サイバー、22年9月期の純利益4割減 「ウマ娘」失速で
サイバーエージェントが26日発表した2022年9月期の連結純利益は前の期比42%減の242億円となった。売上高は7%増の7105億円だった。インターネット広告事業が好調で増収となったが、スマートフォン向けゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」の失速が利益に響いた。インターネットTVは赤字脱却が課題で、広告依存のモデルから収益源を多様化し基盤固めを急ぐ。
営業利益は34%減の691億円。ウマ娘ヒットの効果が一巡し、反動でゲーム事業の利益が37%減の605億円となった。広告とゲームの事業でそれぞれ300人程度の人員が増え、人件費がかさんだことも影響した。
ウマ娘は競馬を題材にしたキャラクターの育成ゲームで、21年2月に提供を始めた。21年9月期はウマ娘が好調でゲーム事業の営業利益は、20年9月期比で約3倍の964億円へ急拡大していた。増収に貢献したネット広告事業の営業利益は8%増の244億円だった。
人気アニメを題材にした「呪術廻戦 ファントムパレード」など、新作ゲームの発売を控えている。だがウマ娘効果が剝落する影響は残り、23年9月期の純利益は150億~200億円と2期連続の減益を見込む。売上高は前期比1%増の7200億円の予想だ。
ウマ娘失速で市場の見方は厳しさを増した。時価総額は26日時点で6500億円程度と1兆円を超えていた21年6月のピーク時から半分程度に下落した。
ゲームに逆風が吹く中、立ち上げ以来7期連続で赤字が続くインターネットTV「ABEMA(アベマ)」が収益基盤強化のカギを握る。
アベマと周辺事業の22年9月期の営業損益は128億円の赤字だった。赤字額は前の期比で36億円少なくなり、ピークの206億円(19年9月期)から縮小傾向だ。
「アベマがゲームの減益をカバーするタイミングに注目している」(大和証券の石原太郎氏)という声は少なくない。26日の決算説明会でサイバーの藤田晋社長は「損益改善のフェーズに入ってきた」と話した。黒字化のメドについては示さなかった。
サイバーがアベマを始めたのは16年。無料で番組を配信し広告収入を得る収益モデルで、恋愛リアリティー番組やマージャン番組など地上波では見られないコンテンツで人気を博してきた。
アプリの累計ダウンロード数は8000万を超え、動画関連サービスとしては国内最大級だ。
だが、広告収入では番組制作や宣伝など多額の資金を賄いきれず、7期連続で赤字が続いている。スポーツ観戦の有料チケットなど広告頼みから脱却し収益源の多様化を急ぐ。
柱の一つが、20年から導入した番組ごとに視聴チケットを販売する「ペイ・パー・ビュー(PPV)」だ。6月、キックボクサーの那須川天心とK-1ファイターの武尊の試合「THE MATCH 2022」をPPVで配信。チケット発売数は50万枚を超え、1日の視聴者数はサービス開始以来最多となった。全て一般チケット(5500円)だと仮定するとおよそ27億円の売り上げとなる。
19年に開始した競輪・オートレースの車券販売サービス「WINTICKET(ウィンチケット)」も好調だ。レース中継と合わせてファンの囲い込みを進める。
22年9月期ではアベマ関連事業の売上高は702億円で前の期比で6割伸びた。広告収入の拡大に加え、ウィンチケットの取扱高が前の期比で約2倍になったことが大きい。アベマ関連事業の売上高に占めるPPVとウィンチケットを含む周辺事業の割合は6割程度とみられる。
アベマの週間利用者数は目標としてきた1000万を上回る1500万前後で推移している。市場ではアベマを含むメディア事業が24年9月期にも黒字化する可能性を指摘する声も出ている。
藤田社長はアベマについて、引き続きユーザーの拡大に向けた投資を続けると強調した。特に「スポーツ中継はさらに力を入れる」という。
11月に開幕するサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会の全試合を無料配信する。22年4~9月のスポーツ中継の数は前年同期と比べて1.2倍、20年4~9月比で3.5倍となった。
ドラマやバラエティーなどの独自番組は米ネットフリックスなど動画配信大手が力を注ぐ。一方、スポーツは固定ファンがいるため、放映権を獲得できれば一定の視聴者が見込める。
スポーツ番組の配信ではDAZN(ダゾーン)が先行し、アマゾンジャパンはボクシング、楽天グループは米プロバスケットボールNBAを手掛ける。動画配信をめぐる競争は激しさを増している。
ただ「放映権は今後も上昇の余地がある」(大和総研の遠藤昌秀氏)との指摘も出ている。投資負担増とのバランスをどうとるかが課題だ。
(大貫瞬治、淡海美帆)
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