カナダ、緊急事態法発動へ デモ資金源の口座凍結可能に

【ニューヨーク=白岩ひおな】カナダのトルドー首相は14日、トラック運転手らによるデモ隊の国境封鎖が物流の混乱につながっているとして、連邦政府の権限を一時的に拡大する緊急事態法を発動すると表明した。ワクチン接種義務など新型コロナウイルス対策への反対を唱えるデモの取り締まりを強化するため、法執行機関の権限を拡大し、金融機関がデモに関わった個人や法人の銀行口座を凍結できるようにする。
同法の発動は1988年の制定以来初めて。トルドー氏は「連邦政府には状況を完全に掌握し、国境の再開を保障する責任がある」と述べた。同法に基づき、封鎖や占拠など違法で危険性の高いデモを取り締まる警察権限を拡大させる。罰金や禁錮などの刑罰の適用拡大が含まれる。連邦警察の王立カナダ騎馬警察(RCMP)に自治体の条例を執行する権限を与え、道路を塞ぐ車両の移動など必要な支援を提供する。
金融機関に対し、違法な封鎖に関わる資金調達や支援のための財産の使用を規制したり禁じたりするよう求める。フリーランド副首相兼財務相によると、銀行が裁判所の命令を必要とせずに、デモに関わった個人の口座を凍結したり、自動車保険を停止したりできるようになる。違法な封鎖に関与したトラックを保有する企業の法人銀行口座の凍結も可能となる。
テロなどを目的とした資金調達に対する一連の法規制の対象をクラウドファンディングのプラットフォームや暗号資産(仮想通貨)にも広げる。カナダの首都オタワで1月末に始まった「フリーダム・コンボイ」と呼ばれるトラック運転手らの抗議活動をめぐっては、複数のオンライン資金調達プラットフォームを通じて支援者からの寄付を集める動きが広がり、運営企業による返金対応や、裁判所による凍結命令などにも発展した。
トルドー氏は緊急事態法の適用は「時間的、地理的に限定され、対処すべき脅威に見合った合理的な範囲に限る」と説明した。緊急事態法を使えば特定の場所での一時的な集会の停止なども可能だが、軍隊の投入や、言論の自由や平和的な集会など基本的人権そのものの制限につながることはないと強調した。
戦時下の政府の権限拡大に由来する緊急事態法は非常事態に対応するために政府の権限を一時的に拡大・追加する。前身となった戦時措置法はカナダの歴史上、3度のみ使用された。2度にわたる世界大戦に加え、1970年に東部ケベック州の分離独立を求める過激派が州閣僚らを誘拐する事件を起こした際、トルドー氏の父親で当時の首相だった故ピエール・トルドー氏が発動に踏み切った。
カナダ議会は政府による緊急事態の発動を7日以内に承認しなければならず、議会はその発動を撤回する権限も持つ。少数与党のトルドー政権による発動には野党の協力が不可欠となる。新民主党のシン党首は14日、議会での通過を確実にするために、発動を支持する考えを明らかにした。
米中西部ミシガン州デトロイトとカナダ東部オンタリオ州ウィンザーを結ぶ「アンバサダー橋」は13日夜(日本時間14日)に再開した。カナダの警察当局が橋を占拠していたデモ隊を排除し、往来を再開させた。ただ、オタワや米カナダ間の複数の交通拠点で、ワクチンの接種義務やトルドー政権の新型コロナ対策に反発する市民らのデモが続いている。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)