サッカー日本代表、W杯8大会連続出場へ大きな山を越す
サッカージャーナリスト 大住良之
中国のブランコ・イバンコビッチ監督は、できることをすべてやった。
19日に行われた2026年ワールドカップ(W杯)北中米大会アジア最終予選。3-4-2-1システムで圧倒的なサイド攻撃をかける日本に対し、中国は4-3-1-2システムで状況によっては「6バック」ぎみに守る戦術をとったこと。さらには、タッチラインを通常より1.5メートルも内側に引き、通常なら68メートルの幅があるピッチを65メートルに縮めるという、あるまじき手段まで講じて、日本のサイド攻撃を阻止しようとした。
だがそれでも日本は勝った。3-1というスコアは少し物足りなかったかもしれない。終盤に交代出場した古橋亨梧(セルティック)が4点目を取っていれば、ストーリーは完璧過ぎるほどだっただろう。しかしそれは欲張りというものだ。
日本は15日にインドネシアを4-0で、そして19日には中国を3-1で下し、この予選のヤマ場とも言える「アウェー連戦」を連勝で乗り切った。これで2026年のW杯を目指すアジア最終予選10戦のうち6戦を終わって5勝1分け0敗。勝ち点を16に伸ばし、すべて勝ち点6となった3位以下に10ポイントもの大差をつけた。残りは4試合。これで、ともにホームで戦う来年3月の連戦(バーレーン、サウジアラビアと対戦)でW杯8大会連続出場を決める可能性が濃厚となった。
ただ、どちらの試合も簡単ではなかった。インドネシア戦では試合開始直前に降り始めた激しい雨でリズムが出ず、逆に相手のロングキックの処理を誤って先制点を献上しかけたピンチもあった。しかしGK鈴木彩艶(パルマ)の落ち着いた守備でしのぐと、30分過ぎからの連続得点で2-0とし、後半立ち上がりに3点目、さらに後半半ばにはこの最終予選初出場のDF菅原由勢(サウサンプトン)が豪快な4点目を決め、結果的に圧勝という形になった。
相手より1日少ない「中3日」、しかもインドネシアのジャカルタから中国のアモイへの移動で1日を費やした中国戦は、先発を5人代えて臨み、最初はさまざまな理由でうまくいかなかったが、39分にCKからFW小川航基(NECナイメヘン)が豪快なヘッドで先制、前半追加タイムにはやはりCKからDF町田浩樹(サンジロワーズ)が流したボールにDF板倉滉(ボルシアMG)がとびこんで頭で決め、あっという間に2-0と差を広げた。
この2試合で示されたのは、現在の日本代表の憎いばかりの「試合運びのうまさ」だった。インドネシア戦では、先制点を取った直後に相手が負傷で1人欠け、交代に手間取る間に強引に攻めて2点目を決め、後半には、気を取り直して果敢に出てきた相手に対し、立ち上がりに3点目を入れてその気勢をそいだ。
そして中国戦でも、49分にミスをつかれて中国に1点を許すと、わずか5分後に3点目を決めて再び2点差をつけ、そのまま試合を終わらせたのだ。
中国戦が中3日となったのは、インドネシア戦を1日遅らせて欧州組のコンディションを少しでもいい状態にしたかったからだ。相手のインドネシアも同じ状況だったので、試合を1日遅らせることに同意した。
この日程を決めた時点で、森保一監督は2試合の攻撃陣の編成プランを頭に描いていたに違いない。メンバー発表直前の試合でFW上田綺世(フェイエノールト)が負傷で欠場となるという痛手があったが、10月までの試合でサブとして良いプレーを見せていた小川を軸にすることにし、両サイドのウイングバックと、「シャドー」と呼ばれる2人のインサイドの選手はほぼ完全な「ターンオーバー」をやって見せた。
前線の選手で2試合連続先発は、小川のほか、シャドーの南野拓実(モナコ)だけ。しかしその南野も、インドネシア戦では前半だけで交代させて温存してあった。右のウイングバックは、インドネシア戦では堂安律(フライブルク)、中国戦では伊東純也(スタッド・ランス)、左は三笘薫(ブライトン)から中村敬斗(スタッド・ランス)、もうひとりのシャドーは鎌田大地(クリスタルパレス)から久保建英(レアル・ソシエダード)へと大きく代えた。
3バックの中心として活躍してきた谷口彰悟(シントトロイデン)がやはり負傷で招集できなかったDFラインには、インドネシア戦では橋岡大樹(ルートン)を、そして中国戦では瀬古歩夢(グラスホッパー)を使って乗り切った。
10試合の最終予選のうち6試合を終えての最大の収穫は勝ち点16だが、試合運びのうまさというチームとしての成長も見逃すことができない。さらには、22歳のGK鈴木が大きく伸び、チームに安定感を与えたことは、2024年の日本代表にとって忘れることのできない収穫だった。W杯までに鈴木がもうひと段階伸びれば、日本はワールドクラスのGKを持つことになる。
フィールドプレーヤーでは、29歳のMF守田英正(スポルティング)の圧倒的なパフォーマンスが光った。ボランチとしてキャプテンのMF遠藤航(リバプール)とともに中盤の守備を支えながら、ほぼミスのないプレーでリズムをつくり、必要とあれば前線に出て得点を狙うプレーは、日本に大きなアドバンテージを与えた。中国戦はその守田を使わずに勝ちきったことにも価値があった。
そして再来年のW杯に向けてついに大きく飛翔(ひしょう)するのではないかと期待されるのが久保だ。今回の連戦の直前にスペインリーグで大見出しになる活躍を見せ、いまや欧州のトップクラブから100億円規模で狙われる存在となった久保。中国戦では膠着状態を打ち破る活躍を見せ、すでに別格であることを示した。好調なアタッカーが目白押しの日本代表だが、来年には久保が不動の中心選手になるのではないか。
勝ち点を16に伸ばし、W杯出場をほぼ確実にした「11月シリーズ」。もちろん改善すべき点はいくつもあるが、勝利を重ねながら日本代表が着実に前進していることを示した2試合だった。