内田日銀副総裁の発言後、円キャリーで一勝負の下心も
函館発の内田真一・日銀副総裁発言が、外電に載り、世界の投資家の注目を浴びた。
「ハコダテとはどこか。何か、意味がある場所なのか」
「日銀副総裁の発言は、どの程度の重みがあるのか」
初歩的な質問が相次ぐ。
短期運用のヘッジファンドと色々会話を重ねてゆくうちに、ふと、彼らの下心に気が付いた。
日銀の利上げ示唆だけで、過去最大の日経平均株価の下落が誘発され、その心理的影響は世界の市場に拡散され、結果的に日銀が「株安をふりまく」がごときの悪役扱いをされている。低金利の円を借りて米ドルなどの高金利通貨に投資する「円キャリー取引」の巻き戻しを迫られ、巨額の損失を被った彼らから見れば、日銀が恨めしいのだろう。
そこに、天からの救いのごとく、利上げ慎重論が発せられると、「まだ、円キャリーは使えるかも」との発想が生じる。いかんせん、ニューヨーク(NY)市場のトレーダーのほとんどは、どこからか貸金調達をしたうえで、株・外為・商品を売買する立場にある。円キャリーがダメならスイスフラン・キャリーという選択もあるが、なにせ流動性が小さな通貨だ。
やはり、米ドルを調達する以外に現実的選択肢はないか、と思われた矢先、7日には米国債入札不調のニュースが流れ、ドル金利が上昇した。3カ月ドルを借りるのに年率5.2%の高金利を支払わねばならない。なお、ここで3カ月を引き合いに出したのは、米大統領選挙の結果が出るまでの市場の不安感に乗じて、投機マネーが資産価格に影響を与えやすい市場環境があるからだ。
内田氏の発言により、3カ月程度は日銀の利上げに「執行猶予」が見込まれるなら、円キャリーでもう一勝負、という「下心」が醸成されても不思議はない。
とにかく、今のNY市場では不透明感が強い。10年債と2年債の利回り格差も、わずか0.01%と、ほとんどパリティー(同水準)だ。3.95%という、4%に限りなく近い3%台で見合っていることも、ドル金利が上昇か下落か、市場が測りかねていることを示唆している。
日本人が気になる円相場も、NY市場では、日本より円安派が相対的に多い様相だ。ただし、あくまでも、3カ月限定の予測である。
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が金利先物の値動きから市場が織り込む米政策金利の予想を算出する「Fedウオッチ」に基づく米連邦準備理事会(FRB)の利上げ確率も、年内125bp(ベーシスポイント、1ベーシスは0.01%)の利下げを見込むとされるが、この数値が曲者(くせもの)だ。2024年初には年内7回近くの利下げが見込まれていたのに、インフレ指標悪化で、極論として年内利下げ見送り説まで飛び出した経緯がある。そのたびに振り回されてきたファンドマネージャーにしてみれば、利下げ確率は、「瞬間風速」程度に見る傾向が強まっている。
日経平均も、引き続き、株価指数の短期モメンタム(勢い)に乗り、高速度取引を駆使する超短期運用ファンドの売買に揺さぶられる展開が続きそうだ。

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