲目は、これもフリーにグッと近づく長尺曲で、一番手のMarty Ehrlich(アルト)に続いてAndrew White(テナー)、Sam Furnace(アルト)、James Carter(テナー)、Tim Berne(アルト)がそれぞれに「見得を切る」ような見せ場(聴かせ場?)を作るところは、本作最大の聴きどころです。前作では少し埋没(遠慮?)していたJames Carterですが、本作での彼の存在感は頭一つ抜けているという感じです・・・もちろん他のメンバー(特に7曲目のMartyのアルトは聴かせます)だって全く悪くないのですが。
第一作とは違った魅力を感じさせるサウンドで、フリー・ジャズの香りが色濃く漂う中で、このセクステットの力強さを見せつけたアルバムです。
③At Dr. King's Table
Label: New World Records
Rec. Date: April 1997
Personnel: Marty Ehrtich (as, ss, fl, alto-fl, cl, bcl, music director), Sam Furnace (as, ss), Andy Laster (as, fl), Gene Ghee (ts), Andrew White (ts), Alex Harding (bs)
1. Impulse
2. Holy Rockers
3. Void
4. Fixation
5. Jiji Tune
6. What I Know Now
7. Sojourner's Blues: "Ain't I a Woman?"
8. Another Feeling
9. Bumpkin
10. A Bitter Glory
11. Flair
12. Ink
13. Choo Choo
14. At Dr. King's Table / Ascension
15. The Children's Song
16. The Children's Song: First Vision
ジュリアスの死から2年後の1997年、前二作に参加していたMarty Ehrlichが中心となり、師の遺志を引き継ぐ形で録音されたアルバム。メンバーではGene Ghee、Andy Lester、Alex Hardingが初参加、比較的短い16曲が演奏されており、Andy Lesterアレンジの10曲目を除きジュリアスのペンによるものです。ライナーノーツによるとジュリアス自身が過去に録音したことのない楽曲を選んだようで、彼が生きていても第三作はこのような選曲になっていたのではないか、などと想像してしまいます。
ジュリアス存命中の二作の少々「粗削り」と言えなくもない部分が、このセクステットではやや薄められているという印象を受けます。とは言っても、一糸乱れぬアンサンブルを聴かせる洗練されたセクステットということではなく、前二作で聴かれたような「ポップ」というか「わかりやすい」と言うか言わば「伝統的」なハーモニーと、フリーにグッと傾く自発性や力強さが良い塩梅に共存するジュリアスの音楽づくりのマインドは聴き手にハッキリと伝わってきます。ここまでで二度も陳腐な表現を使ってしまいましたが、まさに故人の「遺志を引き継ぐ」ということなのでしょう。
このセクステットの方法論からすれば、ジュリアス本人、さらにはJames CarterやTim Berneら(スター・プレイヤー)の不在ということは全く気になりません。5曲目や12曲目の短いながらも味のあるAndrew Whiteのテナー・ソロは聴かせますし、たくさんの楽器を操る実質的リーダーのMarty Ehrlichは、どの楽器も実に深い音色で鳴らしており、マルチ・リード奏者としての確かな腕前を示してくれます。
④The Hard Blues Live in Lisbon
Label: Clean Feed
Rec. Date: Aug. 2003
Personnel: Maty Ehrlich (as, ss, musical direction), Aaron Stewart (ts), Andy Lester (as), Sam Furnace (as, ss), Alex Harding (bs), Andrew White (ts)
1. Otis' Groove
2. Opening
3. Touchic'
4. Three-Step
5. Rites
6. Revue
7. Jiji Tune
8. Fat Man
9. Band Theme
10. Georgia Blue
11. Mr. Critical
12. Spiirtuals Chairs
13. The Hard Blues
