中東情勢とハリケーンが共振、11月の米利下げ見送りも
本欄10月2日付で「中東情勢と米港湾ストが共振、11月利下げ見送りも」と書いたが、10日発表の9月の米消費者物価指数(CPI)上振れにより、にわかに、無視できないシナリオとして浮上するに至った。ただし、港湾ストが妥結に動き、代わって、巨大ハリケーンがもたらす供給サイドのサプライチェーン破断などの影響が新たなインフレ要因として成り行きが注目されている。
地政学的要因や異常気象は、米連邦準備理事会(FRB)の管轄外だが、仮に、インフレ再燃リスク顕在化ともなれば、結果的にFRBも連座責任を問われかねない。
既に、ボスティック・アトランタ連銀総裁とデイリー・サンフランシスコ連銀総裁が、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は政策金利が据え置きとなる可能性を具体的に述べた。ウォール街でも、JPモルガン・チェースが、11月0.25%利下げ説を維持しつつ、直近の経済指標により11月据え置き説の可能性もFOMCで議論されようとの見解を明らかにして、話題になっている。
筆者が本欄で書いた10月2日時点の「Fedウオッチ」では、据え置きの可能性がゼロであったが、10日には13%となっている。Fedウオッチは瞬間風速を示す数字ゆえ、振れが速いので、今後0%に戻るか、30〜40%へとジワリ増えてゆくのか、注目されよう。
なお、インフレ率が低下傾向のなかで、名目政策金利を据え置けば、実質政策金利は上昇して、結果的に景気抑制効果が強くなるという「受動的引き締め=passive tightening」のリスクも無視できない。
更に重要な論点は、今回のFRB利下げシリーズの到着点(ターミナルレート)が、どの水準に落ち着くか。ボスティック氏は、中立金利を3.0〜3.5%と述べた。
しかし、FOMC参加者の間で、見解は大きく割れる。パウエル議長の得意技とされる丁寧な根回しが、FOMC内の亀裂を修復できるのか。
既に、9月のFOMCでは、19年ぶりに、FRB理事(ボウマン氏)が、0.5%利下げに反対票を投じた。小さな亀裂が破堤・決壊を招くリスクを、パウエル氏も、痛いほど感じているはずだ。その破堤リスクは、既に、金利差縮小による円高説の決壊を招いた。米国市場発の異常な潮流変化は、日本の金融司令塔がある本石町一帯にも迫っている。
11月FOMC開催日まで、まだ多くの米国経済重要指標が待ち受ける。ニューヨーク(NY)市場では、市場参加者の多くが、読み切れず、「FEDには逆らうな」との合言葉のもとに、データ次第で柔軟に反応する姿勢が目立つ。
そもそも金融政策には、効果発現まで、長く、多様化したタイム・ラグ(long and variable lag)がある。これまでの利上げの効果がラグにより、今も景気抑制的に効いている可能性。対して、利下げ第1弾0.5%の効果は、今後、ジワリ効いてゆく。
結局、2%という目標値に正確に軟着陸することなど無理筋だ。2%を割り込む水準に着陸するアンダーシュートシナリオも語られる。かと思えば、インフレ再燃、景気後退のスタグフレーションリスクも単に極論として一蹴することが出来ない経済環境である。
極めつきは、なんといっても、米大統領選挙が醸し出す不透明感。
「こんな市場環境で、まともなポジションなど、とれない」と割り切るトレーダーも増えてきた。市場参加者が減れば、ボラティリティー(価格変動性)は激しくなる。そもそも、金融政策の引き締めから緩和への転換と、大統領選挙が同時進行する異例の展開だ。一つの経済指標の振れに一喜一憂すれば、投機筋の思うつぼとなることを一般投資家は改めて心に銘すべきであろう。

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