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米国株、期待リターン米国債並み 低水準は調整の兆しか

広木隆のザ・相場道

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2024年の日本株のパフォーマンスは米国株に遜色がなかった――。こう言ったら意外に聞こえるかもしれない。しかし、実際に日米の代表的な株価指数である日経平均株価と米ダウ工業株30種平均とを比べると、確かにパフォーマンスに差はない。差がないどころか、12月20日までの年初来リターンは、日経平均が15%上昇、ダウ平均が14%上昇で、わずかながら日経平均のほうが上回っている。

だが、米国の他の指数と比べると話は変わってくる。米S&P500種株価指数は年初来25%ほどの上昇率、米ナスダック総合株価指数は同30%の上昇率だ。つまり、時価総額が大きいハイテク株が占める割合の大きな指数ほど、顕著に上がったというわけだ。ビッグテック株、いわゆる「マグニフィセント7」だけがけん引する相場上昇のいびつさは、これまで度々指摘されてきた通りである。

話を日経平均とダウ平均のパフォーマンスに戻すと、年間の上昇率はほぼ同じでも、その内容には違いがある。ダウ平均の上昇はそのほとんどがバリュエーション(投資尺度)の上昇である。14%の年間上昇率を分解すると、PER(株価収益率)の上昇が12%で、1株当たり利益(EPS)は年間を通じて2%しか上昇していない。

それに対して日経平均は、年15%の上昇分のうちPERの上昇は6%であり、EPSは9%も上昇している。こう見てくると、24年の日本株は健全で良好なパフォーマンスを達成したと言えるだろう。

問題は、バリュエーション拡大に依存した米国株のパフォーマンスの継続性である。米国株のPERは歴史的に高水準になっており、これ以上の拡大は想定しにくい。特に金利と比較してみたバリュエーションは、株式への投資を理論面から正当化できない水準に達している。

S&P500の株式益利回り(PERの逆数)と米国10年国債利回りの差をとったイールドスプレッドを見ると、近年は一本調子に低下の一途をたどり、足元ではついにゼロ近傍にまで達している。

S&P500のPERは22倍、その逆数である株式益利回りは4.5%である。PERとは「株価÷EPS」だから、益利回りは「EPS÷株価」である。つまり、その株価で株を買った企業がいくら利益を稼いでくれるか、投資額に対する利益率を表す指標だ。時価総額の簿価にあたる株主資本に対する利益率を表す指標が自己資本利益率(ROE)だから、益利回りは「時価ベースのROE」だということもできる。いずれにせよ、株式のリターンの源泉が企業が稼ぐ利益であるとすれば、益利回りは株式の「期待リターンの代理指標」とみなすことができる。

一方、米国債の利回りは代表的な安全資産の利回り(リスク・フリー・レート)である。長期金利の指標となる10年物国債利回りは24年4月に4.7%超まで上昇した。9月以降、米連邦準備理事会(FRB)が計1%の利下げに踏み切ったにもかかわらず、この間、長期金利は1%近く上昇した。

イールドスプレッドがゼロ近傍ということは、すなわちリスクのある株式の期待リターンと、安全資産である国債の利回りが同じなのである。株式か国債かというアセットアロケーションの問題では、どう考えても無リスクの国債への投資が理にかなっている。

しかし、相場は理屈どおりにならないことがよくある。実際に、1990年代の米国株は、イールドスプレッドがゼロからマイナス圏で推移したにもかかわらず、ずっと上昇基調が続いたのだ。

ただ、当時の状況は今と異なったものであったことには注意が必要だ。90年代前半(95年まで)はPERの平均は約16倍で、長期金利は7%近くあった。株価は特に割高というわけではなく、むしろ債券のほうが割安であった――。つまり、債券のミスプライスが原因でイールドスプレッドが異常値となったと解釈することもできる。その債券のミスプライスは徐々に解消されていき、基本的には金利低下が続いた。それを受けて株のPERは上昇し、90年代の株価上昇の原動力となったのだ。

だが、ここで注意したいのは、そんな90年代でも94年はFRBが利上げに動き、長期金利が上昇したことだ。その年のS&P500のリターンはマイナスとなっている。

90年代の終わりごろには今と似たような状況になる。長期金利が4%台に低下した一方、株のPERは20倍台を大きく上回り、イールドスプレッドはマイナス幅が拡大した。その結果、迎えたのがITバブル崩壊による相場の急落と低迷である。

ここから得られる教訓をまとめると以下の通りだ。

(1)リスクのある株の期待リターンが国債利回りより低いのは異常である。

(2)しかし、金利低下局面などでは、その異常な状態が継続することがある。

(3)それでも、やはり利上げや長期金利上昇時には株価の調整圧力は避けられない。

(4)異常な状態が続けば、結局は大きなバブル崩壊で清算に至る恐れがある。

FRBの利下げを頼りに史上最高値を更新してきた米国株だが、24年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げペース鈍化が示された。25年中の利上げ転換はないとしても、今後のインフレ動向次第では、政策転換の兆しを市場が感じ取ることも十分考えられる。それで長期金利が一段と上昇するようであれば、理論面からも過去の経緯からも株価の調整は避けられないだろう。

繰り返すが、現時点でもイールドスプレッドがゼロというのは異常値である。スプレッドが急低下する前は3〜4%の水準であった。仮に3%のイールドスプレッドに戻るには、4.5%の長期金利を前提にするとPERは13.3倍となり、S&P500は3600と、今から40%下がった水準である。

さすがにそれはあり得ないだろうが、その半分くらいの調整、すなわち20%程度の調整は起こっても不思議ではないということだ。

この12月にダウ平均は50年ぶりとなる10日続落を記録した。10日目の下落は、1日の下げ幅としては今年最大で、22年9月以来2年3カ月ぶりの大きさだった。これは市場からの警告のように思えてならない。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券チーフ・ストラテジスト、帝京平成大学経営学科教授。国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。
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