前作から6年後の2003年にポルトガル・リスボンで行われたライブ録音で、テナーのGene GheeがAaron Stewartに交代した他は前作と同じメンバーです。
上記①「Fat Man and the Hard Blues」のオープナーだった「ポップ」な"Otis' Groove"でステージがスタートしますが、おそらくメンバーが楽器を吹きながら舞台の袖からステージ中央へ移動しているのでしょう、その演出を捉えた録音(レベルが徐々に上がっていく)になっています。この冒頭曲をはじめ大半が上記①~③のアルバムの楽曲、その他もW.S.Q.のレパートリーなどが選ばれています。これまでのこのセクステットのベスト盤的なライブアルバムといったところではないでしょうか。
ここまでの三作と同じようなやり方でステージは進んでいき、短いながらも各メンバーが個性的なソロを披露するのも前三作と同様です。ライブならではの緊張感に包まれた、しかも情緒に流されない演奏(アンサンブル、ソロともに)で、このライブのために積み重ねたであろう綿密な準備の跡が窺えます。
何度も同じことを書いているような気がしますが、このメンバーでは3,7,9曲目で短いソロをとるAndrew Whiteのテナーと、特に10曲目でのMarty Ehrlichのアルトがやはり出色です。
ステージのエンディングは上記①のアルバムのフィナーレでアルバムタイトルにもなった"The Hard Blues"。ここではオープニングと逆の手順で、メンバーが楽器を吹きながらステージを退く様子(フェイド・アウト)が収められていて、1時間強の充実のステージを閉じます。
以上四枚のアルバムを聴くと、「もっとこのセクステットの演奏を聴きたいな」というよりも「もうこれで充分だな」という気持ちです。それくらい、事半ばで逝ってしまったジュリアスのやりたかったことが、彼の死後の二枚のアルバムを含めて、全て実現しているのではないか、私はそのように思っています。
ジュリアス・ヘンフィル(1938年テキサス生まれ、1995年没)と言えば、Oliver Lake(オリヴァー・レイク)、Hamiet Bluiett(ハミエット・ブルーイット)、David Murray(デヴィッド・マレイ)と組んだWorld Saxophone Quartet(ワールド・サキソフォン・カルテット、以下「W.S.Q.」と記す)のオリジナル・メンバーであったことがよく知られていると思います。
The Julius Hemphill Sextetは、1989年にジュリアスがそのW.S.Q.を脱退した後に結成した6本のサックスのみによるアンサンブルで、彼の生前に二枚のアルバム、死後に教え子の一人であるMarty Ehrlichらが遺志を引き継いでやはり二枚のアルバム、今回取り上げるこれら四枚のアルバムが、おそらくこのセクステットが残した(現時点での)全記録ということになると思います。
W.S.Q.は四人のメンバーがそれぞれにかなり凝ったスコアを持ち寄り、好き嫌いは別としても短いながらも個性的なソロを披露し、時にはポップに、時にはフリーに近づく演奏を聴かせるアンサンブルでしたが、「悪くないんだけど、どうもスカッと良い気分になれないなぁ」というのがこのカルテットに対する個人的な感想です・・・私には「苦手」に分類されるDavid Murrayもいますし。
ジュリアス自身がW.S.Q.を途中で脱退した理由はわかりませんし、彼も「スカッとしないなぁ」と感じていたかは知りませんが、彼としては自分の意図が隅々まで行き届く理想的なサックス・アンサンブルを作りたいという思いから、このセクステットを結成したのではないかと私は思っています。
①Fat Man and the Hard Blues
Label: Black Saint
Rec. Date: July 1991
Personnel: Julius Hemphill (as), Marty Ehrlich (ss, as, fl), Carl Grubbs (ss, as), James Carter (ts), Andrew White (ts), Sam Furnace (bs, fl)
1. Otis' Groove
2. Lenny
3. Floppy
4. Opening
5. Headlines
6. Four Saints
7. Fat Man
8. Glide
9. Tendrils
10. Anchorman
11. Untitled
12. Three-Step
13. The Answer
14. The Hard Blues
第一作にあたる本アルバムは、図らずもジュリアス本人がサックス奏者としてこのセクステットに参加した最後のアルバムになってしまいます。
