松田優作が主演し、1979年から80年にかけて放送された
TVドラマ「探偵物語」と兄弟のような小説です。原作ではないのは、テレビドラマが企画された時に、海外ハードボイルド小説の翻訳を多くしていた小鷹信光さんが色々とアイデアを出した原案者というだけで、この小説が元になったわけではないから。結局、その企画会議的なものから、テレビドラマ版とこの小説版のふたつの探偵物語が生まれたわけですね。僕が読んだのは79年に徳間書店が発行した新書サイズの本でした。
テレビドラマ版の探偵物語がコメディとハードボイルドを折衷したものだったのに比べて、小説版は徹底してハードボイルドでした。読む前は、テレビドラマのようにいくつものエピソードが入ってるオムニバスかと思ってましたが、なんとひとつの事件で一冊という本格派、しかも文体が本当にチャンドラーやハメットみたいな硬質さ。「朝一番の電話に愛想よく応えられるほど、俺は商売熱心じゃない」みたいな感じで、これは栗〇薫や赤〇次郎の書いた雰囲気探偵ものとはレベルが違うと思いました。さすがハードボイルド小説の翻訳を手掛けてきた人は違いますね、実際に本物を日本語で表現してきた人なんだから…。
事件は女子高生の誘拐をきっかけに二転三転するもので、最初は狂言誘拐だったはずが…と来ると、テレビ版の第1話「聖女が街にやって来た」や12話「誘拐」を思い出します。1話はこの小説のアイデア出しから来た可能性が高そうですが、でも途中からぜんぜん違いました。親にレイプされるとか、その親が実の親ではなかったとか、とにかくハードなんですよ!本当の犯人が誰なのか、犯行に絡んだ人たちの動機が何だったのか、さんざん張り巡らせたこういう伏線が見事に解き明かされていく終盤は、「推理小説を書ける人って、どういう頭の構造してるんだろうな」と思ってしまいました。先に事件の概要を組み立てて、逆算して伏せていくのかな…あ、そうやれば書けるか。
テレビドラマ版のひな型になっただけあって、設定に共通するものがあったのは、テレビ版のファンとしては嬉しかったです。ナンシーとかおりも出てくるし、このふたりが探偵さんに色目を使ったり、探偵事務所に勝手に出入りするのも同じ。テレビ版では純レギュラーだった倍賞美津子演じる相木政子も登場、しかも小説版では工藤ちゃんと肉体関係にありました(^^;)。服部さんや松本刑事も出てきましたが、松本さんだけは名前が松木さんになってました。
そして探偵さん、かつてはサンフランシスコの特捜警察官で、この時に犯人に向かって銃を撃てなかった事が尾を引いて、日本で探偵をする事になったという設定でした。この設定、テレビ版では一度も語られませんでしたが、松田優作がそれを芝居の中で醸し出すシーンがいくつかあったんですよね。つまり企画段階から深く関わっていたという事かな…
というわけで、なかなか良く出来たハードボイルドな推理小説でした。僕は「得るものが少ないな」と思って、ある時期から小説というものを読まなくなっちゃったんですが、たまに読むと面白いですね。視覚情報のある映画じゃなく、文字だけでイメージを作る事も、文字ならではの表現を出来る所もいいなあ。
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