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ポストゲームショー(田口壮) 必ずやり返す…黒田が示す大リーガーの必要条件

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ヤンキース・黒田博樹投手(39)のメジャー7季目は黒星スタートとなりました。しかし、アストロズの先頭打者に本塁打を打たれながらも立ち直った「復元力」は見事で、彼がメジャーで活躍できるわけがわかるような気がしました。その姿はこれからメジャーで生きていく田中将大投手(25)にとって道しるべになるはずです。

先頭打者に被弾、投球プラン切り替え

ヤンキースの2014年シーズンはヒューストン・ミニッツメイドパークのビジターゲームで始まりました。初戦をエースのサバシア投手で落としたあとの第2戦。チーム初白星の期待を担った黒田投手はアストロズ先頭の左打者、ファウラー選手にカウント1-0からのツーシームを右中間に本塁打されました。私はNHKの解説者席で思わず、腰を浮かせてしまいました。どうなってしまうんだろう……。

ツーシームは左打者からすると逃げていくような変化をします。普通は外角に投じる球ですが、このときは目先を変えて、内角から入れてカウントを取る球にしようとしたのです。それが甘く入りました。

しかし、黒田投手はすっかり動揺した私と違って、落ち着いたものです。ここからの切り替えがさすがでした。左打者に対するツーシームが有効でないとみると、スプリットに切り替え、打ち取っていくのです。この判断は黒田投手自身が下したものです。

アストロズ打線を研究したうえでの投球プランが、マキャン捕手との間でできていたと思いますが、さっと変えました。こうした決断ができることが黒田投手を支えてきたのではないでしょうか。

「1年間楽しんで」に「楽しめないよ」

昨季までブレーブスに在籍したマキャン選手は打力も備えたメジャー屈指の捕手です。スモルツ投手ら、ブレーブスの黄金期を支えた投手の球を受けて、インサイドワークにも磨き抜かれたものがあります。

ただ、そんなマキャン捕手でもヤンキースの投手と組むのは初めてですから、未知の部分も多いはずです。黒田投手はもちろん、田中投手についてもまだまだつかめていないところがあるでしょう。

田中投手も黒田投手のように自分の考えを主張すべき場面が出てくるかもしれない、ということになります。

開幕前、黒田投手と話をしました。

「1年間楽しんでね」と言うと「楽しめないですよ」と黒田投手。でもその顔には笑みが浮かんでいます。

笑いながらの「楽しめないですよ」にはいろいろなものが詰め込まれていました。162試合のしんどいシーズンを目前に、また始まるなあという身の引き締まる思い、一方では6シーズン積み重ねてきたものへの自信、苦みも喜びも全部受け入れていくのだという覚悟、そうしたものの全てを宿す言葉でした。

黒田・田中・イチロー、三者三様の表情

酸いも甘いも知った経験者ならではの表情といえるでしょう。一方の田中投手はというと、こちらは「楽しみです」と、未知の世界に対する好奇心と武者震いで、初々しい顔です。

メジャー14年目のイチロー選手は「大変やね」と声をかけると「ノー・プロブレモ!」と答えてくれました。中南米系の住民が多いヒューストンにちなんでスペイン語で答えるあたりは余裕を感じました。ベンチスタートとなった今季ですが、チーム内の立場はわかっているし、自分のやるべきことも変わらない、という泰然自若とした姿です。ヤンキースの日本選手組、三者三様の表情にそれぞれ味わい深いものがありました。

さて、投球を切り替えて抑えた黒田投手でしたが、それで納得して終わったわけではありませんでした。

先頭打者本塁打で意気上がるアストロズの勢いを食い止めると、再び、左打者にもツーシームを使い出すのです。これはマキャン捕手の判断だったかもしれません。

打たれても打たれてもツーシームで

打たれたからといってツーシームを引っ込めたのではその試合は逃げて終わったことになります。長いシーズンの中でツーシームが絶対に必要な球であるなら、ちゃんと通用するものにしなくてはいけない。そういう判断がマキャン捕手にあり、黒田投手もその意図を理解したのだと思います。

三回再び打席に迎えたファウラー選手にツーシームを使います。打たれて三塁打。それでもまだ投げます。六回、3度目の打席でファウラー選手を二ゴロに打ち取りました。リスク覚悟でこれでもかと投げ続け、最後はツーシームを生き返らせたのです。

勝負ごとはやられたままで終わってはいけません。たとえ敗れても、その試合の中で、一発は殴り返しておくことが大切です。「あいつは必ずやり返してくる」と思わせることが重要なのです。

黒田、田中両投手、イチロー選手が所属するヤンキースというチームはメジャーのなかでも特別です。野球選手ならだれでも憧れ、一度はあのピンストライプのユニホームにそでを通したいと思うのです。

ヤンキースは対戦相手としても、特別な気持ちを抱かせる存在です。私の現役時代はヤンキースが資金力にモノをいわせて選手をかき集めていたこともあり、ピンストライプのユニホームを見ただけで「こんなチームには負けへんぞ」という気持ちがふつふつとわいてきたものです。私ですらそうですから、米国の選手はなおさらです。憧れの一方で、ヤンキースにだけは負けるものかと思っているのです。

田中も試合の中できっちりやり返す

全球団が目の色を変えてぶつかってくるヤンキースで、移籍以来2年連続で200イニング以上を投げてきた黒田投手には頭が下がります。そこには「やられたら、やり返す」の積み重ねがあったはずです。

田中投手のトロントでのメジャーデビュー戦。黒田投手と同じく、ブルージェイズの先頭打者に本塁打を喫し、二回までに3失点しましたが、田中投手も試合の中できっちりやり返しました。白星発進となったのは何よりですが、メジャーで戦っていくのに必要なものをさっそく示してくれたことが、この試合の一番のポイントだったのではないでしょうか。

(野球評論家)

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