メンバーを見ますと、初リーダーアルバム「JC on the Set(1993年録音、DIW)」で多くの日本のリスナーの~少なくとも私の~度肝を抜いたJames Carterですが、その2年前、おそらくプロのミュージシャンとしてキャリアをスタートさせた頃の初期James Carterの参加が目を引きます。
編成を大きくしたということだけではないでしょうが、W.S.Q.に比べてこのセクステットはアンサンブルというかハーモニーがグッと分厚くなります。そしてW.S.Q.と同じように充分に練られたスコア(本当に良く出来ています)ですが、このハーモニーがW.S.Q.に比べてずっと素直でストレートなので、「スカッとしない」というモヤモヤ感はなく、私にとってはストレスなく楽しく聴けるアンサンブルになっています。
譜面に書かれたアンサンブル主体の楽曲が約半分で、ソロの時間はあまり長くないものの、短いながらも各メンバーの個性的なソロが聴けるという点はW.S.Q.と全く同じですが、中でも5曲目のリーダーのアルトとMarty Ehrlichのソプラノの激しい絡み、6曲目の堂々とブロウするJames Carterのテナー、9曲目の2本のフルートの絡み合い、10曲目のAndrew Whiteのテナーなどはゾクゾクするような気持ち良さがあります。
このセクステットの最初にして最高のアルバムと言ってよいでしょう。
②Five Chord Stud
Label: Black Saint
Rec. Date: Nov. 1993
Personnel: Julius Hemphill (conductor), Tim Berne (as), James Carter (ts), Marty Ehrlich (ss, as), Andrew White (ts), Sam Furnace (ss, as), Fred Ho (bs)
1. Band Theme
2. Mr. Critical
3. Shorty
4. Mirrors
5. Five Chord Stud
6. The Moat and the Bridge
7. Georgia Blue
8. Flush
9. Spirituals Chairs
上記①の2年後に録音された第二作では、リーダーのジュリアスは体調のせいもあったのでしょうか、ここではコンダクターに徹して、その代役はジュリアスの一番弟子(?)で前回の特集記事で取り上げたTim Berneが務めています。他に前作からはCarl GrubbsがバリサクのFred Hoに交代と、メンバーのマイナーチェンジがあります。
充分に練られたスコアとメンバーの短いソロの交換という基本的なやり方は前作と同様ですが、前作に比べてインプロに比重が置かれ、その分、フリー方向に傾いたサウンドになっているという印象です。例えば2,4,8曲目では、メンバーがくんずほぐれつのコレクティブ・インプロを聴かせるといった具合です。
メンバーに焦点を当ててみますと、やはりTim BerneとJames Carterの共演ということになるでしょう。その後、全く別の道を歩んでいくこの二人の共演は、私の知る限り本作のみで、3曲目では最初のTim Berneらしい高密度のアルト・ソロに続いてJames Carterがテナーで登場するところなどは、今となっては貴重な記録でしょう。またタイトル・チューンの5曲目は、これもフリーにグッと近づく長尺曲で、一番手のMarty Ehrlich(アルト)に続いてAndrew White(テナー)、Sam Furnace(アルト)、James Carter(テナー)、Tim Berne(アルト)がそれぞれに「見得を切る」ような見せ場(聴かせ場?)を作るところは、本作最大の聴きどころです。前作では少し埋没(遠慮?)していたJames Carterですが、本作での彼の存在感は頭一つ抜けているという感じです・・・もちろん他のメンバー(特に7曲目のMartyのアルトは聴かせます)だって全く悪くないのですが。
第一作とは違った魅力を感じさせるサウンドで、フリー・ジャズの香りが色濃く漂う中で、このセクステットの力強さを見せつけたアルバムです。
③At Dr. King's Table
Label: New World Records
Rec. Date: April 1997
Personnel: Marty Ehrtich (as, ss, fl, alto-fl, cl, bcl, music director), Sam Furnace (as, ss), Andy Laster (as, fl), Gene Ghee (ts), Andrew White (ts), Alex Harding (bs)
