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豊島屋を後にして、いよいよ最後となる鎌倉の美 鈴へ。
そう、昨年末にご連絡を頂き、いよいよ3月いっぱいで営業を休止するという。
女将さんからそんな話を聞き、12月に鎌倉に飛んで行ったのですが、
この3月にもう一度別れを惜しんで訪ねることにしたのです。
美 鈴は基本的に予約をしておかないと買うことができないのですが、
タイミングが合えば、予約なしでも即座に買えることもあります。
ただやはり別れを惜しむ人が多く、月末はほとんど予約でパンパンだそうで、
お彼岸前に訪れたことが、逆に良かったようでもございます。
そして、月替わりの生菓子ですが、3月は『わらび餅』。
そう、夏のイメージが強いわらび餅ですが、
茶席の生菓子の世界では、3月にしか作られないのです。

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ただ美 鈴の『わらび餅』は、一般的なわらび餅とは異なります。
というのも、わらび粉やさまざまな澱粉類を使って、
ぷるんぷるんに仕上げた喉越しの良いわらび餅ではないのです。
原材料を見てもらうと気づくと思いますが、わらび粉が入っていないのです。
そう、わらび粉を使わないわらび餅なのですが、
スーパーなどで見かける透明なわらび粉が入っていないわらび餅でもないのです。
きな粉が塗されているので、食べてみるまでは分からないはず。
四角く切り出されているのですが、味わってみるともっちりとしているのです。
そう、白玉粉を使っておりまして、いわゆる求肥餅になりまして、
そこにこしあんを練り込んでいるのです。

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つまりは、分類的には、確かにわらび餅ではないのですが、
そもそも、上生菓子の世界で言われる『わらび餅』は、
蕨の芽が出る早春の頃に登場する生菓子でございますので、
それを逆手に取って、『わらび餅』というテーマに合わせて作られた、
『わらび餅』という銘の生菓子ということになりましょうね。
何だか言っていることがややこしいことに思えるかもしれませんが、
まあ、簡単に申しましたら、わらび餅が姿を見せる3月に、
わらび餅風の生菓子をあえて作って挑んで見せたということでしょう。
その意欲作にずっと向き合っていながら、あまり気にしていなかったのが切ない。

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そして、季節の生菓子には、桜をイメージしたお菓子たちと、
春の訪れを告げる華やかな色合いの生菓子が詰め合わせられている。
そのどれもが、美 鈴らしく、どこか幾何学的にも思えるデザイン。
そう、一般的に製菓学校であったり、和菓子屋さんの修業で身につくような、
そんな細工方法とは、一線を画すと申しますか、明らかにオリジナリティがあるのです。

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『紋黄蝶』も不思議なデザインをしていて、多くの場合が外郎生地で表現され、
練切であっても、ポツポツと窪みを入れることはよくあるのですが、
くるくると巻いている触覚を入れているスタイルはあまりなく、
そのフォルムがまた鮮烈な印象を残して、記憶に残っていく。

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でも、一方で定番の意匠もある『菜の花きんとん』は、
黄色と黄緑色のマーブルにして添えつけて仕上げられ、
まさに王道の菜の花をイメージして表現されるきんとんです。
ふと思い出しますのは、福井の河原沿いに桜が咲き乱れ、
その下には、黄色い菜の花が群生しているのを見つめた記憶が蘇る。

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そこには蝶が遊び、桜が散り始めても、春は盛りを過ぎてはいない。
さまざまな花たちが咲き始め、若い緑の葉が芽吹き始める。
捻った柔らかい餅生地の『よもぎ餅』もありまして、
三色のきんとんのそぼろを求肥餅に添えた生菓子も入り、
桜の花の型押しが施された生菓子も、不思議なデザインで、
これまた吸い込まれるような魅力を放つのです。

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練切も、きんとんも、一定したまろやかな甘みにほっこりして、
やがて、心も華やいでいくわけです・・・・でも、その春が盛りになれば、
美 鈴は一度暖簾を下ろして、長期休業に入ってしまう。
明るい春の陽射しを浴びながら、物寂しさを背負って鎌倉を歩いていた。
春なのに・・・・って歌い出したくなるくらいに・・・・。
でも、きっとまた、再開してくださることを願って、
最後に味わっておきたいと思っていたのでした。

わらび餅 6個入 税込1,600円

◆ 本 店/ 神奈川県鎌倉市小町3-3-13 TEL: 0467-25-0364
◇ 販売店/ 日本橋・新宿高島屋(第3土曜日)、池袋西武(毎週土曜日)
  ※ 2021年12月をもちまして、百貨店での販売は終了しました。