鉄鋼アルミ関税に即座に反応したＥＵも、相互関税には慎重な姿勢をとってきた。 報復措置は、より広範囲にならざるを得ず、関税策だけでは限界がある。 このようなケースに対応するための法的基盤が23年12月に発効した「経済的威圧対抗措置（ＡＣＩ）規則」であり、関税引き上げのほか、輸出入規制、公共調達入札制限、サービス貿易に関わる措置など幅広い手段の行使を認めている。 しかし、ＥＵが経済的威圧を認定し、対抗措置を講じることが、ＷＴＯルールや国際法に照らして適正かとの議論があった。 ＥＵにはＷＴＯルールを共に作り上げてきた米欧がＷＴＯルールの外で対立するような事態を避けたいという思いもあるのではないか。

ＥＵの報復措置がテック企業を標的にするとの観測が流れているが、根拠法は、記事終盤にある「デジタル市場法（ＤＭＡ）」ではなく、2023年12月発効の「経済的威圧対抗措置（ＡＣＩ）」ではないか。 ＡＣＩは中国を念頭に置いたと見られることも多いが、トランプ２．０を見据えて法制化されたとも言われてきた。 ＡＣＩでは相互依存関係を利用した経済的威圧の抑止と停止、威圧で被った損害賠償請求枠組みなどを定める。利用可能な対抗措置は関税措置、公共調達入札制限、サービス貿易、対内直接投資規制など幅広い。 ＡＣＩは「抑止」を主目的とするＥＵの最終兵器。 発動なら、交渉に応じそうにない米国との対立先鋭化が憂慮される。

相互関税率はアジア太平洋地域の国々に高めに設定されたと言うのが、今回の関税率一覧表を見た第一印象です。 アジア太平洋地域は、1980年代以降のグローバル化の波に乗って、対米輸出の供給が形成することで豊かになりました。 トランプ大統領の言動からは、米国を搾取するために作られたEUは分裂しても構わないとの意識を感じてきました。 トランプ大統領はアジア太平洋地域の供給網も、米国から生産と雇用を奪ったものであり、攻撃すべき対象とみなしている可能性があります。 日本は、米国への働きかけでも、激変する環境への対応策でも、地域レベルで連携することが重要なのではないでしょうか。

欧州と米国の価値共同体は、先月のミュンヘン安全保障会議でのバンス副大統領による「攻撃」で終わりを告げたと言われており、昨日の米軍の攻撃計画の漏洩で明らかになったやりとりも、欧州のトランプ2.0への不信を一段と強めるものでした。 対米での戦略的自立の機運が高まっているものの、防衛安全保障面では長期の課題にとどまらざるを得ません。 財は代替ができても、記事の最後のコメントにもあるとおり、欧州には米大手に替わるようなインターネット企業はない。クレジットカードも米系の国際ブランドによる寡占状態にあることも、欧州の金融サービスの競争力の弱さを示す事例として指摘されてきた問題です。

３月初～中旬の欧州出張で、トランプ2.0の米国とＥＵの価値の共同体が傷つき、安全保障面でも米国を信頼できるパートナーと位置付けることが困難になったとの空気を肌で感じました。 「トランプ2.0の欧州からの『撤退』はインド太平洋に注力するためで、日本がＥＵのように孤立する可能性は低い」というのがフランスの専門家の見立てですが、国防支出の増大を求められ、米政権の方針に翻弄されることに変わりはない。 「歴史を無視し、純粋に理論的に考えれば日本の有力なパートナーは韓国」というのがこの専門家の考察。FT紙も16日の社説でトランプ2.0の安保面での影響は日韓に大きく、ともに戦略を再考すべきと論じています。

電子版掲載のFTのコラムへのコメントでも言及しましたが、今月初～中旬の欧州出張で、大企業・スタートアップ企業の経営者からファンドの責任者まで幅広いステークホルダーが、ＥＵの競争力低下の主因として問題視していたのが過剰な規制です。 前の５年間の政策サイクルでの「グリーン・ディール」関連法制の成立で過剰規制は深刻化したとのこと。 規制の簡素化は、ＥＵの向こう５年間の競争力強化戦略の５つのツールの１つで、さらに進められる見通しです。 トランプ2.0との違いは、2050年の炭素中立や持続可能性重視の方針そのものを撤回するのではなく、規制とインセンティブとのバランス改善などアプローチを見直す点です。

