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逆境のSuica、QRや個人送金に対応へ 反攻10年のプラン

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交通系ICカード「Suica(スイカ)」への逆風が止まらない。

キャッシュレス決済全体における、Suicaなどの電子マネーの比率は2023年時点でわずか5.1%(除く交通利用)。18年比で2.4ポイント下がった。決済額も23年時点で約6兆4000億円で、18年から約9000億円しか増えていない。一方、QRコード決済は23年に10兆円を超えた。

追い打ちをかけるように、公共交通分野にクレジットカードのタッチ決済が攻め込んできた。象徴的なのは熊本の事例。バス・電車5社が24年11月までに、交通系電子マネーの取り扱いをやめた。代わりに、25年春をめどに順次クレカなどのタッチ決済を導入する。

24年は関東で東急電鉄、京王電鉄などが一斉に実証実験を開始。関西でも大阪メトロなど私鉄4社が横並びで導入を始めた。実は、他の先進国ではクレカのタッチ決済で公共交通に乗るのが一般的。25年4月に開幕する大阪・関西万博での訪日外国人増加を見据えた動きだ。

交通系電子マネーはタッチしてすぐ反応する決済操作の速さが強みだった。ところが、クレカのタッチ決済も高速化が進み、改札の混雑に耐えるレベルになってきた。

10年がかりの「大改革」

JR東日本はSuicaの牙城を脅かすクレカのタッチ決済を導入する予定はない。代わりに「Suicaの当たり前を超える」と銘打った抜本改革の構想を発表。10年がかりの改革に乗り出した。

まずは25年3月、訪日外国人向けの新サービスとして、Suicaのモバイルアプリを使った入国前のチャージを可能にする。日本の空港に着いて鉄道に乗る段階でクレカが使えないことに気づき、手をこまぬく訪日客は多い。万博開催を踏まえ、先手を打つ。

次の大きな転換点は26年秋。モバイルSuicaで、PayPayのようなQRコード決済をできるようにするのだ。QRコード決済では、従来のSuicaでは不可能だった2万円を超える決済も可能になる。個人間の送金機能も追加する。

今後10年以内には事前チャージ不要の後払い機能や、タッチなしで通過できる「ウオークスルー改札」なども実現させるという。もはや電子マネーであることには固執せず、広義の決済プラットフォームとしてSuicaを磨く考えだ。

現在、モバイルSuicaの累計登録数は3000万件超。PayPayの6700万人には及ばないが、物理カードからの移行も見込める。アプリと物理カードを合わせた累計発行枚数は1億枚を超える。

「データ取得」は譲れない

なぜSuicaにこだわるのか。

JR東は33年までに不動産や流通など非運輸事業の収益を23年度比で2倍にする目標を掲げる。この目標を果たすにはSuicaを軸に経済圏を築き、大量のデータを得る必要があるのだ。

例えばJR東が手掛ける東京都港区の再開発街区「高輪ゲートウェイシティ」。25年3月末に開業するこの街では、Suicaによる鉄道利用、購買データなどを組み合わせた新しいサービスの提供を目指す。改札の通過を感知して宅配業者が顧客宅にタイムリーに荷物を届けたり、近隣店舗に在庫がある商品の購入を勧めたりする。

JR東にとってSuicaのデータは宝。クレカのタッチ決済に切り替えた場合、JR東は何のデータも得られない恐れがある。単なる加盟店の立場になってしまうからだ。

インフラ事業者ゆえの事情もある。クレカ発行には与信が必要だから、鉄道利用者全員が持てるわけではない。「メインの決済ツールとして位置づけるのは難しい」と担当者は語る。また、全ての駅に導入するにはコストも膨大になる。

しかしSuicaを支えるのはあくまで交通利用での利便性だ。他社でクレカ乗車が一般的になれば、JR東が孤軍奮闘を貫いても自然とSuicaの利用頻度は落ちていく。

実際、14年までにクレカ乗車を導入した英国ではクレカがみるみるうちにシェアを伸ばし交通系電子マネーの「オイスターカード」を抜き去った。同カードの利用回数は現在、クレカタッチ決済の3分の1程度だ。

日本が同じ道をたどったとき、JR東の路線だけクレカ乗車できない状況は利用者の不満を招くだろう。経済圏構築という経営戦略にこだわって公益性を損なえば本末転倒だ。JR東は大きな岐路に立たされている。

(日経ビジネス 杉山翔吾)

[日経ビジネス電子版 2025年1月22日の記事を再構成]

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