企業契約書の審査、AI活用を容認 法務省が指針公表
不備・リスクを確認
法務省は1日、企業間で交わす契約書を人工知能(AI)で審査するサービスの指針を公表した。法的に争いのない取引契約などを「適法」とした。法律に抵触しない目安を示すのは初めて。法的に曖昧な部分を整理し、企業法務の現場でAIサービスを活用しやすくした。
AI審査は法律に関係する業務をIT(情報技術)で効率化するリーガルテックのひとつで、複数のスタートアップがサービスを提供している。企業の法務担当者などが締結前の契約書をチェックして不利な内容や紛争のリスクを摘み取る作業に利用する。
企業間で日常的に結ばれる定型的な契約書はAIによるチェックになじみやすい。人間だけで作業する場合に比べて審査や修正にかかる時間を3割程度減らせたというデータもある。
斎藤健法相は1日の記者会見で「企業の法務機能の向上を通じ、国際競争力の強化に資する」と話した。
弁護士法は弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱う行為を禁じている。指針はAI審査を手掛ける事業者のサービスが同法に照らして適法だと見なせる目安を示した。
取引内容に法的な争いがない企業間の一般的な取引契約の場合は適法となる。例として親子会社間の取引や、企業間の継続的な取引を挙げた。
AIが契約内容について言語的に不適切な箇所を指摘したり、一般的な解説を表示したりするのは適法だ。企業内弁護士が使う場合や、無料のAI審査サービスを利用するのも問題とならない。
他方、契約内容の法的リスクを判断して提案する場合は「弁護士法に抵触し得る」と指摘した。弁護士ではない事業者が係争案件についてこのような提案をし報酬を受け取れば弁護士法違反となる。
法務省は2022年6月に、AI審査のサービスが「違法の可能性がある」との見解を示した。利用企業の間で不安が広がり、指針の作成を求める声が強まった。
政府内ではAIの活用を巡る指針の策定や見直し作業が進む。政府の「AI戦略会議」は総務省や経済産業省が作成した開発事業者や提供事業者向けのガイドラインを年内に統合する計画だ。
法的に不透明な部分が解消できれば、新たなビジネスの普及を後押しできる。AI戦略会議で座長を務める松尾豊東大教授は「適法の範囲が定まることで競争が生まれ、サービスの質も高まる」と話す。