トランプ2.0はなぜ、米国に対する負の影響が大きいことがわかっていながら近隣国のカナダ・メキシコや、価値と安全保障の共同体として深く結びついてきたＥＵを関税政策の主たる標的とするのだろうか。経済の先行指標となる株価への影響が、関税政策の行使を見合わせるという期待が萎みつつある現状を理解する上で助けとなるのが、上智大学の前嶋教授が指摘するトランプ政権の政策に対する福音派の影響の強さではないかと思い始めている（https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD057M90V00C25A3000000/）。 トランプ大統領やバンス副大統領のＥＵに対する攻撃も、「搾取」という経済的な利益に関わる問題だけでなく、リベラルなＥＵとの「文化戦争」という視点から捉える必要もありそうだ。

今月上～中旬の欧州出張で、EUの競争力強化策として、大企業、スタートアップ企業の経営者、ファンドの責任者など様々な主体が、過剰な規制の見直しとＥＵ圏内の規制や手続き等の乖離による単一市場内の分断の解消を求めていることを実感しました。 欧州委員会は2月26日、規制簡素化の第１弾として、今後適用が本格化する持続可能性関連のデューディリジェンスや開示の義務を大幅に簡素化する「オムニバス法案」を発表。今後、さらに他の分野の簡素化の提案も行う方針を明らかにしています。 簡素化を歓迎する声は強いものの、ルールが不透明な環境が持続すること、ＥＵのルールの信頼を損なうリスクを指摘する意見も聞かれました。

今週はFRB、日銀、BOEと主要中銀の政策決定会合が相次ぐ中銀ウィークでした。 一足早く会合を開催したＥＣＢも含め、トランプ政権の関税政策を巡る不確実性の高まり強調されました。 英国は、米国から見た貿易収支が黒字。トランプ2.0の米国との関係冷え込みが目立つＥＵと異なり、プラグマティックで、ビジネス・フレンドリー。国防支出の水準も高めで、トランプ政権の優先的な攻撃の対象とはなっていません。 英国は、ウクライナ支援で中核的な役割を果たし、欧州主要国で反ロシアの機運が最も高い国でもあります。

緑の党は、ショルツ首相率いる３党連立では規制強化とインセンティブ、投資拡大の組み合わせで、脱炭素化を加速するはずが、ロシアからのガス供給停止によるエネルギー危機と連立内（ＦＤＰ）、連立外（ＣＤＵ・ＣＳＵ）からの「債務ブレーキ」遵守方針に、その実現を阻まれました。 ＣＤＵ・ＣＳＵは、政策綱領に脱原発や内燃機関使用禁止の見直し、暖房法の撤回など緑の党が推進した政策の修正を掲げています。 ウクライナを支持する緑の党は安全保障が目下の優先課題であることは承知しているはず。反対の立場をとった狙いは環境政策推進の言質をとりつけることにあり、AfDや左派党と阻止で歩調を合わせるつもりはなかったと思います。

2月27日の米英首脳会談ではスターマー首相から国王の国賓招待の親書を受け取ったトランプ大統領は、招待に関わる文言を読んで欲しいと求め、応じた首相は２度目の訪問は前例がないと取り囲む記者団に語り掛け、トランプ大統領も満足した表情でした。 マスク氏から執拗な攻撃を受けたスターマー首相ですが、国防支出もGDP２％超、貿易収支は米国側の黒字、非関税障壁も低く、トランプ大統領からの攻撃は免れています。 それでもユーガブの英独仏伊西の５カ国の意識調査では、トランプ大統領を「欧州の安全保障の脅威」、「望ましくない」と回答した割合が８割と５カ国中最高。欧州統合軍創設への支持も初めて不支持を大きく上回りました。

この１週間、欧州で過ごし、「今日のウクライナが明日の東アジア」ならば、「今日のＥＵが明日の日本」となるおそれはないかを問い続けています。 昨日パリで意見交換したインド太平洋地域の専門家の意見は「米国の真の敵は中国。欧州への関与縮小は中国に集中するためだから、日本がＥＵと同じ状況に陥るとは思わない」が、大国主義で経済的利益を重視するトランプ政権が中国との間で「日本にとって好ましくないディールをする」可能性は排除できないというものでした。 第１期政権期、漂流しかけたＴＰＰを守った日本。米国との関係の管理と同時に、国際秩序の支え手として、より大きな役割を果たすことができるかも問われそうです。

