防衛強化、体制・意識変革追いつかず 自衛隊で異例処分
防衛省・自衛隊は12日、異例の大規模処分を決定した。特定秘密のずさんな管理に加え、手当の不正受給やハラスメントのような逸脱も目立つ。安全保障環境の急速な変化をにらみ、防衛力強化が進む一方で、それを支える現場の体制や意識改革が後手に回っている。
木原稔防衛相は12日の記者会見で「国民の信頼を損ない深くおわびする。徹底した情報保全体制など立て直すことが私の責任だ」と述べた。閣僚給与1カ月分を自主返納する。自身の辞任は否定した。
増田和夫防衛次官や陸上・航空両自衛隊の幕僚長ら最高幹部5人を訓戒処分とした。減給処分の酒井良海上幕僚長は19日付で引責辞任する。
処分218人(延べ220人)のうち、もっとも該当者が多かったのが特定秘密の不正運用だった。懲戒処分26人を含む113人が対象になった。
海上自衛隊の艦船では必要な資格がない隊員に特定秘密に触れる役割を任命するなどしていた。レーダーやソナーなどによって得た情報を集約する戦闘指揮所に無資格の隊員が出入りし、モニター画面に映る艦船の位置情報などを見ていた。
海自が担う作戦は周囲を海に囲まれる日本の防衛の要となる。中国の軍事動向を注視して南西諸島に自衛隊の配置を増やすのも、海の守りを意識している。沖縄県・尖閣諸島周辺では連日のように中国の公船が侵入している。
そうした状況で最も慎重に扱うべき特定秘密のずさんな管理が続いていては、その穴を突かれる形で日本や同盟国・同志国に不利な状況を招きかねない。
防衛省は特定秘密に触れる可能性があるおよそ2000人に追加で特定秘密を扱う資格を取得させるといった再発防止策を掲げた。
潜る深さなどに応じて1時間あたり数百円から最大1万円あまりを支給する潜水手当の不正受給で処分されたのは、潜水艦救難艦の乗組員たちだ。訓練時間の水増しなどによって74人が計4300万円を不正に得ていた。
防衛省の内部部局では幹部職員3人がパワーハラスメントで懲戒処分を受けた。部下に日常的に威圧的な言動をとったり、休日や深夜に度を越える連絡をしたりした。自衛隊施設で無料給食の権利がない隊員が食べていたとして22人が懲戒処分された。
中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル能力の向上など、日本周辺の安全保障環境は厳しさを増す。防衛省予算は2023〜27年度の5年間で43兆円を確保している。従来の1.6倍の大幅増額で、防衛費は国内総生産(GDP)比2%を超えて増やしていく。
「防衛費を増やしても、それに見合った働きができるのか」といった懐疑的な声は政府内にもある。財源の一部が増税でまかなわれる計画もあり、国民からのチェックも厳しくなる。
防衛省の前身の防衛庁は、当時の総理府(現・内閣府)の外局の扱いで、かつては「三流官庁」ともやゆされた。日米同盟の重要性の高まりなど外的要因に合わせ、重要官庁の一つに数えられるようになった。
自分たちの見られ方が変わっていることに気づかず、古い慣習を続けてきた可能性がある。
防衛省・自衛隊の不祥事は過去にも繰り返され、そのたびに再発防止が叫ばれてきた。
06年に発覚した旧防衛施設庁の発注工事を巡る官製談合事件を受けて、翌年に防衛相直轄の防衛監察本部を設置した。元検事らが独立した立場で調査する仕組みを設けた。それでも防衛専門商社側による接待事件が起きるなど根絶できていない。
内向きな論理も傷を深くする。16年に発覚した南スーダンの日報問題では海外派遣部隊が作成した日報をすでに破棄したと説明したのに、後に電子データが見つかった。元自衛官の実名告白を機に実態調査したハラスメント問題の例もある。
徹底的な組織改革を図らなければ、防衛省・自衛隊への信頼回復は見通せない。