富士フイルム最高益 21年3月期最終、ヘルスケア上振れ
富士フイルムホールディングスは9日、2021年3月期の連結純利益(米国会計基準)が前期比28%増の1600億円になりそうだと発表した。従来予想を350億円上回り、最高益を更新する見通し。医薬品の受託製造など、成長分野であるヘルスケア事業が上振れする。先行投資が本格的に収益に貢献し始めており、出資してきた医療関連企業の株式で評価益や売却益が上がるのも利益を押し上げている。
「事業構成の最適化やコスト管理に取り組む一方で、ヘルスケアの積極投資を決めるなど、メリハリをつけ経営のかじ取りをしてきた」。助野健児社長は同日のオンライン会見で自信を見せた。従来まで据え置く方針だった年間配当額は5円増の100円と、11期連続の増配を計画する。
21年3月期の売上高は前期比6%減の2兆1800億円を見通す。新型コロナの感染再拡大などを受け従来想定より300億円引き下げた。その中でも利益を押し上げる理由が2つある。一つは富士ゼロックスの完全子会社化で非支配株主へ利益流出がなくなったこと。もう一つはヘルスケアの好調だ。
ヘルスケア事業は今期、各事業の中で唯一、増収増益を見通す。市場が伸びているバイオ医薬品の開発、製造受託(CDMO)の売上高が大きく伸びている。バイオ医薬に必要な培地を提供する再生医療分野も好調で利益が上振れする。
営業利益の構成比を見るとヘルスケア事業の成長力が際立つ。21年3月期時点で全体の29%(全社調整前)を占める計画だ。産業材料などを手掛けるマテリアルズ部門(27%)を上回り、事務機などを手掛けるドキュメント事業(37%)に迫る。オフィス需要の低迷から同事業の営業利益は32%減る見通しだ。
これまで投資してきた医療関連企業の株式売却益なども利益を押し上げた。10年に出資した診療データベース企業のメディカル・データ・ビジョンの株式を20年に売却するなどし、4~12月期には「持ち分証券に関する損益」が397億円のプラス。21年1月末には帝人のTOB(株式公開買い付け)に応じ、再生医療子会社のジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの株式を手放すと発表している。
富士フイルムは医療関連についてさらに「事業ポートフォリオを最適化する」(助野社長)方針だ。例えばCDMOは大型の製造設備を必要とし投資決定からライン稼働まで3年近くかかる。20年度には計3000億円超の設備投資を発表し、今後も投資先行の局面が続く。ヘルスケアの中でも成長期待の高いCDMOなどに経営資源を集中する構えだ。
さらなる戦略投資を続けるためにも、事務機やカメラなど市場環境の厳しさが残る事業領域でもキャッシュを稼ぎ続けなければならない。会社全体で稼ぐ力を高めるための「メリハリ経営」がより重要さを増しそうだ。