今週前半はブリュッセル、後半はパリで当地の専門家の意見を伺っている。再軍備の議論が、トランプ2.0の米国が信頼できるパートナーではなくなったとの危機意識から加速していることを肌で感じています とはいえ、現在の欧州の防衛装備品の殆どに米国の技術が使われている。オペレーションにも米国が必要。米国の国際武器取引規制（ＩＴＡＲ）があり、欧州のウクライナへの軍事支援は米国の意向次第の面がある。 米国依存のリスク軽減のため、欧州の防衛産業基盤の強化が必要との認識も広がりつつある。 昨日面談した安保の専門家によれば、以前聞かれた貿易赤字削減手段としての米国産の防衛装備品購入の議論は、消滅したとのことだった。

現在、ブリュッセルにおり「ＥＵと欧州は攻撃を受けている」という当地を覆う空気感を肌で感じています。トランプ２．０の攻撃は大統領の議会演説でも続きました。 相互関税の標的としてＥＵより厳しい批判を浴びた韓国は、米国が問題視する「対米貿易黒字」、「為替変動による競争力向上」、「米製品の輸出アクセス制限」、「対米関税率差」「不公正な貿易慣行」という５つの基準に基づくサイモン・エベネット氏の評価で５つのすべてに適合する唯一の国。 日本は関税を除く４つに適合し、カナダ、中国、インドと並びます。 ＥＵはこの基準では３つですが、トランプ政権は付加価値税やデジタル規制を相互関税の根拠にしそうです。

今週初めからブリュッセルに滞在しています。 「ＥＵと欧州は前例のない攻撃を受けている」というのが当地の空気感。毎年参加しているシンポジウムでも緊迫感の高まりを肌で感じました。 連立協議中のドイツが、このタイミングで債務ブレーキ緩和を表明した背景には、６日に首脳会議を控えるＥＵが共同調達による1500億ユーロの融資の枠組み創設を含む再軍備計画を発表するなどむ欧州の防衛・安全保障体制強化の議論が加速していることがあります。 債務ブレーキ緩和には議会の３分の２の賛成が必要ですが、２月議会選で左右両極の議席が増えたため、新議会では可決が困難。改選前の議会での可決を目指す変則的な形を目指すようです。

競争力の向上につながる投資の不足を課題とする欧州。 域内に保険・年金の潤沢な資金がありながら、資本市場の厚みの差から、多くの資金が米国に向かうことが問題点とされてきた。 域内の資本市場の規制の調和を進める資本市場同盟、域内の貯蓄を投資に向けさせるため魅力ある投資商品作りなどを行う欧州貯蓄投資同盟などの戦略を進めようとしている。 ESGに背を向けるトランプ2.0の姿勢は、欧州の様々な取り組みの進展とともに、域内の貯蓄を域内の投資と言う流れを促進するのかもしれない。

独連邦議会選では、ＡｆＤが第２党となったが、第１党となったＣＤＵ/ＣＳＵはＡｆＤとの連立は否定しており、政権入りの見込みはない。 ２党による安定した連立が組めるかと言う点で、3つの小政党の得票率が議席獲得の基準の5%に達するかが焦点だったが、基準を超えたのは左派党だけであったようだ。 ＳＰＤとの大連立で過半数を確保できるかもしれない。 極右阻止の観点では、防火壁が働いたことになるが、東部の殆どの選挙く第1党がＡｆＤと言う結果を反映した着地点とは言えない。 大連立を支持するのはシニア層、若年層では左派党やAｆＤの支持が広がっている。 新たな連立は国内の分断を一層深めるのではないか。

短期の視点で国・業界・企業という区分で整理するなら、この記事の評価は概ね妥当だが、より大きな視点では、最も強い逆風を受けているのは「米国の民主主義システム」であり、「自由で開かれた国際秩序」、追い風を受けているのは「大国」、「自国第一主義の右派ポピュリスト」ではないだろうか。 記事にもあるとおり、中国は、唯一、追加関税を発動された国ではあるが、想定の範囲内であろう。大国主義のトランプ大統領は、習近平主席とのディールに動くかもしれない。中国は、国際秩序に背を向けるトランプ2.0で生じる空白を埋めることで、国際的な影響力を高める可能性もある。 日本への風向きもいつ変わるかわからない。

シュルツ首相の苛立ちは、連邦議会選挙まで1週間を切り、最大野党CDU/CSU大きな道を許しており、メルツ氏への首相交代が確実視されていることと無関係ではないでしょう。 先週のミュンヘンでの安全保障会議で、メルツ氏は首相のように振る舞っていたとドイツメディアは報じています。 メルツ氏は、シュルツ政権で後景に退いた状況を改め、欧州で中心的な役割を果たす意思を示しています。 国防支出も増額の方針ですが、財政均衡化ルールとの整合性も保つ方針です。