日銀利上げ先送りの公算、総裁選を注視 19日決定会合
日銀は19〜20日に金融政策決定会合を開く。米国経済の下振れリスクや8月に乱高下した株式市場の動向を念頭に、経済・物価が見通しに沿って推移しているかを点検する。7月末の前回会合で利上げを決めたばかりで、市場では今回は金利を据え置くとの見方が支配的だ。
「9月会合での利上げは考えられない」。複数の政府関係者は以前からこう強調してきた。このタイミングで金融政策を修正すれば、自民党総裁選に影響を与えかねない。こうした決断を日銀がするはずがないし、政府としても容認できないとの考えからだ。
QUICKが8月末に実施した債券市場関係者への調査でも、利上げ時期を「2024年9月」と予想した割合は全体の1%とごくわずかだった。最多は「24年12月」の48%、「25年1月」が32%と続く。
もっとも、誰が総裁選で勝利するかは今後の金融政策に影響を及ぼしうるため日銀も注視している。今のところ金融政策は総裁選の争点とはなっていないものの、出馬表明後、候補者による言及は相次いでいる。
積極財政派の高市早苗経済安全保障相は9月13日の自身のユーチューブ番組で、「政府・日銀が目標を立てて、まだ財政出動の手を緩めてはいけない。金利も上げてはいけない。投資がしにくくなる。消費マインドを下げてはいけない」と論じた。
小林鷹之前経済安保相は8月19日の出馬会見で、日銀による7月の利上げ決定後に株式市場が大きく変動したことをふまえ、「利上げの判断は日銀とマーケット関係者の間で丁寧な対話をしっかり心がけていただきたいというのが私の思いだ」と発言した。
林芳正官房長官は日本外国特派員協会で開いた9月9日の記者会見で「金融政策は日銀が検討し判断すべきで、外部が政策について詳しく言及することは控えるべきだ」と主張した。
小泉進次郎元環境相は11日のBS11番組収録で「日銀の独立性を尊重する。安倍晋三、菅義偉、岸田文雄各政権は政府と日銀の対話やコミュニケーションを重視してきた。そこは同じだ」と語った。
河野太郎デジタル相は12日の演説会で「これから金利が徐々に上がっていく。財政収支をいかに見通していくのかという議論がなければ利払いで首が回らなくなる。財政も健全化していく必要がある」と唱えた。
ロイター通信によると、石破茂元幹事長は6日のインタビューで、追加利上げについて「いま利上げができる環境が十分に整っているかどうか、日銀の判断であることは百も万も承知の上で言えば、それが十分かどうかは議論のあるところだ」と話した。
茂木敏充幹事長は4日の出馬会見で「半年以内に、30年にわたるデフレからの脱却宣言ができる状況にしたい」と表明した。
日銀は政府とデフレ脱却に向けた共同声明を13年に決定した。日銀は2%の物価安定目標に向けて金融緩和を進める方針を掲げ、政府は機動的なマクロ経済政策運営に努めるとともに、持続可能な財政構造を確立するために取り組むと盛り込んだ。デフレ脱却宣言となれば、共同声明のあり方について議論になる可能性がある。
1998年に施行した現在の日銀法は「金融の調節における自主性は尊重されなければならない」と規定し、政策の独立性は法的に確保されている。一方、総裁、副総裁などの人事をめぐっては、政府が人事案を提示し、国会の同意を得ることが必要で、政治の影響を受ける。
11月の米大統領選の動向も為替などを通じて日本の物価に影響をおよぼす可能性がある。ハリス副大統領が優位との見方が強まるとドル安・円高のシナリオが市場で意識されている。米連邦準備理事会(FRB)がどのような利下げの道筋を描いているかも為替に影響する。
日銀は経済・物価が見通しに沿って推移していれば利上げできるとの姿勢を鮮明にしている。9月の決定会合でも実現の確度が高まっているかを点検する。株式市場が乱高下し、なお変動が大きい点も考慮して判断する。
海外経済の動向も留意する。11日に秋田市で講演した中川順子審議委員は下振れリスクに触れた。「米欧のこれまでの利上げの影響が、時間をかけて実体経済や金融面にどのように及ぶかには不確実性がある」と述べた。
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