マイナンバーカード、本人確認を緩和へ 高齢者ら交付時
利便と安全の両立探る
政府は2024年秋にマイナンバーカード取得が実質的に必須となるのに合わせ、利便性向上の検討を始めた。申請や交付時の本人確認を緩和し、寝たきりの高齢者らが市役所などに出向かなくて済むようにする方向だ。使い勝手の改善とともに情報流出の不安払拭や安全性との両立を探る。
政府は24年秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナカードと一体となった保険証に一本化する。国民皆保険制度の日本ではほとんどの国民にとって取得が不可欠になる。
24年度末までに運転免許証の情報をマイナカードに記録させる運用も始まる。持っていないと生活に困る場面が増えてくるため取得しにくい事情がある人への対応策を練る。
岸田文雄首相が関係省庁で議論するよう指示したのを受け、河野太郎デジタル相、松本剛明総務相、加藤勝信厚生労働相らが6日に検討会の初会合を開いた。
課題の一つは病気などで外出が難しい高齢者への対応だ。マイナカードの申請や交付は利用者が市区町村の役所を訪れ、職員による本人確認が必要になるのが原則だ。こうした手続きは不正取得を防ぐために法律や政令で厳格に規定している。
高齢者施設の施設長や自宅で世話するケアマネジャーらが本人確認を代行する案が政府内にある。自治体職員が申請者の家などに出向く方法も候補となる。
円滑に保険診療を受けたり、国民へのマイナカード取得を定着させたりする上で新生児への交付も検討会のテーマになる。
成長するにつれ顔立ちが変わる乳幼児についてはマイナカードへの顔写真掲載を不要にする法改正を検討する。何歳までを対象とするかなど具体的な制度を詰める。
子どもが成長するまで取得を急がない親がいるのを踏まえ、出生届の提出と同時にマイナカード申請手続きを完了させる案も出ている。親にとって望ましい受け渡し方法を議論する。
転職などで加入する健康保険組合が変わった際に資格情報の変更をシステムに迅速に反映する仕組みも検討対象になる。勤務開始後すぐにマイナカードで保険資格を確認できるようにする。
健康保険の資格者がマイナカードを紛失した際の対応も話し合う。首相はカードがない場合も「保険診療を受けられるのは当然だ」と明言している。他の手段で資格の有無を確認できるように探る。
現在1~2カ月を要する再発行の期間に関しては10日程度に縮める方針だ。マイナカード発行を担う総務省所管のシステム改修が必要になる。自治体での交付手続きにかかる期間を短縮するための環境も整える。
11月27日時点でマイナカードの交付率は53.5%だった。23年3月末までに「ほぼ全国民」へ行き渡らせる政府目標の達成には遠い。
デジタル庁が22年1~2月に実施したアンケート調査でマイナカードを未取得の理由を複数回答で聞いたところ、最多の回答は「情報流出が怖いから」の35%だった。「申請方法が面倒だから」と「マイナカードにメリットを感じないから」がともに31%で続いた。
本人確認など厳格な手続きは「なりすまし」による別人のマイナカード取得を防ぐために定めたものだ。利便性に配慮しながら安全対策は引き続き徹底しなければならない。
マイナカードにある12桁の個人番号が行政機関などの保有する個人情報とひも付いていることを心配する人も少なくない。
政府はマイナンバーに関する個人情報をひとつの共通データベースで管理しておらず、番号が漏れても芋づる式に情報を抜き取られる可能性は低いと説明する。こうした対応の周知によって不安を解消しマイナカードの普及を進める必要もある。
松野博一官房長官は5日の記者会見で、過去5年間に29件の「重大事態」に該当する漏洩・紛失があったと明らかにした。その上で「いずれも悪用されたとの報告は受けていない」と言明した。
マイナカードの取得率を年齢別にみると20代や30代に比べて40代に低い傾向がある。家庭を持つ働き手が取得しやすくなるよう手続きできる場所や時間を広げることも課題となる。
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