1. Impulse
2. Holy Rockers
3. Void
4. Fixation
5. Jiji Tune
6. What I Know Now
7. Sojourner's Blues: "Ain't I a Woman?"
8. Another Feeling
9. Bumpkin
10. A Bitter Glory
11. Flair
12. Ink
13. Choo Choo
14. At Dr. King's Table / Ascension
15. The Children's Song
16. The Children's Song: First Vision
ジュリアスの死から2年後の1997年、前二作に参加していたMarty Ehrlichが中心となり、師の遺志を引き継ぐ形で録音されたアルバム。メンバーではGene Ghee、Andy Lester、Alex Hardingが初参加、比較的短い16曲が演奏されており、Andy Lesterアレンジの10曲目を除きジュリアスのペンによるものです。ライナーノーツによるとジュリアス自身が過去に録音したことのない楽曲を選んだようで、彼が生きていても第三作はこのような選曲になっていたのではないか、などと想像してしまいます。
ジュリアス存命中の二作の少々「粗削り」と言えなくもない部分が、このセクステットではやや薄められているという印象を受けます。とは言っても、一糸乱れぬアンサンブルを聴かせる洗練されたセクステットということではなく、前二作で聴かれたような「ポップ」というか「わかりやすい」と言うか言わば「伝統的」なハーモニーと、フリーにグッと傾く自発性や力強さが良い塩梅に共存するジュリアスの音楽づくりのマインドは聴き手にハッキリと伝わってきます。ここまでで二度も陳腐な表現を使ってしまいましたが、まさに故人の「遺志を引き継ぐ」ということなのでしょう。
このセクステットの方法論からすれば、ジュリアス本人、さらにはJames CarterやTim Berneら(スター・プレイヤー)の不在ということは全く気になりません。5曲目や12曲目の短いながらも味のあるAndrew Whiteのテナー・ソロは聴かせますし、たくさんの楽器を操る実質的リーダーのMarty Ehrlichは、どの楽器も実に深い音色で鳴らしており、マルチ・リード奏者としての確かな腕前を示してくれます。
④The Hard Blues Live in Lisbon
Label: Clean Feed
Rec. Date: Aug. 2003
Personnel: Maty Ehrlich (as, ss, musical direction), Aaron Stewart (ts), Andy Lester (as), Sam Furnace (as, ss), Alex Harding (bs), Andrew White (ts)
1. Otis' Groove
2. Opening
3. Touchic'
4. Three-Step
5. Rites
6. Revue
7. Jiji Tune
8. Fat Man
9. Band Theme
10. Georgia Blue
11. Mr. Critical
12. Spiirtuals Chairs
13. The Hard Blues
前作から6年後の2003年にポルトガル・リスボンで行われたライブ録音で、テナーのGene GheeがAaron Stewartに交代した他は前作と同じメンバーです。
上記①「Fat Man and the Hard Blues」のオープナーだった「ポップ」な"Otis' Groove"でステージがスタートしますが、おそらくメンバーが楽器を吹きながら舞台の袖からステージ中央へ移動しているのでしょう、その演出を捉えた録音(レベルが徐々に上がっていく)になっています。この冒頭曲をはじめ大半が上記①~③のアルバムの楽曲、その他もW.S.Q.のレパートリーなどが選ばれています。これまでのこのセクステットのベスト盤的なライブアルバムといったところではないでしょうか。
ここまでの三作と同じようなやり方でステージは進んでいき、短いながらも各メンバーが個性的なソロを披露するのも前三作と同様です。ライブならではの緊張感に包まれた、しかも情緒に流されない演奏(アンサンブル、ソロともに)で、このライブのために積み重ねたであろう綿密な準備の跡が窺えます。
何度も同じことを書いているような気がしますが、このメンバーでは3,7,9曲目で短いソロをとるAndrew Whiteのテナーと、特に10曲目でのMarty Ehrlichのアルトがやはり出色です。
ステージのエンディングは上記①のアルバムのフィナーレでアルバムタイトルにもなった"The Hard Blues"。ここではオープニングと逆の手順で、メンバーが楽器を吹きながらステージを退く様子(フェイド・アウト)が収められていて、1時間強の充実のステージを閉じます。
以上四枚のアルバムを聴くと、「もっとこのセクステットの演奏を聴きたいな」というよりも「もうこれで充分だな」という気持ちです。それくらい、事半ばで逝ってしまったジュリアスのやりたかったことが、彼の死後の二枚のアルバムを含めて、全て実現しているのではないか、私はそのように思っています。