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[社説]岸田文雄首相の所得減税指示は疑問だらけだ

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人気取りにもほどがある。岸田文雄首相が10月末に策定する経済対策の柱として、与党幹部に時限的な所得税減税の検討を指示した。経済成長で増えた税収を「国民に還元する」というが、必要性にも一貫性にも欠けるバラマキの発想は改めるべきである。

国の歳入が歳出を大幅に下回る中で、税収増は赤字削減に回すのが筋だ。基幹税の所得税に手をつけるほど厳しい景気状況なのか。減税の一方、増える防衛費や少子化対策費を賄う安定財源の確保はどうするか。疑問は尽きない。

日本経済は需要不足がほぼ解消し、大規模な景気刺激策はむしろインフレ圧力を高める恐れがある。政府も歳出構造を「平時に戻す」と新型コロナウイルス禍以来の膨張を改める方針を示している。減税は流れに逆行する。

物価高に困窮する所得の低い世帯への支援は必要だろう。ただ、こうした層では所得税を払っていない人々も多く、減税の恩恵は届かない。与党は並行して給付金の支給も検討するが、いまの「住民税非課税世帯」の線引きでは十分に的を絞れないのが実態だ。

富裕層にも恩恵が及ぶガソリン補助金などは物価高対策として継続の方向だ。所得税減税を加えれば、バラマキ色は一層強まる。

政府は減税を物価上昇に賃上げが追いつくまでの「つなぎ」と位置付ける。だが減税は与党の税制調査会で年末に決め、関連の法律を成立させねばならない。恩恵が生じるのは来春以降になろう。消費でなく貯蓄に回る可能性も大きい。期限通り減税をやめられるのかどうかも疑問が残る。

昨年、防衛費の大幅増額を決めた際、首相は「国債は未来の世代に対する責任として取りえない」と財源確保を明言した。政府は法人、所得、たばこ税の増税方針を決めたが、与党内の慎重論で法制化は進んでいない。首相は減税と増税を同時に進める気なのか。

首相は有権者に増税論者とみられるのを気にしているという。22日には衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の補欠選挙がある。減税をいち早く打ち出せば、政府・与党への評価が上向くと考えているのなら大いに疑問である。

足元の経済対策と基幹税見直しの議論は切り分けるべきだ。中長期の財政や社会保障の持続性に不安が残るなか、政治が場当たり的な負担軽減に走るのは、将来世代に対してあまりに無責任だ。

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