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ケイタマルヤマ30周年 世界が認めた日本の「かわいい」

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オレンジに水色、ピンク、紫、その間からはストライプ柄も。一着のドレスにこんなにも多くの色を使っているのに、なぜかまとまっている。竜に蛇、ウサギ、そして招き猫と、声が聞こえてきそうなくらいのにぎやかな刺しゅうが、一枚のジャケットを彩る。ドリームズ・カム・トゥルーをはじめとするアーティストのコンサートや舞台衣装を手がけていることでも有名だ。

ファッションデザイナー、丸山敬太さんのブランド「ケイタマルヤマ」が30周年を迎えた。一貫して作り続けているのは「晴れの日のための服」だ。「『誰かのハッピーな瞬間に着てもらえる服を作りたい』とデビュー当時から言っているんですよね」と丸山さんは振り返る。

本人いわく「ガーリーな子どもだった」。姉の読んでいた「赤毛のアン」や「若草物語」では、登場人物の服の描写に引かれた。漫画を読むようになると「このドレスは何色だろう」と色を塗り、テレビではNHK紅白歌合戦の衣装を採点していたという。「エンターテインメントが好きで、特別なものだったり、装うことの喜びだったり、リアリズムよりファンタジーに心引かれる」

壮大でお祭りのようなショーで知られた故・高田賢三氏の存在も大きいという。10代前半のころ「賢三さんのファッションショーをテレビで見て、衝撃を受けた。こういうことをやれる人になりたいと思った」と振り返る。

文化服装学院の学生のときから、スタイリストの依頼でアイドルの衣装などを制作していた。卒業後、アパレル企業で働いていたが、学生時代からの衣装の仕事が増え、会社を辞める。3年ほどフリーランスで仕事をしているときに出会ったのがドリカムだ。彼らの人気とともに多忙になるなか「あるときふと、あれ、僕って、自分の名前のブランドを持って、パリでコレクションを発表して、最終的には世界中の空港で自分の名前の香水が売られるような、そんなデザイナーになりたいんじゃなかったっけ?」と思う瞬間が訪れた。「その考え方自体、もう旧石器時代のデザイナーのスタイルですよね。多分最後の世代だと思うんですけど」と丸山さん。そうして1994年、ケイタマルヤマを始める。

衣装などクライアントの要望に応えることから創作活動が始まったこともあり、デザインするときは「いつどこで誰がどんなときに、どんな気持ちになりたくて着る服なのか。自分の中で物語を先に作る」。どの服もドラマチックに感じるのはそのためかもしれない。

ケイタマルヤマならではの色の組み合わせやにぎやかな刺しゅうは、はからずも生まれた。創作を始めたころは求める色や柄が「市場にあるわけでもないし、(資金も乏しく)オリジナルの生地を作れるわけでもなかった。みんなと同じものを、どう自分らしく見せるか。そんなときに編み出した手法が、その生地に何を刺すか、はぎ合わせてどう違うものに見せるか」(丸山さん)。それがいつの間にか「こんな組み合わせする人ってなかなかいない」といわれるように。「色も素材もモチーフも、すごくレイヤードする。いろんなものをミックスして、力業で合わせていくスタイルがケイタマルヤマ」だという。

力業というが、仕事はとても緻密だ。ブランド設立から30周年を記念して9〜10月に都内で開催された展覧会では、刺しゅうや柄の発注の仕様書が展示されていた。そこに記されていたのは丁寧な指示。例えば、スパンコールの配置には「グラデーションで消えていくイメージ」、花の刺しゅうには「葉がぷっくり見えるように」と仕上がりが細かく指定されていた。

97年から2008年まで、パリでコレクションを発表していた。コムデギャルソンやヨウジヤマモトの後の世代が台頭し「日本人デザイナーの影響力が欧州で拡大している」。フィナンシャル・タイムズはこう04年に報じ、「東京のストリートから生まれるデザイン」の例にケイタマルヤマを挙げた。当時パリでコレクションを見ていたファッションジャーナリストの日置千弓さんは「繊細な手仕事や明るい気持ちにさせてくれる服。日本ならではの『かわいい』が認識され始めた」と指摘する。

花柄もあれば、虎やパンダの中国風も。海や街を描いたものも、和を感じられるものも――。当初は作ることができなかったオリジナルの生地は、30年で1000ほどになった。どれもカラフルで明るくて、見ているだけで楽しくなる。「今後は、このアーカイブの柄を、そのままでもいいし、色を変えてもいいし、様々な人に、いろんな表現の仕方で使ってもらいたい」という。

30年を振り返りながら、丸山さんは「最初はビジネスになるなんて思っていなかった」と話す。デビューのショーは盛り上がったが、その後のことは「何も考えていなかった」。そのため価格設定ひとつとっても「原価を考えず、とにかく見た目。『これいくらに見える?』『5万円くらい?』みたいに決めていた。本当にあほですよね」。多くの注文が入ったが生産準備もしておらず、お金も底をつき、「地獄だった」。

そんなとき助けになったのが、コレクションの際に作ったスタッフTシャツだったという。雑誌に紹介されて人気を集めると「毎朝、現金書留が届いた。それを開けて『ありがとうございます』って日々の支払いをしていた」そう。Tシャツは「背中に天使の羽のようなデザイン」。ケイタマルヤマのかわいいは、それから羽ばたき続けている。

井土聡子

岡田真撮影

[NIKKEI The STYLE 2024年11月3日付]

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