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The Wallace Roney Quintet

Label: Warner Bros.
Rec. Date: Feb. 1995
Personnel: Wallace Roney (tp), Antoine Roney (ts), Carlos McKinney (p), Clarence Seay (b), Eric Allen (ds)
Roney Wallace_199502_Quintet Warner 
1. Spyra [Antoine Roney]
2. Astral Radium [McKinney]
3. G.D.D. [Seay]
4. Night and Day [Cole Porter]
5. Nightrance [McKinney]
6. Ultra-Axis [Antoine Roney]
7. Clowns [Anthony Wonsey]
8. High Strikes [Seay]
9. Geri [Wallace Roney]
10. Northern Lights [Wallace Roney]

 トランペッターWallace Roneyの1995年に録音された彼にとっては通算10枚目に当たるリーダーアルバムです。

 私の手元にあるWallaceの最も古い録音は1982年にリリースされた「Chico Freeman / Trandition in Transition(Elektra Musician)」で、次いでTony Williamsバンドへの初参加作「Tony Williams / Foreign Intrigue(1985年録音、Blue Note)」、「Kenny Barron / What If?(1986年録音、Enja)」など、このあたりが彼の最初期の録音だと思います。
 彼自身の初リーダーアルバムは「Verses(1987年録音、Muse)」、その後Museレーベルに6枚のリーダーアルバムを録音し、1993年リリースの「Misterios」(Gil Goldsteinアレンジのウィズ・ストリングス)からWarner Brothersに移籍し、今回取り上げる「The Wallace Roney Quintet」はWarnerからの第二作ということになります。

 Wallaceはあるインタビューで「マイルスのように吹くことが俺の幸せ」と語ったそうですが、確かに彼のラッパにマイルスを感じないリスナーはいないでしょう。そうなるとこれを受け入れられるかどうかということになりますが、「Powerhouse / In an Ambient Way」の記事で述べましたように、デビュー当時から本作あたりまでのWallace Roneyのラッパは私の非常に好みとするところです。この手の言わば「蓼食う虫も好きずき」の理由を言葉にするのは虚しいですが、敢えて言えば本家マイルスをこれだけ素直になぞりながら自身の表現力・個性としてモノにしていることに好感を覚えるといったところでしょうか。ただ「こんなマイルスそっくりのラッパは好きじゃねえぞ」という気持ちもよく理解できます。

 本作のメンバーですが、リーダーと弟のAntoineの2管フロントにピアノCarlos McKinney、ベースClarence Seay、ドラムEric Allenという地味と言うかあまり馴染みのないリズム陣によるクインテットです。

 スタンダードの4曲目"Night and Day"以外はリーダー又はメンバー(プラス、ピアニストのAnthony Wonsey)のオリジナルが演奏されています。
 初リーダーアルバム以降、或いは併行して彼が活動していた後期Tony Williamsクインテットでのプレイなどで好調を維持していたWallace Roneyのピークが捉えられているアルバムではないか、これが今回このアルバムを取り上げた最大にして唯一の理由です。
 と言うのも、本作の後に発表されたChick Corea、Michael Brecker、Rharoah Sandersなどの豪華ゲスト参加の「Village(1996年録音、Warner Bros.)」あたりはまずまずとしても、特に今世紀に入ってからのエレクトリックも取り入れたリーダーアルバムは、彼のラッパの輝きとかバンドの緊張感がガクッと落ちてきたとしか思えないからです。

 本作「The Wallace Roney Quintet」に話を戻します。
 まず録音についてですが、左右に広がる音場、シンバルを中心にドラムが前面に押し出された良好な(と私には思える)録音は私の好みとするところです・・・余談ですがこのアルバムを聴くたびに、上等なオーディオ装置が欲しくなります。
 演奏されるどの曲もまるでショーターがいた頃(1960年代半ば頃)の本家マイルス・クインテットのような「新主流派」のサウンドです。もちろん本家よりもスケール感はだいぶ小ぶりではありますが、これまでのMuseレーベルの諸作に比べてグッとモダンに、パワフルに、そして洗練されています。唯一のスタンダードの"Night and Day"だって、わりと素直に料理しているものの、それでもこのバンドならではの味付けが施された演奏です。
 フロントの二人はまるでマイルスとショーター、他人の目(耳?)を全く気にせずに、素直にマイルスのサウンドを表現しているという「潔さ」を感じます。ピリっとした緊張感に包まれたフロント二人のプレイはあっぱれで、もやは20年以上前の録音ではありますが、WallaceとAntoineのベスト・パフォーマンス(のひとつ)ではないかと今でも私は思っています。
 リズム陣は特に耳を引くというレベルではないかもしれませんが、まずまず(と言うかかなり)頑張っており、リーダーの目指すサウンドの実現に向けて忠実に奉仕しているという印象です。
 いずれもリーダーのオリジナルであるラス前9曲目はここまでとは少し雰囲気の違うバラード、ラストの10曲目はこのバンドにしてはひねりの少ないアップテンポのブルースで、本家マイルスに例えれば時代は少し遡って1950年代後半から60年代前半にかけてのサウンドの雰囲気が漂うといったところでしょうか、最後までマイルス・バンドを素直になぞり、それこそ「マイルスのように吹くことが俺の幸せ」を地で行く演奏を聴かせてくれます。

 愛想のないタイトルに地味なメンバーで、Wallace Roneyのファン以外には完全にスルーされているような気もしますが、彼のピークと言ってもよいパフォーマンスが見事な録音で捉えられており、ファンにとっては愛すべきアルバムです・・・くどいようですが「こんなマイルスそっくりのバンドは好きじゃねえぞ」という気持ちもよくわかります。

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半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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