防衛費、GDP比1%超えの6兆円台視野 概算要求5.6兆円
長射程弾の配備3年前倒し 27年度に新型イージス艦就役
防衛省は31日、2023年度予算の概算要求を決定した。過去最大の5兆5947億円を計上したうえで金額を示さない「事項要求」の防衛力強化策を100項目規模で盛り込んだ。年末に決まる最終的な予算は国内総生産(GDP)比1%を超える6兆円台半ばが視野に入る。
22年度当初予算の防衛費は5兆4005億円でGDP比1%弱にあたる。日本の歴代内閣はおおむね1%以内に収めてきた。自民党は5年以内にGDP比2%以上を念頭においた増額を訴えており、達成には毎年1兆円規模で増やす計算になる。
23年度予算はその1年目になる。政府・与党は抑止力強化と有事への備えに重点を置き、年末に向けて増額幅や財源を詰める。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有を検討する国家安全保障戦略などの改定作業と並行して調整する。
防衛省によると事項要求は少なくとも90以上に上る。重要項目の一つは相手の射程圏外の遠距離から攻撃する「スタンド・オフ・ミサイル」の装備だ。
射程を1000キロメートル超にのばす国産巡航ミサイル「12式地対艦誘導弾(SSM)」能力向上型や島しょ防衛用の高速滑空弾について、当初計画より3年前倒しの26年度に運用を始めるため量産に入る。12SSM能力向上型は272億円、高速滑空弾は166億円の研究開発費に加え、量産経費を事項要求に盛り込んだ。
12SSM能力向上型は計算上、北朝鮮や中国沿岸部に届く。反撃能力を持つと判断した場合、その実行手段となりえる。音速の5倍以上で飛ぶ極超音速誘導弾の研究費も計上した。
ミサイル迎撃能力も高める。配備を断念した地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策として新造する「イージス・システム搭載艦」の設計やエンジンなどの購入を事項要求に盛った。
同艦は通常より高い高度で撃つロフテッド軌道の迎撃にも有用とされるレーダー「SPY7」や迎撃ミサイル「SM6」を採用する。中国やロシアが開発する極超音速滑空兵器へ対処する機能を後から載せられるよう自衛隊の艦艇で最大規模にする。
全長210メートル以下、全幅40メートル以下、基準排水量2万トンほどを想定する。27年度末に1隻目、28年度末に2隻目の就役を目指す。
防衛省は今回の概算要求で柱のひとつに「持続性・強靱(きょうじん)性」を据えた。戦闘継続力を上げるために弾薬や装備部品の備蓄を増やし、補給や生産の体制も強化する。「装備品の維持整備」は22年度当初予算比360億円増の1兆1288億円を計上したうえで、事項要求で上積みを求めた。
中国が軍事的圧力を強める台湾で有事懸念が高まる。ロシアによるウクライナ侵攻は半年以上続く。中長期の戦闘に対処できる体制を整える。
島しょ部などへ機動的に部隊展開できるよう輸送機C2や多用途ヘリコプターUH2などを追加取得する予算も含めた。
攻撃に使える無人機の活用も積極的に進める。例えば日本の領土に着上陸した相手の装甲車両に自爆攻撃する無人機などを整備する。防衛駐在官は次期戦闘機開発で協力する英国、ロシアによる侵攻を受けるウクライナに各1人を増員する。
税制改正要望には通信システムにサイバーセキュリティー対策をした防衛関連企業の法人税負担を軽くする税制優遇措置を入れた。技術の海外流出を防ぐため円滑な事業承継を支援する基金の創設も見込む。
浜田靖一防衛相は31日、防衛省の省議で「防衛力を5年以内に抜本的強化するため5年間の総額をどの程度確保できるかが極めて重要だ」と話した。「23年度予算はその初年度にふさわしい予算規模を確保する必要がある」と言明した。
防衛省・自衛隊の幹部に「国を守るにはぜひともこれが必要だと勇気と自信をもって主張し、国民への分かりやすく丁寧な説明をお願いしたい」と呼びかけた。
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